今年もやってきたベストハンドレッド。前回はDion式だったが、せっかくなので、以前つかっていたペンネーム「米原将磨」を使ってベストハンドレッドを公開することにした。
毎年反省点があるのだが、今年も前年と同様、自分の中でマンガといった特定メディア媒体やホビー系のガジェットについてぜんぜんサーベイできなかった。マンガについて考えるのは絶対数が足りていないのでどこか上滑りしている語りしかまだできない。また、ホビー系についてはそもそもアウトドアしないし、ありものですませる考え方をしてしまうので、もしかすると自分の仕事ではないのかもしれない。とはいえ、2023年はマンガについて理解をより深めたい。加えて、ゲームもどんどんプレイしたい。やはりゲーム用PCを買うしかないのだが、その金で旅行や研究所を買いたいと思ってしまうので、あえてMac OSでプレイできるものだけやっていくしかないのか……。
また、音楽についてもヒップホップやポップよりのテクノがどうしても優先されてしまった。これはロックに対する関心が著しく低下しているからでもあるが、韓国やタイのロックシーンには注目し続けているので、いつかランクインできるような批評的文脈を構築できるかもしれない。
とはいえ、そうした反省点ふまえつつも、ひとまず500個ほどのコンテンツの中から100個選んだ。また、2023年1月20日公開なので、せっかくなので、1日1個ぶん付け足した。お時間のある方には、ぜひお楽しみいただきたい。
動画でも配信している。文章とはまた違った内容を話していることもあるので、両方でお楽しみいただきたい。
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【パート1】 まだ間に合う、新春コンテンツ振り返り! 2022年良かったコンテンツ120個をランキングにして振り返る!!!!! 米原式ベストハンドレッド2022
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【パート2】まだ間に合う、新春コンテンツ振り返り! 2022年良かったコンテンツ120個をランキングにして振り返る!!!!! 米原式ベストハンドレッド2022
120
ミズ・マーヴェル
Marvel Studios
https://www.disneyplus.com/ja-jp/series/ms-marvel/45BsikoMcOOo
つまらなかったのは確かだけど、アメリカのパキスタン移民文化やモスクにレイドする警察への苦情のシーンであるとか、4話くらいまで普通に面白かった。問題としては、パキスタンにルーツを探しにいき、秘密組織にあい、自分の力のルーツを知り、かつて祖母を助けたのは自分だったという誰が見てもわかる展開をわざわざ何話もかけるべきだったのか、というもの。でも、ご近所ヒーローものとしてもっとパキスタン文化とアメリカ文化の融合みたいなのができたらみたいかも。
119
テレビ放送開始69年 このテープもってないですか?
BSテレ東
https://www.bs-tvtokyo.co.jp/VHSmottenai/
いとうせいこう・井桁弘恵・水原恵理が司会するモキュメンタリーホラー。テレビおもしろいやんって5億年ぶりに思った。2022年12月27日から29日の3夜構成となっているが、だんだん不気味になっていく。「坂谷一郎のミッドナイトパラダイス」という架空の昭和深夜エンタメを中心に展開する。オチが微妙。
118
エルピス
脚本 渡辺あや/監督 大根仁
https://www.fujitv.co.jp/b_hp/elpis/index.html
長澤まさみがまったく笑わないのがとにかく良かった。「日本のドラマも面白いな―」と初めて思ったかも。とはいえ、深く考えさせられたのは「あまりにも何かがたるいのはなんなだろう」というのだ。オープニングとエンディングは非常に優れた演出、カット割りなのに、本編が始まるとなんかたるい。ライティングも良いし、カット割りのテンポもいいし、みんな演技もいいし、なんでなんだろう、と思っていたのだが、全体的に話すことに比重が置かれたドラマなのに、そのときの演出がたるいんだな、と思った。つまり、人が話しているときは、カットバックだけではだめで、表情・別のシーンの回想・仕草・移動といった工夫が必要で、改めて映像ってつくるのはむずかしいなぁと思った。あと、AXNミスリーとともに育ってしまった身としては、物語が一直線すぎてつまらなかった。いや、国家権力=悪、ジャーナリスト=善なんてここまでひねらずにやられても……。
117
TAROMAN
藤井亮
「真剣に命をかけて遊べ」という岡本太郎の言葉を掲げたNHKの短編シリーズ。戦後の日本文化の中で重要なモチーフ、ゴジラなどの怪獣・ウルトラマンを同じく戦後にかけて活躍した岡本太郎に重ねるのはよかった。太陽の塔をウルトラマンに見立てるのは文化的交差を考えるときわめて正しいやりかただし、3分という短さの中でテンポもよかった。画面の編集まで初代のウルトラマンに合わせていくことや、エヴァンゲリオンに影響を受けたカットを作りつつ、ゴジラなど他の特撮のキャラクターもまんべんなくの取り入れていたのがよかった。ただし、結局全体を通じたストーリーがない、鑑賞者に物語化をアウトソースするかたちになっていて「二次創作を喚起ってそういうことだっけ」と疑問に思った。
116
FIFAワールドカップ
自分が知ってるサッカーとはだいぶ違う世界になっていて、どの国の戦いでも面白かった。見ていると、どういう種類の戦略があるかしらないがパターンにしたがって動いているのがよくわかった。フランス文化を学んでいる身としては、Mbappéのようなアフリカ系移民(カメルーン)でセーヌ・サンドニ県で育ったという点が重要。ラップしかり、いま、フランスでもっとも重要な文化はこの地域と人種の問題が関わっている。
115
THE BATMAN
Matt Reeves
https://wwws.warnerbros.co.jp/thebatman-movie/
画面が暗い。とはいえ、夜に活動するバットマンと昼間に歩き回るウェインという対立はよかった。リドラーと警察組織の汚職問題というのが結びつく少しひねった話もよかった。ただ、一番良かったのはバットマンがちょくちょくダサいところ。建物から飛び降りる前に少しびびったり、バスの上に着地しようとするが失敗するとか、人間らしさにフォーカスをあてていた。ただ、リーヴスにしては、カーチェイスとかの単調さが映画を見るのにあきさせている点が気になった。
114
那須川天心 vs. 武尊
RIZIN FIGHTING FEDERATION
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格闘技は基本的に将棋の棋士を楽しむのと一緒。似たようなルールのなかで、非殺傷的に暴力行為をするのを楽しむように見えるが、実は殴り合いの要素以外のところがあると知ると、ゲームとして楽しめる。そして、ゲームはプレイヤーの人生が物語として鑑賞者の中で把握される。というわけで、武尊のように経歴の長いプレイヤーは、那須川天心という今をときめくプレイヤーと戦うことで「かつての自分との戦い」という王道展開になる。
113
果てしない二人
aiko
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EP。毎年一曲は新しい曲がでていて仕事量がすごいけど、今回のEPはよかった。収録曲の「夏恋のライフ」の「半袖長袖迷う日には/昔からあなたが決めてくれた」。習慣と喪失をミニマルに語るのがとても見事。結婚してからのアルバムだがいまでも失恋について語ることができる偉大さこそ、人生をうまく創作に落としこむプロの仕事。また、収録EP『果てしない二人』の「号泣中」は、四拍子を裏拍で刻む、はい、ヒップホップですね。aikoはブルーノートと比較されることがありますが、そうじゃないです。aikoはhiphop。What I’m sayin’?
112
コーダ
Siân Heder
https://www.imdb.com/title/tt10366460/
人生の帰路に悩むもの学園バージョンなんだけれど、C.O.D.Aを主人公にすることで、社会階層や障害者差別を見事に描き出している。例えば、主人公の友達は、放課後に自分の家のバーで働いている。友達になる理由がこうした細かいシーンでよく説明されている。他にも、言葉できない重いを手話のような動きで伝えようとするなど、演出でいい点がたくさんあった。とはいえ、あんなにカッコいい男の子といっしょに自宅で練習するという感覚が自分にはない発想だった。危なくない?でも、背中合わせで練習しようよというアツい演出ですごいよかった。
111
かがみの孤城
原恵一(監督)
https://movies.shochiku.co.jp/kagaminokojo/
年末の映画館を小中学生の主に女性で埋めるのすごすぎるのでランクイン。辻村深月のマーケティング的に完璧な物語の内容(女性の思春期世代の抱える問題と攻撃的な性格をもつ女子生徒との葛藤+読書好き+素敵な男の子が恋人って感じではなく友達として現れてくれる)を支えるアニメーションも、原恵一のケレン味のない丁寧なつくりに支えられていた。一緒に見に行った友人は「パースがおかしい、3D空間ならああならんやろ」と作画に文句をつけていたが、「アニメやからええやんけ」と私がなだめていた。ちなみに、新海誠から技法をもってきたり、エヴァオマージュもあって、そういう点で「自分の好きなものをどうやって作画コストを低くして導入するか」の勉強にもなるいいアニメーションだったと思う。
110
四畳半タイムマシンブルース
夏目真悟
https://yojohan-timemachine.asmik-ace.co.jp
リバイバルはたいてい失敗するが、演劇と小説のマッシュアップということでもともとの作品と離れていたことで別の鑑賞体験ができた。デートに誘うきっかけについて、主人公は受け身すぎでは、という指摘がありえるし、そう思った部分もあることはあるが、わりとその点をカバーするような物語設定にしている点は森見自身の円熟か。
樋口先輩の声が変わっていたことに時の流れを感じした。すべてものは変わり、いつか死にゆく。R.I.P. 藤原啓治。
109
ドライブマイカー
濱口竜介
https://dmc.bitters.co.jp/
アカデミー賞とってから観たので2022年、すまんやで。プロセス自体を作品にしていくという現代的な映画としては、ごく最近で一番おもしろいものだった気がする。けど、話としてはチェーホフのほうが面白いし、いまいち村上春樹を原作にして、他の春樹作品への目配せもないし(収録してる本は参照しているが)、着想というか翻案な気がした。内容としても、「これってだいたい『ハッピアワー』だよね」と思った。しかし、とにかく『ハッピーアワー』に比べてよくもわるくも短くきれいにまとまっていたので、見ごたえのある映画だった。
108
エジソン
水曜日のカンパネラ
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Tiktok対応曲として2022年でかなりすぐれていた。ミスiD出身の詩羽がボーカルになって声質とラップがよくなったというのはさておき、歌詞の意味不明さとメロディのキャッチーさがとてもよかった。この1年後に誰も聞いていない曲でありながら、ファンにとってもアンセムになりそうな曲はなかなか出てこないので、その点ではtiktokらしさみたいなものを超えてた。
107
水星の魔女
小林寛(監督)
https://g-witch.net/
さやわかさんがいっていた通り、立てつけはギムナジウムものと騎士道ものに取材している部分がでかい気がした。なんか百合ものかと思って早合点していた人が殺人シーンに盛り上がっていたが、「ガンダムってどういうアニメだったかご存知でしたか?」という感想。しかし、ご存知でないからこそこれだけ盛り上がったわけだし、それは作りが丁寧な展開が見ている人をあまり飽きさせなかったことや、ツンデレがちょっとずつデレになっていくという性格の変化とイベントの対応が客層リーチを広めていったのだと思う。ちなみに、バージョンアップ後の姿を作中の人が「ダサい」といっていたのは笑った。
106
ライブでギターネックを忘れたやつ
Seiji Igusa
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youtubeのギター系のバズり動画で一番きてる人。もともと、RTA的技巧派やタッピングギタリストが動画で人気で、ここ最近は発想をかえたおもしろ動画を多く出しているが、プロギタリストということもあり、たんによくできている。ちなみに、本当にギターがうまい、というかギターの演奏で食べているプロ。
105
「民藝の100年」展
東京国立近代美術館
https://www.momat.go.jp/archives//am/exhibition/mingei100/index.htm
「民藝」といえば、柳宗悦、濱田庄司、河井寬次郎がイギリスのアーツアンドクラフツ運動に影響を受けて作成した概念。本で得た知識や断片的な展示物でなんとかなく知っていたものが、運動の参加者たちのそれぞれもっていた背景や活動の歴史的思想的背景がほどよく整理されつつ、そのときに評価されていた工芸品が展示してあり、面白かった。ただ、後期の民藝には明らかに植民地主義の問題があるはずなのに、それについては軽い言及でほぼスルーだった点がとても気になった。
104
SIGNALIS
Yuri Stern
https://store.steampowered.com/app/1262350/SIGNALIS/?l=japanese
自分ではプレイしていないが、プレイ動画だけみてエヴァだったのでランクイン、というのはあるけど、こういう感じのゲームはゲーム作りの勉強になるなーと思った。たとえば、ラジコン操作的に画面を限定させること自体でレトロなプレイスタイルを喚起させるので、ピクセルを落としたデザインととてもマッチしていた。これは開発人数が少ないことや予算制約をゲームのデザインによって解決する優れたパターン。大変満足した。
103
ペリフェラル 接続された未来
ジョナサン・ノーラン(脚本・プロデューサー)/リサ・ジョイ(脚本・プロデューサー)/スコット・スミス(監督)
https://amzn.to/3WsHiS5
ギブソンとノーランとジョイ、見るしかないよね、でも大丈夫なのかな、と最近の『ウェスト・ワールド』の情勢から不安しかなかったが、SFとか以前にミステリとしてクリフハンガーすることをすごい丁寧に意識していて良策ドラマという感じだった。この世界で死んで未来にいって過去改変の歴史を選べばいいという発想はパラレルワールドものというより、ゲームのリプレイ的な想像力に規定されていることに対する批判的な乗り越えなので、「え、普通におもしろいじゃん」と思ってしまった。
102
シン・ウルトラマン
監督 樋口真嗣
https://shin-ultraman.jp/
オタクへの目配せがすごい。長澤まさみの匂いをくんくんするのはキツいものがあるし、脚本上、性的な表現をしたいだけだった。とはいえ、こうした感覚は私の好悪の問題でしかないが、本当の問題は、「そのシーンは何の伏線になっているのか、カットをつなぐためにいるのか、というか大して構図も作ってないのに4カット使ってそれやる?」など、随所に物語の進行を阻害する無意味なシーンがたくさんあった。それをごまかすようにカットの早い切り替えなど、『シン・ゴジラ』を意識した作りにしているが、空間設計・ライティング・カメラワークがまったく庵野っぽくないので、この映画によって庵野が実写で何をしているのかよくわかる点で高評価。
101
2010年代ベルクソンブームの総括
12月末に書肆侃侃房から『ベルクソン思想の現在』(https://amzn.to/3IOpPA8 )がでるという驚きの展開。その他、『世界は時間でできている──ベルクソン時間哲学入門』(https://amzn.to/3W7209O )、『ベルクソン 反時代的哲学』(https://amzn.to/3ZADSPR )、『ベルクソンの哲学 生成する実在の肯定』(https://amzn.to/3Hc4Ndv )、『生ける物質: アンリ・ベルクソンと生命個体化の思想』(https://amzn.to/3w1OuK2 )といった著作が次々とでる。ベルクソンは19世紀末のフランスでも最も重要な思想家であり、日本では西田幾多郎もその思想に対して反論しつつ自分の哲学を作っていったところがあり、ずっと読まれてる。その後、日本でフランス文化の輸入のときにベルクソンがついてまわったので、とにかくベルクソンは日本の人文学の中で広い影響がでている。ただ、ひとつだけ不満があって、ベルクソンの生理学的なアプローチを現代の認知科学・行動心理学でやるとか、現代形而上学のアプローチでやるとか、「まぁそうするよね」的なものが多い。日本でもElie Duringみたいなファイバー束といった位相幾何学の概念でベルクソンの時間論をアップデートするといった文理融合の論者がもっとほしいところ。
100
Adoのグローバル展開
Geffen Recordとの契約、すごすぎるでしょ。ちなみに、2020年に「うっせぇわ」のときは「いい声だな」としか思わなかったが、最近は「マジでうまいな」という感想。2020年にはベストハンドレッドをやっていなかったけど、2022年に大躍進したのであらためてランクイン。
99
すずめの戸締まり
新海誠
デジタルエフェクトと3DCG表現がよかった。べらべらしゃべった配信はこちら。https://www.youtube.com/watch?v=aWynn7rOylE
98
「シラスの大地で時事語り」シリーズ
生うどんつちやの「シラスの台地で生きていく。」
https://shirasu.io/t/namaudon/c/tsuchiya/p/20220930191110
私がやってます。毎月最近気になったニュース記事を10とりあげて、ランキング形式にしながら、生うどん土屋さんとニュースの注目ポイントについて話つづける。科学から時事問題、三面記事、ローカルネタまで縦横無尽に話していて、実はそれなりに聞かれているそう。ポイントとしては、やはり科学についてどうしてみんなそんなに関心がないのか、というもの。文化と技術は密接にかかわり、理論探求と実験の繰り返しによってうまれたメディアやインフラの環境変化が文化のありようを変えてきた。これは古代からずっとそう。そうしたことを伝えていけたらと思う。
97
ベルファスト
KENNETH BRANAGH
https://www.imdb.com/title/tt12789558/
日本での公開は2022年3月だったので、公開は2021年だったけどランクイン。少年の淡い恋・経済的上昇のチャンスと逡巡について一つの町「ベルファスト」の中で描ききる箱庭的な映画。物語の進み方も丁寧で、退屈に思える出来事のシーンのあとに両親が喧嘩しているカットを入れる、そのときにPOV視点になるなど、古い映画によくある感じでよかったし、テレビは白黒だけど映画館でみる映画や演劇はカラーという演出の細かさもよかった。とにかく、すべてのカットが計算された設計になっていて、観ていて楽しかった。とはいえ、『アーティスト』のように凝っていたものふくめ、現代のモノクロ映画鑑賞についてときどき考えさせられる。つまり、モノクロ映画であるということは現代の動画時代の中でどのような意味を持つのか、ということだ。これは何かいい論文があるだろうけど、調べていない。
96
モガディシュ
リュ・スンワン(監督)
https://mogadishu-movie.com/
韓国・北朝鮮仲良くしようよ韓国映画のひとつ。ベトナム戦争ものが多いので、アフリカの内戦を事例として使用するようになったと解釈できるだろう。普通に良作。とはいえ、そういうのほんと韓国映画うまいよね、という感想。この手のものだと、『コンフィデンシャル』・『鋼鉄の雨』・『黒金星』とか、10数本くらいあり、もはや神々の頂上決戦のようななかでの評価なので、基本的に見たほうがいい。
95
SPRING VALLEY シルクエール<白>
キリンビール株式会社
https://www.springvalleybrewery.jp/beer/
いわゆるクラフトっぽいビールにふっているなかで、いちばんマイルドに飲めてすごいビール。多くの人にとって、ビールとおつまみなのだろうが、個人的に最初の一杯は純粋にビールを飲みたいので、「一番絞り」のように食事の味を邪魔しないがもう少しシルキーなのどごしで、ヒューガルデンほど癖は強くないもの、という絶妙なラインをせめている。自分向けに出されたのか?と疑ってしまうようなビールだった。
94
東京都新宿区霞岳町
「町の大きさ十数米四方 住宅無いため居住人口0人、唯一あった四谷警察署信濃町交番が建替で信濃町へ2年前くらい前に移転。人口0人建物0件虚無の町になった。」とのこと。住居実態がない町自体は千代田区では珍しくないが、建物0件、というか廃墟もなく本当にただの更地で町名がある東京都23区内土地の存在は東京「府」始まって以来の事件ではないだろうか。もしもあったとすれば、それをテーマにして新書が書けそう。様々なフィクション的な想像が掻き立てられる。
93
このディズニーキャストさん、前職Supremeの店員じゃねえか…?
宮フィのもういいチャンネル
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いわゆる「細かすぎて伝わらない」系の芸人。「おミュータンつ」というコンビの一人。ずっとSupremeネタをやっていた。この回くらいから、「前職Supreme」シリーズを開始。この方法によって、「それぞれの職種の特性」というモノマネという技術向上と、Supremeに異化という演劇的なシチュエーションができるように。レベルが割と高い。なお、十年代前半にかけてのSupreme流行寸前のときの深夜待機列などにもさんかしていたかなりのガチ勢だそうで、昔話も面白い。ちなみに、私はSupremeのロゴのついたものは持ってないし、買う予定もない。
92
ドゥルーズ 思考の生態学
堀千晶
https://amzn.to/3WnoELl
昔、語学の授業でお世話になった先生の初めての単著。博論がもとになっているのでかなり専門性が高い。個人的には、ここ最近読んだドゥルーズ論の中で一番面白かった。とくに注目したいのは、講義録を随所で参照し、ドゥルーズの思考過程によって論拠を補足することで、複数の記述内容に一貫した読みを提示するところだ。ドゥルーズの講義録を使用した研究書は、とくに日本語ではほとんどない気がする。また、ドゥルーズと革命という長らく続いてきたテーマについて、ドゥルーズの「耐え難いもの」とサルトルの「耐え難い苦しみ」を対照させて、知覚と行動の中で政治の主体論を構築していたのだ、というところは整理が見事だった。また、革命に極端に期待するようなドラスティックな世界観をもっていない筆致も、さすが我が先生という感じ。
91
地図と拳
小川哲
https://amzn.to/3IXlACz
今年読んだエンタメで一番面白かった。満州に計画された存在しない都市をめぐって、ボルヘス的な百科事典的存在を、地図というテーマに置き換え、それを戦争と重ねることで歴史的な深みと物語の起伏を生みだしているこの一冊の達成は稀有なものだ。また、軽妙洒脱な言い回しや、登場人物たちの詩的なやりとりにも読ませるところがあり、登場するモチーフやガジェットの物語的な意味づけも丁寧になされていて、長い小説を書く人の勉強にもなるような本だった。とくに、孫悟空が自分の言葉を燃やす一方で、神父の地図だけが残るラストは見事だった。とはいえ、自分にとってはどれくらいよくできていてもラストシーンに詩的叙情がないと読後感に満足できないので、その点は微妙だった。
90
【講義】フォルクローレって何?どんな音楽?ざっくり解説
山下Topo洋平のHappy New Moment
https://shirasu.io/t/topo/c/topo/p/202210122
フォルクローレは楽器や衣装とは関係がなく、リズムとグルーヴこそが重要というの、言われてみればそうなのだけれど、実際の曲の紹介や、リズムとグルーヴを活かして創作した自分の曲のロジックの紹介には感動した。この配信を通じて、自分が詳しいジャンルの音楽が世界的に拡大していくなかで起きていく微妙な差とは何かについてうまく説明するヒントが得られた。そういう理論書もあることにはあるのだが、やはり、実際にリズムとグルーブだけをなぞりつつポップスに仕上げた本人が説明すると、普通に本を読む以上の実感が得られた。
89
နေသာတယ်(ナイサル・タール)
しらこ
https://rakoshirako.booth.pm/items/4361484
画家・イラストレーターしらこの個展。しらこは『ザリガニの鳴くところ』の表紙を手掛けたので有名。文芸系と相性がいい人で、今後も多くのところで活躍しそう。個展では、2019年ミャンマー旅行の経験を描いていた。しらこは、一人の人を描くことと、群像を背景として描くことの両方で優れている。そろそろ買えなくなるほど高くなりそうなので、いまのうちに個展で絵を買っておくとよい。なお、私はほしいやつがすでに買われていたことと、そもそも家に飾る用のコルクボード設置しないといけないので、買わなかった。後で後悔しそう……。
88
第二回フリーペーパー『やうやう』大忘年会
生うどんつちやの「シラスの台地で生きていく。」
https://shirasu.io/t/namaudon/c/tsuchiya/p/20221214213042
鹿児島県鹿屋市のイベント。男女年齢層も多様な参加者がいて、ゲンロン総会感がすごかった。登壇者に日置市長や鹿児島県の県議員、それに対してまた別議員が質問するという政治的空間に、様々な職業の人と、なぜか私が参加していた。その後、著述家もきて活動をしている人たちと議論、ライブあり、格闘技トークあり、という硬軟とりまぜ、すごい。「頭だけいいやつ もうGood night/ブランド着てるやつ もうGood night/メジャーになりたいやつ もうGood night」がキャッチコピー。なお、登壇した私はKIKUCHI TAKEOの上下を来ていたが、good nightするどころか23:00からセッションスタートして、3:30までトークした。それ含めて、ゲンロンという場所を知っている人が、ゲンロンみたいな場所を地方で実現できることを示した最初の例だと思う。そして、日置市長の永山さんはその後、別の配信でもコメントしていて、市長がシラシーということも判明。シラスすごい。
87
ChatGPT
OpenAI
https://openai.com/blog/chatgpt
こちらの記事(https://qiita.us5.list-manage.com/track/click?u=e220ac811523723b60d055c87&id=0a267e1006&e=3dbb9bf4f1 )で概要はまとまっている。
とはいえ、まず、技術とかに関する説明は細かいところがほぼ間違っているし、コードの出力とかも自分で直さないと動かない。使いまわしコード生成するのに便利かもとかいってるけど、そんなんいくらでもコード補完のライブラリおとせばええやんけ、自分ほんまにスクリプト書いとんのか、と思ってしまう。
あと、いわゆるだめなWikipedia記述が多く、道具として優秀とも言い難いと思った。つまり、それらしい文章の羅列について、レポートの文章ていどのものでは困るし、結局下書きを全部直して自分が一から書く未来が見えた。
今後、唯一使えそうな希望点としては、知らない概念とか体系的にぱっと、ちゃんと正確に出してくれるようになってから。Wikipediaの対話形式の理解のようなもの。
ちなみに、ほとんどの人間が確率的思考に相同するかたちで段落を区切って書いていることなんてChatGPT以前からわかっていた話なので、何も新規性がない。
ちなみに、一番欲しいのは、べらべら喋ったら概念図を引いてくれるAI。それができたら本当にすごいと思う。
86
FLIP&DRAW
7SEEDS & GREEN ASSASIN DOLLAR
https://linkco.re/yM9UHABT?lang=ja
「lo-fiっぽいヒップホップってまとまったものないの」という質問に対してはこれ。これを聞くと、流行っているいくつかのトラックの種類のなかで、一部をすべてを明快にしてくれる。重要なのは、lo-fiはレコード的なグリッチ音が入っているが、ヒップホップでは、そういうのがあんまり目立たないし、サンプリングしている音源の存在が目立つ。そんな中で、GREEN ASSASIN DOLLARは“BUDS MONATAGE”で示したように、サンプリング音源をかなり寸断して編集し、それをピアノサウンドと統合させる高度な技法を使っている。そうした技術の妙を楽しむことのできるおすすめのアルバム。
85
NewJeans(뉴진스)
https://newjeans.kr
90年代リバイバルをかなりわかりやすいかたちでやっている。アイコン化され、ノスタルジー化され、ガジェットとなった90年代を40代の女性プロデューサーが10代の子にやらせるというなんか歪んでる気がしなくもない点が逆に面白い。Y2Kフアッションの再流行に合わせてるだけということもあるが、Windows XPの画像読み込み速度の遅さをアイドルの公式ページで再現してて、丁寧といえば丁寧だが、「それ誰が求めてるの」感がすごくて大丈夫なのか、と心配になる。あと、十代でデビューして人生決まると再学習とか難しい気がする(日常的な生活が送れなくないか)ので、そのあたりのケアってどうなっているのか気になる。
84
Sandora’s Son
CHICO CARLITO
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CHICO CARLITOは単なるバトルがうまい人と思っていたら、屈折10年で素晴らしい曲を作り上げてきた。沖縄音楽の独特のグルーヴでフロウを構築し、細かく韻を刻むスタイルは他にない面白みをもっている。“Ryukyu Style”は2020年に発表されたさいにまさしく沖縄的なラップを感じさせてくれたが、CHOUJIと柊人とのRemixもかなり完成度が高く、とくにCHOUJIのフロウもまさしく沖縄的で、ある種のジャンルが確立しているのを示してくれた。
83
Dr. ストレンジ マルチバースオブマッドネス
サム・ライミ
https://marvel.disney.co.jp/movie/dr-strange2
サム・ライミといえば、『スパイダーマン』だとみんな思ってるけど、やっぱゾンビでしょ。ゾンビはヴードゥーといったオカルトミームに由来しているので確かに相性いいかもしれない、というは置いておいたとしても、死体の遠隔操作をするところなど、かなりしびれた。また、MCUではとにかく女性が犠牲になるという問題点を浮き彫りにした点も良かった。別に夫婦に子どもいないってそんなにマイノリティでもないんだけど、子どもにこだわる母親像みたいなものをマーケティング対象にしているからなのかな、と思った。よく考えると、MCUってシリーズと作品の構成みたいなものとしてはすごく良くできているけど、そもそも対象層はミドル・エイジのマジョリティかつ、ファミリー層総取りだし、こんなものなのかな、という感想。個人的には、ディズニー作品をオマージュした音符の戦い(ようは、『ファンタジア』)とか、とにかく魔法のバトルや次元移動を言い訳にピーキーな表現をやっていたのが良かった。
82
悪党の詩(Remix)
Red Eye & D.O.
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大阪出身のRed Eyeに練馬区出身のD.O. がフューチャリングして、まさかの「悪党の詩」をREMIX。Red Eyeの歌詞には、D.O.へのリスペクトが非常に多く、歌詞の構成がよくできている。ただ、このコラボは非常に考えさせるものがある。D.O.は都内の90年代サバイバーであり、もろに景気退行を受けていた。ちょうど20歳ほど年下の2010年代サバイバーのRed Eyeは、ほとんど同じ境遇を生きてきた。マクロには、株価の上昇・円高・ゼロ金利政策・36協定など2010年代は比較的躍進した年だったが、Red Eyeはまさにここで生じた貧困世帯の拡大に合わせて登場してきたといえる。今、ヒップホップで中心的な役割をもっているほとんどのアーティストが似たような環境出身であることを考えると、この曲の意味するところがとても大きいところがわかる。
81
稲川淳二がAppleサブスク解禁
apple music
https://music.apple.com/jp/artist/%E7%A8%B2%E5%B7%9D%E6%B7%B3%E4%BA%8C/86912098
ここ10年ちかくの怪談ブームの帰結。動画でホラーを見るよりも手軽。ほどほどに不気味な話がよくまとまっている。近代的な怪談のほとんどは人間がもっている認知的バグ(ここで人が死んだので、なんとなくいたくない)を利用しつつ、解決不可能な不条理に巻き込まれいくというもの。たぶん、演劇でいう「悲劇」みたいなものの一種といっていいと思う。なので、怪談はずっと人気だが、メディアの変化やホラーブームみたいなものが散発的におきていて根強いカルチャーシーンを形成している。落語などもどんどん解禁になっているので、次は謡とかやってほしい。浄瑠璃など、朗々と読み上げるものがたまに聞きたくなるのでいろいろ解禁してほしいこの頃。
80
RENAISSANCE
BEYONCÉ
https://music.apple.com/jp/album/renaissance/1630005298
“BREAK MY SOUL”はすごかった。Robin Sの“Show Me Love”(’93)をサンプリングした。もとの曲もソウルに、キレキレのエレクトロを導入したかなり先進的な曲だったが、それをさらにBig Freediaの“Explode”(2014)を重ねるという離れ業。プロデューサーをしているTricky Stewart、The-Dream、そしてBeyoncé本人の頭の中を覗いてみたいくらい斬新な発想。“CUFF IT”についても、ファンクをここ5年くらいのR&Bサウンドに取り入れつつ、ポップス化していてビビった。
79
ウェンズデー
ティム・バートン
https://www.netflix.com/jp/title/81231974
90年代を代表するホラー・コメディの『アダムズ・ファミリー』にでてくるウェンズデーが主人公。正直、『アダムズ・ファミリー』はまったく好きではないのだが、予告編をみて「これは、ワンチャン「ハリー・ポッター」ではと思って確認したらやっぱり『ハリー・ポッター』だった。そして、かなりうまいと思った。『ハリー・ポッター』と同様に家族の謎をめぐる話にしつつ、ウェンズデーが主人公であることもあり、賢さとストイックさによってどんどん物語が駆動するので、シリーズものとしてとてもすぐれている。全能チート系主人公だが、コミュニケーションに難がありすぎるため、そこで随所に笑いが仕込まれているといった演出も見ていて気持ちがいい。90年代リバイバルものだが、時代背景も現代に合わせているといった工夫もあるし、その中でもかなり良かった。
78
『伊勢物語』六十段「花橘」小論―女子大学の教室から、注釈のジェンダーバイアスを考える―
大津直子
doi/10.15020/00002246
「同志社女子大学日本語日本文学」34号 2022/6収録されていたこの論文は自分が待っていた内容なので本当によかった。昔から古典を読むのは好きだったのだが、ときどき、女性が出家することになる話のときの様々な理由で「解説が一行も理解でない」というのがあった。一言でいえば、「それってお立場表明に過ぎないし、この文章の背景にある文化風習でもないみたいだし、解釈じゃなくない?というものだ。この「花橘」の従来の解釈もその典型で「女は基本的に男を金で選ぶにきまってるから、純粋な恋愛に負けた反省で出家やろ」みたいな解釈で「は?」と思っていたのに、丁寧なテキスト解釈によるかなり納得のいく回答として「女性が自由に意思表示し、抵抗することができる手段として出家があった」を導いていて、専門外の論文の中で一番読んでよかった。
77
【特別番組】日銀は政府の子会社?ー会計と経済から考える貨幣理論
飯田泰之のシラス経済ゼミ
https://shirasu.io/t/iidayasu/c/iidaecon/p/20220707122447
ウクライナ戦争になり日本経済の雲行きが怪しい中で、日銀は政府の子会社という認識について改めて考える回。貨幣理論はたいていの場合、サプライとデマンドの観点から説明されるが、会計から考えることによって中央銀行の機能もよくわかる。また、暗号通貨の仕組みを支えるプルーフ・オブ・ワークは、決済の事実だけが残るというラディカルな世界観を提示していることを会計の概念で前田順一郎がうまく説明するところも重要。
76
サイバーパンク2077:エッジランナーズ
今石 洋之
https://www.netflix.com/jp/title/81054853
脚本は日本人がまとめているが、構成にBartosz Sztybor/Jan Bartkowicz/Łukasz Ludkowskiの三人が加わっていて、今石作品なのにまったくトリガーっぽくなくて感動した。いつもの今石・トリガーだと、ハードボイルド的に男が一人でさまよっていくだけなのだが、男女の役割を逆転させつつ、しかも、きちっともっていた目標を叶えるのだが、その目標それ自体が明らかに空しいものだったということを恋愛と人間関係の破綻によって描くというのがとてもよかった。しかも、「お互いのために頑張るがそれゆうにすれ違っていく」という普遍的なモチーフをストレートに表現していた。サイバーパンクという箱を使って自由な表現がまだまだできることを教えてくれたし、今石・トリガーに対するイメージも少し変えてくれる良作。
75
anéantir
Michel Houellebecq
https://editions.flammarion.com/aneantir/9782080271532
すごい苦労して読んだ。もともと、パラ読みで済まそうかなと考えていたが、ベストハンドレッドが1月発表にのびたので、年末・お正月も全部潰してひたすら読んだ。新年初読書がウェルベック、辛さしかなかった。とはいえ、フランス語学劣等生でも読めるくらい文章がわかりやすくてやばい。たぶん、読者層を広げようとしている。そんな今回だが、いわば「無駄に洗練された無駄のない無駄な動き」みたいな内容だった。『服従』と『セロトニン』では暴動を描いたウェルベックだけど、今回のanéantir ではテロそのものが描かれる、全体の2割くらいで。その少なさはなぜかというと、オカルト・陰謀論的味付けとフランスの伝統的古典作品=バルザックの換骨奪胎がメインになっていて後者の比重がとても重いから。とはいえ、「階級固定したフランス社会で安全保障やってる官僚も親子二世代だし、結婚やパートナーも官僚どうしで、実質血縁でまわってるよね」みたいなのをうまくバルザックの作品とマッシュアップしたみたいな内容。翻訳出るかかなり怪しいけど、出たらでたで、文学好きの人にはおすすめだけど、そうではない人はスルーしてOK。
74
A Decisive Blow to the Serotonin Hypothesis of Depression
Christopher Lane Ph.D.
https://www.psychologytoday.com/us/blog/side-effects/202207/decisive-blow-the-serotonin-hypothesis-depression
ウエルベックといえば、『セロトニン』。というより、心療内科と薬は映像でも小説でも一大ジャンルを形成している。その中でもセロトニンが鬱に効くので、セロトニン再取り込み阻害することでセロトニン量を増やすことが行われてきたが、鬱の症状そのものには実はセロトニンが効かないのでは、という衝撃的な論文誌にのった記事(査読してるどうかわからないが信頼性が高い)がでた。鬱をひたすら人生の複合的な要因によって説明してきた文学の勝利でもあるし、ちゃんと寝て一日三食食べれば実はなんとかなることを示しているのか。どちらが正解かは不明だが、まさに「病の表象」と「医学的知識の常識」が乖離する稀有な事象だった。
73
時間と偶然研究会
https://www.youtube.com/@time.contingency/videos
去年の脱構築研究会に続く、ドープな発表が聞けるフィルカル系の人が主催している。デザインについて、2021年ベストハンドレッドでとりあげた脱構築研究会と基調が異なっていて、それぞれのジャンルを代表しているようで興味深い。米田翼が出演している回があるので、ベルクソン研究が現代形而上学と強い結びつきがあることなどわかる。なお、私はジミー・エイムズを応援している。
72
アンスコム
『インテンション』(https://amzn.to/3wgOFRG )の翻訳が3月に発売され、9月には『思想』でも特集。SNSでも、アンスコムがこんなにツイートされていること自体に驚く。中根杏樹「実践的推論の合理性と論証の妥当性 : アンスコムの「実践的推論」再考」が、松永伸司に論文をTwitterで紹介されるなど、多方面で注目が集まった。とはいえ、なぜアンスコムについて考えると少し考えてしまう。つまり、「意図と行為の結びつき、そこにある倫理的基準は何か」というメタ倫理学ブームの今年の流行なのかもしれないが、アンスコムはトルーマンの原爆投下の命令書にサインしたことを激烈に批判しているので、そうした批判ロジックが作りやすいということがあるのかもしれない。いずれにせよ、「知っているし、議論の前提くらいは理解しておいたほうがいいよね」といった哲学者が「え、読んでないの?」のモードに変わったのがわかりやすい経験だった。
71
Mirror
ちゃんみな
VIDEO
高校生RAP選手権で名を挙げたちゃんみな。First Takeにも出るようになり、頑張っているとは思っていたが、韓国ポッブスに影響を受けすぎていて独自性がどんどん薄れていっているなと思っていたときにでたのが「Mirror」だった。ゼロ年代に流行したSkate punkやJ-Rockのうち、メロディラインがシンプルなものを参考にしつつ作り上げたような韓国語の楽曲でかなりかっこよかった。ラッパーがここまでロックを歌いこなすのはもともともっている歌唱力の強さの賜物であり、ちなみにダンスもふつうにできる人なので、今後もっと伸びていくと思う。
70
三木那由他
すごい仕事量。1年に3冊も出してる。素直に尊敬。グライスに限らず、コミュニケーション理論の大きな流れを作った。『言葉の展望台』では、哲学エッセイなのだが、自分の意図が伝わらないことよりも、「誰か/自分の発言に傷つけられてしまうかもしれない」といった点を強調するといったように20-30代的感性にうったえたエッセイになっていて感心。とはいえ、一応文学研究や批評をしている立場からすると、意外な展開みたいものがない共感型のものは続かないので、この手ものを書きたいなら、筋の交差と意外な展開などを導入していく必要がある。とはいえ、そういう小言を言いたいくらいしかない良い本ということ。仕事をし続けるのは大事だけど、あんまり働きすぎると体に悪いので適度に頑張ってほしい。
69
R. R. R
S・S・ラージャマウリ
VIDEO
ナショナリズムそのものみたいな映画だったが、あまりにも高度に達成されていたので驚いた。ラージャマウリは、アクションについて『バーフバリ』で圧倒的な達成をしたので、ダンスシーンについて高度な工夫がなされていた。普通、30fps前後で撮影することはないのだが、スローモーション撮影で用いる50fpsからは少し下げつつ、手の動きなどの細かい動作がキビキビしてみえるという絶妙なフレームレートを見つけていて、それが映像の緩急を生みだしていた。ライティングが一流だったからこそ可能だったろうし、それはアクション撮影の過程で見出していったものなのだろう。ただ、どう考えても『バーフバリ』のほうが面白かったのは事実。
68
3:03 PM
しゃろう
VIDEO
2014年から活動していて、2022年に大ブレイクしたしゃろう。聞けばどこかで絶対に耳にしたことのある楽曲。会社員だそうで、本職ではないそうだが、かなり理知的な構成をしている。耳に残るフレーズもさながら、展開部分も聞かせどころをつくっていて、リフレーズ部分の繰り返しも盛り上げがある。参照先としてはゲーム音楽のとくに、エレクトロ系全般と思われる。Safuやinoiが好きと言っていたけど、それらに対してしゃろうは圧倒的に音の重ね方がうまい。こうしたゲーム音楽とか、ゼロ年代Akufenあたりのミクロハウス後半の世代といった音楽も背景にありそうだが、系統整理を追うだけで楽しそう。
67
星占い的思考
石井ゆかり
https://amzn.to/3iGLbVr
12月で5刷り。結局のところ、彼女は星座占いをしていない。限りなく詩人に近い、エッセイストであり、批評家である。この自己啓発ほど煽らず、しいたけ占いほど論理構成や修辞表現が破綻していないが、奇妙なメタファーを駆使して読み物を書き続ける謎の人。例えば、「[星占いは 筆者注]人間の脳みその「ごまかされやすさ」と同程度に、インチキである可能性が高い。「統計学」は歴としたサイエンスだが、少なくとも今のところは、星占いに科学的な裏付けはない」(kindleより)だとか、「象徴でできた世界に棲み、運命を生きることをやめられないからだ。そして文学は、象徴と運命の世界である。象徴と運命から離脱しようとする文学作品もあるだろうが、それすらも、重力と戦って大気圏に出ようとする程度には、重力をテーマとせざるを得ない。ゆえに、文学の世界観を「星占い語」で解釈し直すことは比較的容易だ。」(kindleより)だとか、かなり批評的である。
なお、この本ではないが、私が好きなのは『蟹座』の次の一節。「激しい怒りや深い悲しみにも時間薬は霊験灼かです」。私は「時間薬」の意味をほとんど理解できていないが、パンチラインなのは間違いない。
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【ゲスト】視聴者「diontum」さんが山下Topo洋平のビートに乗せてラップを制作!世界初!?南米リズムの日本語ラップの爆誕!?
山下Topo洋平のHappy New Moment
https://shirasu.io/t/topo/c/topo/p/20221009
最初に言っておくと、私と友人で作った曲がいいのではなくて、コンテンツの背景についてでランクが上ということ。その背景とは、シラスで初めて開設された音楽チャンネルで、初めて視聴者がミックスまで作曲し、2022年にゲンロンでも美学校でも取り上げられたhiphopだったということで、初めてづくし+批評の流れを踏まえたものとなっているからランクイン。なお、オチとしてはフォルクローレの曲ではない。リベンジとして本当にフォルクローレの曲を作成中。EP売るかも……(CD作ったことのないのでよくわからない)。
65
ベイビー・ブローカー
是枝裕和
https://gaga.ne.jp/babybroker/
あんまり話題にならなくてびびったけど、ペ・ドゥナっていい俳優だよね、と再確認する映画。是枝監督の中では正直一番これが好き。『万引き家族』やケン・ローチのような階級社会と貧困の閉塞感の先として、希望を描く作品。養子についての議論とか知っているとぜんぜんご都合主義とかには思えない最後の展開だった。カメラワークも撮影監督が韓国人で、いつもの是枝の画面ではないような洒落たカットが随所にあって観ていて新鮮だった。しかし、ぜんぜん評判が聞こえてこなくてびっくり。ちなみに、日本よりはるかに人口の少ない韓国では100万人動員していて、日本は1万人とのことで、韓国語の映画であるということ以上の何かを深く考えさせられた。
64
世界はおもちゃ箱
米原将磨
http://www.seidosha.co.jp/book/index.php?id=3741
私が書きました。今井哲也の読み方としてはいまいちかもしれない。ただし、ガジェット文化論の展開をした批評はたぶんこれ以外に存在していない。ガジェット、もっと言ってしまうと、物語の中で小道具(巨大なロボットも小道具)としてでてくる「おもちゃ」というのは存在そのものが批評的で、美学の中でもゲームについて論じることがここ十年で世界的にも当たり前になった。とはいえ、おもちゃの「遊ぶという目的のために作成されているが、日常的な実践のために何一つとして役に立たないものであり、かつフィクションの想像力を構築するもの」という存在について語る言葉まだまだ足りない。というのも、おもちゃの遊戯性についてみんな話すことができるのだが、おもちゃの物質的な形態の文化的な説明というのがまだまだないから。米原個人としては、ほぼプラモデルの制作経験はないが、その造形や語る言説自体は非常に興味深く、美術批評の文脈で把握しようとしている。その緒として書いた批評がこれ。
63
余計なことで忙しい
藤原麻里菜
https://marinafujiwara.persona.co/
『文學界』で2022年1月号から連載されている。藤原麻里菜は無駄づくりで有名。役に立たないユーモアのある製品をつくり続けている。現代のロクス・ソルスみたいな感じ。ある意味でおもちゃをつくりつづけているというわけで、決してモダンアートというわけでもないのだが、「機能の自立化とそのズレのユーモア」みたいなことをできていて、それがよいのだが、文章もかなりうまい。私のお気に入りの回は、友達と寿司パーティーすることになって寿司の握り方を料理教室で覚えるのだが、友人に妊婦がおり、自分のお手製の寿司は遠慮して食べなかったのだが、後日、インスタか何かで高級寿司店に行っていたがわかり、ちょっとイラっとしたという話。切ない。
62
マンガを鉄道で読む人たち―モダニズムのパロディとしてのキッチュ
三輪健太郎
https://amzn.to/3XA8jUs
さすが、三輪健太郎で、「キッチュ」について話をするのかと思いきや、「マンガを鉄道で読むようになった時代」の証言を紹介し、それが道徳などの観点から批判されていたことから説明する。言うまでもなくこれは、稲田豊史『映画を早送りで観る人たち~ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形~ 』を中心に議論が起きたファスト映画論争を意識しているし、引用もされている。稲田も認めている通り、大衆文化とは、技術の進展で速さがもたらされるたび(距離がとりさられるたび)、モダニズムが徹底される過程のことである。いいかえれば、「もっと手軽に、もっと早く、もっと楽に!」となる。ここまではありがちなモダニズムの復習だが、三輪のこの批評が優れているのは、しかしどれだけ早く効率よく消費しようと、人生は有限であるため、それが空虚にならざるをえないため、本質的には娯楽消費がドラッグにすぎないとまで内省することのである。ここまで論じつくしたうえでなお、内省して初めて、批評を始めることができるのだろう。
61
ダウンファブリック イージーパンツ
TAKEO KIKUCHI
あったかい。TAKEO KIKUCHIは全然持ってなかったが、服を漁っていたら見つけた。ダウンファブリックは、比較的暖かく、秋になればこれだけでもの足元が寒くはない。あと、イージーパンツモデルのいいところは、幅広で形がすとんと落ちているので、脚の癖をある程度隠せること。
60
Bad Habits
Steve Lacy
VIDEO
70年代ポップス・ファンク・ソウルを参照する今どきのミュージシャンだが、“Bad Habits”にはびっくり。“I bite my tongue, it’s a bad habit / Kinda mad that I didn’t take a stab at it”という歌詞に見られる情動の不安定さ(“bite one’s tongue”は、「だまる」ていどの意味だが、これはそのまま「舌を噛む」という意味でとってもよいだろう)という最近の歌詞のスタイルをとりいれて、サビ始まり曲にしてTikTokに対応しつつ、全体として高度に曲を構成している。Lizzoはディスコ的な方向に進んでいるいっぽうで、Lacyのような方法が今後どうなるのか気になる。
59
ALPHA PLACE
Kuncks
VIDEO
UK drillシーンはふだんあまり追っていないが、たまたま知って、Knucksは重要だと感じた。drillは2010年代シカゴのシーン(Lil Bibbyとか)だが、それがUKに輸入された。簡単にいうと、細かいハイハット・スネアに、RT-808のベース音をメインのリズムにかぶせて裏拍みたいなことをすること。なお、trapはスライドさせない。drillとtrapは聞くと癖が全然違うのでだいたいわかる。2010年代末のUKヒップホップシーンは「ストリート」や「ギャング」系のヒップホップといえば、drillになっていった。見分けたい時は警察車両のサイレンの音が多めに入っているかどうかなどに気をつけて聞くと良い。そこに、近年はchillの流れも合流してその中でも、今年のUKヒップホッブアワード2022でKnucksはdrill自体を再解釈するような楽曲編成になっていたのでよかった。まず、チルといってもlo-fi的な方法ではなく、トランペットでジャズな旋律をいれるといったもの。歌詞の内容も陰鬱な感じのものが多く、好み。
58
ALL GODS BLESS ME
RYEKYDADDYDAIRTY
VIDEO
出所するとみんな早口になる。出所して改名したRYKEYだが、NARISKがビートメイクし、BACKLOGICがMIXしたこの曲はNARISKの中でもかなりメロウな曲となっている。NARISKはMFS、ジャパニーズマゲニーズ、¥ellow Bucksにも曲提供し、そこではTR-808のdrillに似たスネアとキックを入れ込むとマッチするが、キックがないとまったくラップの曲に聞こえなくなる点がすごい。実は、しゃろうとも近いスタイルの曲も多い。しかし、“ALL GODS BLESS ME”では、ほとんどdrill感はなく、かといってSACやGreen Assassin Dollorのようなサンプリング感もなく、かなり独特のサウンドになっている。また、RYEKYDADDYDAIRTYの歌詞も深い内省と矛盾が垣間見えるかなり文学的な内容になっていて、思わず聞き入ってしまう。
57
米原将磨×江永泉 司会=ジョージ「ゼロ年代批評崩壊期とは何だったのか。地殻変動以後の時代に三人が回顧する10年代批評シーンと20年代への展望」
TERECO
https://www.youtube.com/watch?v=LMz6srf5VkI&t=8122s
江永さん、ジョージさん、その節はお世話になりました。2010年代の同人誌批評シーンについて総括した。話題は多岐に及んだが、基本的にはインフラの瓦解、批評同人誌参加者の考え方の変化といった外部要因にもとめ、思想的な観点からの説明があまりできなかったが、そもそもそれほど思想的なものがなかったから瓦解したのでは、ということも言えると思うので、だとするとまぁこんなものか、という感じ。なか、編集は大変すぎて基本無理なので、基本方針としては生放送のチャンネルとして運用していく予定。
56
荒俣宏×鹿島茂×東浩紀「博物学の知とコレクションの魅惑——古書、物語、そして『帝都』」
ゲンロン完全中継チャンネル
https://shirasu.io/t/genron/c/genron/p/20221120
現地で観覧したせいか、荒俣宏の話法のようなものを生で聞けて大変よかった。また、全共闘世代の中にあった文化オタクたちのリアルな青春模様の話が聞けたこともさながら、とくに印象的だったのは、荒俣宏が作成したという自主制作アニメだった。1960年代(たぶん)に作成されたアニメーションの上映があり、間近で食い入るように観ていたのだが、50-60年代の日米アニメーションのいろいろな要素を吸収しつつ、軍艦めいた船舶が登場することだった。すなわち、これはロボットアニメの最初の黄金時代でのアニメーションとミリタリズムの結びつきがアマチュアたちの表現の中に自然におりこまれているということであり、この日には一度も触れられなかった「雑誌と軍事」というテーマが潜在していただろうということなのだ。
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芸術と進歩 進歩理念とその美術への影響
E. H. ゴンブリッチ
https://mobile.twitter.com/Dromedarius3/status/1597531899337248768
1978年のKUNST UND FORTSCHRITT Wirkung und Wandlung einer Idee の全訳。解説で簡単なゴンブリッチの履歴とゴンブリッチの著作目録が付録している。訳はかなりこなれており、著作自体もレイトワークということもあり、まとめ方が図式的で初学者向けとなっている。第一章では、2022年10月に岩波文庫で『ギリシア芸術模倣論』の訳がでたヴィンケルマンのギリシャ美術=反動という図式を19世紀初頭ドイツロマン派のひとつ「ナザレ派」を重ねて論じるところから始まる。そこからたった1世紀で急激にモダニズムまで行きついてしまったのは、進化論的歴史主義が普及することで、表現の形式化と相対化が進んでいくことで、時代を統一的に把握するような芸術表現がなくなってしまったのだ、というみたて。いまでもこの議論を批判的に継承することで、多くの示唆が得られるだろう。訳者の労作に感謝。
54
平家物語
山田尚子&吉田玲子&牛尾憲輔
https://heike-anime.asmik-ace.co.jp
高野文子がキャラクター原案。悠木碧の演技が光る。今回一番気になったのは、びわが琵琶を弾きながら吟ずるとき、抽象的な空間の中に超人的な人物が鎮座している画面構成をしていたこと。山田尚子は2010年代の後半はキッチュなキャラクターと極端なリアリズム(レンズ効果を入れることによるカメラの向こうに人間がいるように表現すること)にこだわっていたが、極端な露光を感じさせる抽象空間演出はここ5、6年にはない演出で、驚きを与えてくれた。山田尚子&吉田玲子&牛尾憲輔で撮影される新作も楽しみ。
53
ハウス・オブ・ザ・ドラゴン
HBO
https://www.video.unext.jp/title_k/house_of_the_dragon
『ゲームオブスローンズ』シリーズの新作。大人気シリーズのリブートでもなく、続き物でもない、「この一族の衰退のきっかけになった事件」という歴史をさかのぼるタイプのもの。
といっても、ぶっちゃけ初見でも見れるし、『ゲームオブスローンズ』のシーズン1のときにうれるかどうかわからない中の低予算撮影だったのを考えると、『ハウスオブドラゴン』のハイクオリティな映像のほうが楽しいかも。また、時系列としてもこちらからみると、なぜターガリエン家が没落したのかよくわかる。
本作は相変わらず「正しくあろうとするがすぐに欲望に飲み込まれる」を繰り返し、どうしようもないくらい人間関係をこじらせて救いようがないところが見どころ。また、女性監督が出産シーンや結婚シーンを撮影していてカメラワークの設計や演出意図の迫力がすごいのでそのシーンだけでYoutubeみるといいと思う。
現実の中世では200年で美術様様式がだいぶかわるものなので、「200年後と世界がかわらなさすぎでは」と思った点は多々あったが、200年後のキングズランディングにあった大きな建物がない、など分かりやすく時間の経過を伝えるなど丁寧な部分は肯定的にみていきたい。
52
トップガン マーヴェリック
ジョセフ・コシンスキー
https://topgunmovie.jp/theater/
“But not today.” 還暦のおじいちゃんが海軍精鋭部隊の誰よりも強いイケオジ。しかも昔の親友の息子とアツい関係。あれ……、ハードボイルド系イケオジBL?、と思わずにはいられない本作。エイジズムとルッキズムのオンパレードをなんとか女性パイロットの登場でうまく糊塗するなどして、と思いきやかつて数物理得意で博士号までとって順調なキャリアを歩んでた女性が御年でバーテンダーって、いったいどの時代の作品なんだよ、と全方位に爆撃をしかけるものの、映像が気持ちよすぎてすべてが吹き飛ぶ。『トップガン』初代より圧倒的に面白いつくり。きちんとトレンドをおさえ、どう考えても、「これって……エースコンバットだよね」というツッコミもなんのその、スーパーゲームプレイヤーの操作するコブラ機動に舌鼓をうち、カメラ自体もすべて実際に撮影しているため、いままで一度も観たことがないようなアクションシーンになっている。ただリアルで撮影することが正しいのではなく、物理的な制約を解決していくプロセスもまた映像をつくりあげる醍醐味であることを教えてくれる一作。
51
キラー・サリー ボディー・ビルダー殺人の深層
Nanette Burstein
https://www.netflix.com/jp/title/81331076
フィットネスブームによって、ルッキズムの問題が取り上げられ、肥満の文化史などは論じられるようになったが、機械の中で単純な反復作業を行う奇妙な行動について文化史的な語りが定着しているとは到底言えない。この作品は来たるべきボディビルディング表象論において、一つの影をなす作品になるだろう。2020年にHillaryでその名を広く知られるようになったBursteinの次は、Sally McNeilだった。誰もがその人物のことを覚えていなったが、物語を追っていくと、90年代における女性ボディビルディングに対するヘイト、ポルノとして消費される女性ボディビルディングのダークサイド、そしてボディビルディング夫婦の生活の破綻と自己防衛のための殺人の顛末が丁寧に語られる。Bursteinがいまこのドキュメンタリーを制作したこと目線の鋭さに舌を巻くばかりだった。
50
【驚愕】人間が宇宙で生理になるとどうなるのか?
VAIENCE バイエンス
VIDEO
科学知識がどのように民間に広まるか、という点の研究において、20世紀にかけて最も変わったのは、性について正確な知識だろう。女性が自分を守るための客観的な知識が広まっていったなかで、VAIENCEは幅広いアプローチの可能性を示してくれた。時折、ビキニを着た女性たちが海岸をかけるほとんど無意味な映像を背景に視聴者を煽る極めて退屈な回があるが、宇宙開発と女性の宇宙進出について手際よくまとめたこの動画は非常に勉強になった。
49
Drop out
Hulu
https://www.disneyplus.com/ja-jp/series/the-dropout/5C0gjGwyRTeZ
BAD BLOOD などに基づいて作られたセラノス社を創立し、現在係争中でこのままいくと懲役11年がつくことになるElisabeth Holmesを主人公としてドラマ。エミー賞を特定の枠の主演女優賞で受賞したが、当然のAmanda Seyfriedの演技なのである意味で当然か。とはいえ、その真価は、いっけん技術と自由彩られたゼロ年代のシリコンバレーが縁故主義と隠された女性差別構造に彩られていたということか。詳細は下記で話しているので、興味のある方はぜひ。
https://shirasu.io/t/namaudon/c/tsuchiya/p/20221018173728
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分析哲学とニーチェ
ブライアン・ライター『ニーチェの道徳哲学と自然主義』(https://amzn.to/3ZFvn64 )が翻訳され、『フィルカル』Vol.7 no.2(https://amzn.to/3H9IOnn )でも特集が組まれた。ついにニーチェと分析哲学が日本でもプチブームに。ただし、シンギュラリティ信仰とか加速主義に密輸入されそうなので、個人的には警戒心がすごい。なお、ニーチェの概念で一番の好きなのは、「大いなる正午」。私も人生で「大いなる正午」としか言えない時期が一度だけあったし、うまい比喩だなと思った。ちなみに、現代的にいうと、「無限に中間的なもの」(クレジオ)か。
47
gokigen
chelmico
VIDEO
「落ち着いたらビキニ身につけてワイキキビーチにでも生きたいけど/どんなとこかはよく知らない」のパンチラインを残した「三億円」は高橋諒が作曲。ふだんはJPOPやアニメに曲を提供しているが、DJもしている。そうした人材を採用したためか、『gokigen』は全体に渡って、ポッブでもヒップホップっぽくもないが、MamikoとRachelの丁寧で気だるいラップが独自の位置を確立している。多くのラップソングがあったなかで、こうした曲のアプローチは非常に興味深く、ヒップホップを広げるきっかけになるだろう。
46
占領期ラジオ放送と「マイクの開放」 支配を生む声、人間を生む肉声
太田奈名子
https://amzn.to/3w5kv3J
私の学科の先輩の本。先輩の本だが、本当に面白い。占領期下ラジオ放送の中でどのようにGHQが介入し、『真相はこうだ』→『質問箱』→『街頭録音』になっていった過程を丁寧に追う。占領期ラジオ放送のGHQプロパガンダについてこれだけ実証的に追った本はないだろうし、とくに批判的談話研究で丁寧にラジオの台本を分析するところは必見。また、GHQの息がかかっているなかで偶然とらえられた「パンパン」の検閲された肉声が現在からみたとき、統制しきれなかった被差別者たちの訴えと読み解くのは見事。
45
山水画と風景画のあいだ―真景図の近代
下関市立美術館
https://cul-cha.jp/events/event/3636
たまたま下関に行く機会があり、常設展示を見ようかと思って入って偶然出会った展覧会だった面食らった。江戸時代の文人画家たちは、山水画を写実的に描くようになる。それが真景図であり、明治以降に西洋の風景画を導入するうえで非常に重要なきっかけとなった。その真景図から風景画を化政文化から明治時代まで示していくという野心的な試みはここ近年でみた日本美術展の中でも最も心を引いたものだった。化政文化でいえは、頼山陽の隣に田能村竹田の展示がある構成など、「わかってる!」と思わせるものばかりだった。
44
特集「短歌ブーム」
短歌研究社
https://tankakenkyu.shop-pro.jp/?pid=169373083
ネットの話しかしていないのがとにかく印象的だった。つまり、2010年代を通じてSNSが支配的になっていくことと短歌が流行していくことが一致しているということに驚いた。同人誌もSNSを印刷したとしかいえないとすら思った。ただ気になったのは、内容や単語についての変化についてほぼ誰も関心がないようだった点。短歌の分析をもっとちゃんと読みたいかも。瀬戸夏子の今後の評論活動に期待!
43
Everything She ain’t
Hailey Whitter
VIDEO
今年のカントリーは酒ソングは不調だった。去年のWishful Drinking / Ingrid Andress with Sam Hunt が良すぎたためか。ただし、今年はこの曲のインパクトがすごかった。
The whiskey in your soda
the lime to your Corona
Shotgun of your Tacoma
the Audrey to your Hank
She’s got a little style and a Hollywood smile
But believe me honey good as money in the bank
I’m everything she is and everything she ain’t
あなたのハイボールのウィスキー
あなたのコロナビールのライム
あなたのタコマ(トヨタの車)に積んだショットガン
ハンクにとってのオードリー
あの娘はちょっとおしゃれでハリウッド女優みたいに笑うけど
銀行に預けてるお金みたいに私を信じてほしい
彼女のすべてが私だし、彼女にないすべてが私
銃=男性とたとえられがちだが、ここでは歌手=私=女性が銃。車>銃のアイオワ感がすごい。あと、「believe me honey good as money in the bank」で価値があり安定したものの象徴として「銀行のお金」をとりあげ、それが自分であるという生活感。これがyoutubeで270万回再生されている現実について深く考えるべき。
42
James Webbs宇宙望遠鏡の観測写真
NASA
https://webb.nasa.gov/
人文系の人にあまり注目されてないので驚くのだが、これからはハッブル望遠鏡の撮影した画像はすべてのWebbsに置き換わっていくので、10年後の宇宙の表象がまるで変わったものになるという点は極めて重要である。それに加えて、すでに確立した系外惑星の探索を宇宙空間にできるということもあり、すでにこれまで確認されていなかった系外惑星を発見し性能を十分に示している。既存の技術の発展と表象秩序の変化の境目となっている。
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アンディ・ウォーホール ダイアリーズ
Andrew Rossi
https://www.netflix.com/title/81026142
良作ドキュメンタリーを作り続けるRossiが取り組んだ、アンディ・ウォホールの伝記。ウォホールの伝記映画は数多くあるが、これが一番いい。最初の一話の時点でThe Philosophy of Andy Warhol A to Z を彷彿させるとされる電話をし続けるアンディのイメージを出したのち、銃撃されるまでを描く。その後、ジェドとジョンが恋人だった時代のウォホールのパブリシティとの関係をなぞりつつ、バスキアとの共同制作とAIDSの流行がモダンアートに大きな影を落とす時代に突入し、そこでウォホールが死んでいくところを描く。見事な構成とウォホールの肉声や作品のオーバーラップなどドキュメンタリーとしても非常にリッチな体験ができる。
40
全文現代語訳 維摩経・勝鬘経
大角修訳・解説
https://amzn.to/3CPBDOE
維摩経・勝鬘経はいつも読みたいと思っていても手軽読めるものがないので非常に困っていたところ、まさかの角川ソフィアから翻訳がでてくれた。この本を読むまで浅学だったのでまったく知らなかったのだが、柿本人麻呂が人の一生を水の泡にたとえ、赤染衛門がこの世を夢に重ねたような「あはれ」は「維摩経」にでてくる一節に由来しているという指摘だった。つまり、万葉時代から平安時代まで維摩経の影響力は絶大であり、しかも「もののあはれ」といった日本的にも思われている概念は仏教という外来の思想によって生み出されたものなのだ。その他にも何度も読み返したくなるコラム、なによりも朗読を前提とした力強い文章が読書経験を豊かにする。
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Midnights
Taylor Swift
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Evermore から二年ぶりのアルバム。注目ポイントとしては、Lana Del Reyがフューチャリングした“Snow On The Beach”か。Lana Del Rayのスタイルは、ウィスパーボイスと、“Chemtrails over the country club”でよくに示されているような、複数の歌い方によって微妙に統一感のないコーラスを作り、ギターのメロディのインとアウトを曖昧にしたようなミックスをしていて、掴みどころのない不穏な雰囲気だ。もちろん、ポップスのルールに従って、メロディラインを明確に区別し、サビの盛り上げを重視するTaylor Swiftとは矛盾するステイルなのだが、自分のコアとなる特徴は残しつつ、不穏さを出すためのコーラスとしてDel Reyを採用する理知的な構成には舌を巻く。
“Vigilante Shit”は、Reputation のときのヒップホップスタイルをかなり洗練させている。10枚目にしてまだまだ新しい試みを続けているTaylor Swiftには学ぶところが大変多い。
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オートエスノグラフィー 質的研究を再考し、表現するための実践ガイド
トニー・E・アダムス、ステイシー・ホルマン・ジョーンズ、キャロリン・エリス/松澤和正・佐藤美保訳
https://amzn.to/3CQB3jT
最新、女性が性風俗を利用する、ストリップ劇場をレポートするといった現象がみられるが、私はこれをエスノグラフィカルな他文化への観察参与というよりかは、自分語りの変奏、つまり、ある種のオートエスノグラフィーだと見ている。オートエスノグラフィーは90年代から明確になっていったが、自分語りに比べれば客観性があり、参与観察にくらべて当事者性が高い、そして、聴者が自分の物語に参加することを求める。つまり、必ずしも自分についての語りだけではなく、当事者の語りをどのように客観性に還元していくかの方法論でもある。この本は上記についてかなり手際よくまとめていて、物語作成者に広く応用できる可能性がある。
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BADモード
宇多田ヒカル
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宇多田ヒカルの到達点には瞠目するばかりだ。Drakeの“Juice”を参照しつつ作成した“One Last Kiss”ふまえ、USのメジャーヒップホップを吸収しながら日本語でどのように表現するかを探求する姿勢はJ-POPに示唆を与えつづける。ちなみに、“BADモード”ふくめ、ダンスミュージックっぽいけど何か違う感じのする曲づくりにはFloating Points(Samuel Shepard)の尽力が大きいそうだ。論より証拠、レビューより視聴、いますぐ聞くべき。
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ゼウスの覇権——反逆のギリシア神話
安村典子
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恐るべきギリシャ神話解釈本がでてしまった。安村の精緻な読解と考古学新資料によって覆されていくギリシャ神話のイメージは、衝撃的とすら言える。しかも、何よりも素晴らしいのは、明確なテーマに向かって粘り強く論証を重ねていき、気がつくと次々に謎が解けているミステリーような快感すら得られる。ちなみに、私は犯人を芸術家にたとえ、探偵を批評家にたとえることがあるが、まったく逆だと思う。犯人とは単に判断がうまくできない人である。だから犯罪というさして合理的でもない方法によって解決しようと決断してしまう。一方で、探偵はその不合理に対して、この世界における必然性を与える。常に、探偵だけが芸術家であり、安村の読解もまた、芸術の域に達している。
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陶淵明全詩文集
林田愼之助・訳注
https://amzn.to/3ZSfGJ1
1932年生まれの研究者によるレイトワーク。90歳の仕事とは思えない丁寧な仕事。陶淵明といえば限界酒飲み詩人で、私もそれで愛好していたが、賦の形式でラブソングを書き、乞食を歌い、政治批判もしていたことを解説で読み、イメージが変わった。とはいえ、「擬挽歌詩」其二はやはり白眉。「在昔無酒飲/今但湛空觴」(昔は飲みたい酒が手に入らず、死んだ今は手に取る杯に溢れている)。死ぬことによってお供え物の酒が手に入るというユーモア。研究書としての水準は不明ではあるものの、訳と解説の全体を踏まえると非常に素晴らしい一冊だった。
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diontumがカルチャーお白洲のおたより回に投稿してた手紙
米原将磨
https://diontum.com/「カルチャーお白洲」お手紙回2022年8月/
ゼロアカを2010年代にかなり批判的にまとめた連載。なぜか、ゼロ年代批評をまとめたものとして読まれることがあるのだが、出す固有名のほとんどが東浩紀読者を想定して作成されたようになっているので、ゼロ年代批評全体ではなく、ゼロアカ周辺を描いたもの。2000年代の批評は様々に秩序編成され、2010年代に様々な形で展開していったが、それについて書くのは私の仕事ではないだろう。なお、連載は編集して3月から発売する予定。電子決済オンリーで完全に手売りにする計画。
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Elden Ring
Dir. 宮崎英高、谷村唯/シナリオ 宮崎英高、ジョージ・R・R・マーティン
https://www.eldenring.jp/
まだエルデン・リングの指輪をめぐる争いの席についてすらいないが、マップ内移動を自由にできつつ、ちょっとした細かいところにも意味があるようなシナリオになっていることを感じさせていて、純粋にすごいと思った。とくに、最初の時点でとくに何も指示されないので何をすればいいのかわからないなか、ほどほどに弱い敵を倒してチュートリアルをしつつ、気がつくと物語が進んでいく方向になっているのもゲームデザインに驚かされるばかりだった。J. R. R. Mのシナリオということもあり、分かる人にはどっぷりはまれるが断続的にしかプレイしない人にはほぼ意味不明というか覚えられない物語世界観もいい。でつくされたオープンワールドものをここまで面白くするとは、フロムゲーム史がここでターニングポイントを迎えたとも言えよう。あ、AC6も来ましたが、どうなることやら。
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アフリカ文学講義 植民地文学から世界‐文学へ
アラン・マバンク
https://amzn.to/3HaTTok
やっとこういうアフリカ文学紹介の本がでてくれた!という本。マバンクのアカデミーフランセーズ講義録の邦訳。この本で重要なのは、広くアフリカ系移民全体の文化に目を配ることだ。ローカルにはそれぞれ重要な文化と歴史があるが、「アフリカ文学」の観点から世界をつないでいく。そして、内戦とルワンダ虐殺がもたらした災禍を文学はどのように向き合ったかを手早く、しかし、勘所を抑えて読ませる。この本は日本語で読める限りもっとよくまとまったアフリカ文学紹介の本であり、アフリカ文学が私たちとまったく無関係ではないことを教えてくれる稀有な本であることを教えてくれるだろう。
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ピアリング戦記
小川晃通
https://amzn.to/3w69xv5
こういう本を待っていた。インターネットの基礎技術を学んだ誰もが思う疑問「そもそもどうやってASとかBGPってハードの方で動いているの、あと、IXって結局なに」といったところについてこれ以上ないくらい明確な回答を与えつつ、CDN事業者の台頭にいたるまでの日本のインターネット技術史を余す所なく証した本。すごいとしか言いようがない。ちなみに、IX初期の開発に関わっていた加藤朗インタビューは、岩波書店一ツ橋ビルに最初のIXが設置された逸話は、神保町という町の歴史をふまえたときに非常に示唆的である。人文系の町でこそ最初にインターネット技術の拠点が設置されたのだ。
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アンチピリング タートルネック ニット
TAKEO KIKUCHI
https://store.world.co.jp/brand/takeo-kikuchi/item/BR07022F0024
これはかなりあたりだった。タートルネックがゴムできており、首にぴったりとくる。ポリ成分が多めなので、かゆい人にはかゆいかも。その場合は、インナーがタートルネックになっているタイプのものを着て、その上から着ると良い。基本的には、肩幅で絞られて腰辺りがストンと落ちるので、肩の形に関係なく、それぞれにシルエットがシャープになるため、誰にでも似合いそう。
29
新映画論
渡邉大輔
https://amzn.to/3XhWQsY
動画時代における映画体験について総花的に論じつつ、文化史を描こうとした良作。「第一章で論じた非擬人的カメラであれば撮影者とカメラが、第二章で論じたフェイクドキュメンタリーであればリアルとフェイクが、第三章で論じた「楽しさ」の映像論でいえばオリジナルとリメイクが、第四章・五章で論じたポストヒューマンの映像であればヒトとモノが、第六章で論じたポストシネフィリーであれば映画史的記憶とデジタルな忘却が、第七章で論じた現代アニメーションであれば実写と絵が、第八章で論じたインターフェイス的平面であれば視覚と触覚が、それぞれ相互に影響を与え、新たな映像文化を──ポストシネマを生み出していた」(epub p. 395)というまとめにつきるが、ここで重要なのは「劇や映画を作成していく過程描く」といったモキュメンタリー的なフィルムの流行をかなりうまく説明している。現代における動画文化を考えるうえで必読。
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鴻野わか菜×本田晃子×上田洋子「社会主義住宅『コムナルカ』とはなんだったのか――ソ連人が描いた共同生活の夢」
https://shirasu.io/t/genron/c/genron/p/20220106
コムナルカ、やばすぎ。まだ現代的な施工技術が発達していなかったため、都市への人口流入に対して住宅建築が全く追いつかず、すでに建てられていた居住用の建物を分割して住むしかなく、そのため4LDKになんの血縁もない家族が住むことになり、トイレも毎朝渋滞するという驚異的な居住空間が登場した。コムナルカが興味深いのは、ソ連ノスタルジーを喚起させるミームとなった側面があるという話も実に興味深かった。言われてみると、大昔に鑑賞した《一部屋半──あるいは祖国への感傷旅行 Полторы комнаты или Сентиментальное путешествие на родину 》(2008)にも、出てきたあれはそういうことだったのか、と合点がいった。
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百鬼夜行
ホーツーニェン
https://amzn.to/3HbcwIK
豊田市美術館で開催されたインスタレーション展示。陸軍中野学校、山下奉文、ビルマ竪琴、日本の植民地主義をサブカルチャー要素と組み合わせつつ、日本の昭和全体の歴史を総括する素晴らしい展示だった。これほど表現性高く、かつ、直接的に理解できるインスタレーションをこれまで一度も観たことがない。第二会場に相当する喜楽亭での「旅館のアポリア」の再現も、前回よりバージョンアップしていた。音圧もさることながら、本展示全体を貫く「のっぺらぼう」をすべての映像で展開し、小津映画のほとんど交換可能な家族の物語と戦争映像をつなげることで戦中と戦後を見事につなぎ、かつ、「誰でもない不気味なもの、すなわち、無」から、西谷修を導入する「旅館アポリア」自体の再解釈。インスタレーションは再現できないものなので、次回も万難を排して行きたい。
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姫とホモソーシャル: 半信半疑のフェミニズム映画批評
鷲谷花
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ここ最近読んだ映画批評本の中で読み物としての完成度が最も高いものだった。技術的な説明は極めて禁欲的にしつつも画面の着眼点には確かに映画についての様々な造形の深さを感じさせる。また、2010年後半・戦後・ホラーについてフェミニズムの観点からの語りを極めて説得力のあるかたちで援用していた。何よりも、フェミニズムっぽくなさ、というイメージがなぜ形作られ、それのわだかまりについて複雑な背景があることを丁寧にしかしまわりくどくなく整理する手際には瞠目した。ちなみに、私としては、『バーフバリ』についてこれほど見事に説明し、かつ、周囲の反応をこれほど納得させてくれた論評は存在しない。
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世界は五反田から始まった
星野博美
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第49回大佛次郎賞受賞。自分の中で戦争を描いた伝記的・自伝的なエッセイとしては、向田邦子が最も評価の高いものだったが、本作は自分史上最高に狭った初めてのものだった。自分の祖父の日記を読み解いていくスリリングな展開によって、五反田を中心に日本が戦争に向かっていく中で人々はどのように生活を送り、市民運動はどのように展開し、戦争は何をもたらしたのかを日記を読み解くことで次第に明らかになってく構成も抜群の読み応えを与えてくれる。オチも完璧だった。復興を思わせる記述から著者が戦争の終わりわ感じているくだりから、チラシを裏返すと空襲が続いたことがわかるどんでん返しを残し、最後まで読者を飽きさせなかった。一気呵成に読むことのできる本だった。
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トランスジェンダーやフェミニズムをめぐる書籍、論者の台頭
2022年の紀伊国屋じんぶん大賞(https://store.kinokuniya.co.jp/event/jinbun2023/ )の上位は次の通りだった。
第1位 高島鈴『布団の中から蜂起せよ―アナ-カ・フェミニズムのための断章』(https://amzn.to/3CX8NvR )
第2位 三木那由他『言葉の展望台』(https://amzn.to/3XFT1NQ )
第3位 千葉雅也『現代思想入門』(https://amzn.to/3WlkAv5 )
第4位 ショーン・フェイ『トランスジェンダー問題―議論は正義のために』(https://amzn.to/3QPXfQR )
また、第20位には『物語とトラウマ―クィア・フェミニズム批評の可能性』(https://amzn.to/3IT8FS5 )が入っている。Peatixで投票する奇妙な投票なので、熱心に購買する消費者の声が反映されていることもあるし、自らがゲイやトランスであることを表明している論者が上位を占めているのは、業界の消費者構造がいよいよ決定的に変わったということだろう。なお、紀伊国屋じんぶん大賞は指標にはなるが、これが絶対というわけではない。それを踏まえると、昨年のケアのテーマの流行に加えて、トランスジェンダーやフェミニズムの本や論者の存在感がここ10年で最も目立った年だったといえる。
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Queendom
Awich
VIDEO
ラップがうますぎて嫌になる。紹介は動画だが、アルバム自体が非常に高い完成度。“Link Up”は見事。CHICO CARLITOと同様に沖縄リズムを使いこなすがどちらかといえば、90-00のUSラップを日本語で再現している理知的なスタイルのほうが遥かに興味深い。沖縄生まれで、苗字も沖縄に多い浦崎である彼女は、沖縄のことが嫌いだが最も近い異国文化だったアメリカにあこがれて、留学、インディアナポリス大学でディプロマを取得。夫にも出会い、娘が生まれ、英語ができることでいくらでも仕事があるということで日本に移住しようとしていた矢先に夫がギャングの抗争に巻き込まれて死亡。こうした複雑な背景をもつawichが沖縄という地に生まれたことについてこのアルバムを聞くたび深く考えさせられる。
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UTコレクション – 永井博
https://www.uniqlo.com/jp/ja/spl/ut-graphic-tees/hiroshi-nagai/men
永井博を着る?着るしかないでしょ!永井博といえば、1970年代後半から1980年代にかけて日本で流行したシティポッブ御用達のアートだが、本人のインタビューなどよんでいると、実はスーパーリアリズムとポップアートに由来しているそう。白黒写真を参考に色彩は自分の想像で埋めていくことで生まれた色調と、リアリスティックに見えつつ古賀春江のようなダリやキリコの影響を受けたようなくっきりとした輪郭線とオブジェの配置が、独特の世界観を作っている。それをTシャツで着るモダニズムで遊びたい。
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39歳
JTBC、脚本ユ・ジャンナ、監督ユ・ヒョンヘ
https://www.netflix.com/jp/title/81568400
2020年放送の中国ドラマ『30女の思うこと 〜上海女子物語〜』のリメイク。注釈はいらない名俳優ソン・イェジン、『賢い医師生活』のチョン・ミド、『刑務所のルールブック-賢い監房生活-』などに出演する名脇役キム・ジヒョンが大の仲良し三人組が、40歳を目前にして一人がもう1年しか生きることができないとわかり、その死までの交流を丁寧に描く作品。毎回なんか泣いた。人は死ぬことがわかっていても、人間関係の問題が解決するわけではなく、少しずつ周囲と死んでいく自分を変えていくプロセス、そして、「誰もが望んでいた一番いい状態」になった瞬間に死んでいく悲劇を貫徹する脚本の丁寧なつくりは何度も見返したいのだが、見返すたびに涙が流れるので勉強にならない。ちなみに、みんな酒ばっか飲んでるのが良い。
20
FIRST SLAM DANK
井上雄彦
https://slamdunk-movie.jp/
3Dアニメの表現史に確実に残ったアニメーション。モーションキャプチャーによって試合に参加する全員が常に動いている状態を表現しつつ、試合の展開のひとつひとつに回想を挿入することで、緩急のつけた演出も鑑賞者を飽きさせることはなかった。白眉だったのは、最後の数秒のシーンだけ、3Dではなく手書きの線と最小限色彩で表現されるシーン。これが最後におかれることで、3Dアニメーションができることと線画のアニメーションのできることをそれぞれ象徴的に示していた。正直、井上雄彦が監督をするので演出面ではほぼ期待していなかったがあそこまでできるのには本当に驚いた。
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火星人にさよなら
鈴木雅雄
http://www.suiseisha.net/blog/?p=16740
James Webb宇宙望遠鏡が未来のイメージをつくりかえていくのであれば、こちらは過去に宇宙を夢見た人々の想像力のあり方を丁寧に読み解くことで、文学の正史では語ることのできない作家たちに一つの視座をもうけた本。フランス文学研究史上でもほぼ類を見ない本となっている。というのも、一般的に、フランス文学で天体をテーマにする場合、ドゥフォントネーとカミーユ・フラマリオンを中心的に取り上げるが、よりマイナーなドゥフォントネーのみが取り上げられ、後者のフラマリオンは時々ふれられるだけで、ほとんどでて来ない。そのかわり、後半は火星人の幽霊を降ろした霊媒師について語られる。この本が与えてくれる勇気は、一つの理論と一つの視座と一つの信念があれば、どれだけマイナーでもきちんと論じることができるのである。
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【ルームツアー】世界一斬新な「1億円マイホーム」を徹底紹介【注文住宅】
吉田製作所
VIDEO
人が家を一から建てることはとても難しい。とくに、川沿いに面した場所では、GLの設定に慎重さを期す必要がある。しかし、今回、不幸にも、GLは一般的な増水対策に合わせて注文住宅の特性を考えずに作られてしまった。こうして、車を搬入することを想定して建築されたスタジオがつくられてしまい、車を格納することを想定すると、30cmにも及ぶ段差と、公道からの乗り入れのためスロープもつけられない。こうして、ハウスメーカーとの幾度もの交渉がなされ、スタジオの一部解体費用を全額ハウスメーカー持ちにすることで決着となった。
まるでドラマを観ているかのような展開だったこの「自称一億円」注文住宅のルームツアーは1時間近くあるものの、その物語を背景があったため、いやまして魅力的なものとなった。「人生が商売道具」という古諺もあるが、ここまでものを見せてくれた吉田製作所は素晴らしかった。
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映像クリエイターのための完全独学マニュアル
リュドック (著) 坂本千春 (翻訳)
https://amzn.to/3koBHPg
この本は本当にやばい。映画を撮影したいと思っている人のすべてに基礎知識をあますところなく与えてくれる。映画教本ではだいたいカメラのレンズやISO感度であるとか、フレームレートとかで適当な説明になるだけだが、この本はそれらについても適切に説明しつつ、ライティング、マイク、カメラのアクセサリーの特徴、撮影のさいの注意点、代表的なカットをとるときのアドバイスなど、これ以上ないくらい丁寧に説明されている。しかも、実践を前提にしているので、たとえばカット割りの説明では、まずシナリオのカット割り表の作成からはじまり、代表的なカット割りを撮影する際のカメラに対する俳優の立ち位置まで、わかりやすく教えてくれる。映画がどのように成り立っているを知るためにもこの一冊が重要になるし、3Dゲーム作成でも参考になるところが多いだろう。
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スパイダーマン ノーウェイ・ホーム
Jon Watts
VIDEO
みんなに忘れられても責任をとるというヒーローのあり方を提示したのも大変よかった。ただし、これを提示するための道具が多すぎるし複雑すぎる。MCUの中ではMCUそれ自体を批評できるような凄まじい強度をもっているが、いわばこれは「ぶっちゃけ一回きり」の手法であり、奇跡みたいなもの。この解決で、Spider-Verseというコミックの筋を援用しつつ、『スパイダーマン』の映画をまとめあげたのは本当に素晴らしいことだけど、他の映画にどう応用するのかが気になる。ここまで個別の文脈に依存した作品は、多分物語や手法ではなくて、個別のシーンの引用とかがなされていて、同時代で見ている私たちがすぐに解釈できることが10年くらいでもう通じないものになっているかもしれない。個別には素晴らしいが、これに影響を受けた作品があったとして、どのように独自性をだすことができるか気になる。
15
Ben Bernanke、Douglas Diamond、Philip Dybvigのノーベル経済学賞受賞
https://www.nobelprize.org/prizes/economic-sciences/2022/press-release/
今年のノーベル経済学賞は、いろいろ考えさせられた。経済と文化が深いかかわりをもつ以上、経済学の学問の流行はもっときちんと追ってきたいのだが、なかなか自分だけでは難しい。とはいえ、今回はクルーグマンのこの記事(https://econ101.jp/krugmans-winning-nobel-prize/ )すべてがまとまっているので、まずはこのノーベル賞の深い意義を理解してほしい。これを読んだうえで、ダイアモンド=ディビッグ・モデルが2008年の金融危機に適用されたちに思いを馳せると、金融機関に対して批判的なコンテンツを相対化できるし(ウォールストリートが世界を支配しているという幻想など)、その中でFRBに入ったバーナンキ研究者として対したことがないかのよう見るべきではなく、むしろ、その後のユーロ危機やイギリスの債券市場の混戦など、今でも通じるモデルと対応策のヒントが詰まっている。そしてまた同時に、2010年代中頃までの表象を規定していた社会的背景を知るための重要なマイルストーンなのだ。
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ミュージカルの歴史 なぜ突然歌いだすのか
宮本直美
https://amzn.to/3CSOKic
日本でのミュージカル入門書としてひとまずの決定版がでたといえる。日本では、宝塚・東宝・劇団四季といったようにメジャーレーベルでのミュージカルという娯楽が広く受け入れられている一方で、「では、ミュージカルとは何か」という質問にうまく答えられる人は少ない。とくに、「歌と踊りだけで進めばいいのに、途中で普通の演劇をして、なぜ突然歌いだすの」という質問にどれだけの人が答えられるだろうか。その歴史背景から音楽と演劇が近代においてどういう娯楽として成立していったかというのを丁寧にまとめている。
なお、日本でカルチャーを語る人は、なぜか宝塚についてはよく語るが東宝のミュージカルについて語る人は少なく、もっというと韓国ミュージカルが日本のミュージカル劇団員によって小規模に公開されていることもあまり知られていない。もっというと、ミュージカルの部活というのは日本で全国大会ができるくらいに存在しているということはあまり知られていないのかもしれない。私もたまたま、知り合ったミュージカルのライターに日本でのミュージカル事情を教わるまで日本のそうしたミュージカル文化の存在を知らなかった。このように、日本で確実に存在しているみミュージカル文化を知るためにも、あるいはそもそもミュージカルという演劇形式についてよく知らない人にも、おすすめしたい傑作である。
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【森下豊美×松下哲也】庵野秀明のアニメはどこで生まれたのか?——1960〜80年代個人制作アニメーションと前衛
松下哲也のアート講釈日本地
https://shirasu.io/t/nipponchi/c/nipponchi/p/20220107182032
自らもアニメーション作品を制作し、個人制作アニメーション研究で非常に有名な森下豊美が惜しみなく自分の知見を披露し、庵野秀明のアニメーション表現がどのように形成されていったのかを示してくれる。1960年代の草月アートセンターは少し個人アニメーションに関心があれば名前をしる機会も多いだろうが、その流れをくんで庵野秀明が所属していた「自主アニメ制作グループSHADO」にまでつながっていることは知られていないだろう。また、庵野が20歳前後の1980年代に、1970年代でアヌシー国際アニメーションに入選していた世代が前衛活動を国内で活発に繰り広げており、もともとアマチュアアニメーターだった庵野はこうした界隈に出入りしていたのだ。庵野作品を常に社会評論や哲学的な評論に回収しがちな人々にとってみれば、刮目してみるしかない配信である。
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エミューちゃんと二人暮らし
砂漠
https://www.youtube.com/@emu_chan
2022年に開設して、40本の動画しか公開していないが、16万人登録を超えている驚異のチャンネル(2022年12月時点)。東京郊外の古い一軒家で女性会社員がエミューを飼っていて、エミューを擬人化するかたちでその生活を面白おかしく説明する。ときおり、どうしてこんな生活をしているのか自分のバックグラウンドストーリーを語るが、そちらはまっとうすぎてつまらない。とにかくすごいには、エミューが永遠の二歳児のように振る舞いつづけるのをたんたん見せること。すべて散らかす、動き回る、遊んでいるかもしれないし、そうでないかもしれない。でも、哺乳類のようなコミュニケーションはできない。たんに砂漠氏がそう思っているだけ。人間は区別できていないが刷り込みで「ニンゲンハ、ワタシノナカマ」みたいな認識はしているらしい。ちなみに、エミューは長い時間お留守番ができるので、普通の二歳児よりかは通勤などがしやすい。
女性が子育て奮闘、広くは犬猫エッセイは世の中にあふれている。たいていの場合、紆余曲折あるけれど少しづつ成長して感動、みたいなオチなのだが、そういうことも絶対におきない。エミューは脳が小さいためほぼ新しいことは学ばないし、食べ物の好き嫌いも激しく、野生ではおそらく死んでいただろう個体だ。それが砂漠氏の超人的努力によってなんとかなっている。
そうした努力をみていると、いつか生活が破綻しそうな気もするのだが、「エミューに生活を合わせる」というソリューションによってすべてを解決していてすごい。筋肉じゃなくてエミューがソリューション。
ちなみに、鳥なのでもちろんトイレの躾はいっさいできない。家の中、車の中、あらゆるところで糞尿をまきちらすが、ユーモアをもって対応する砂漠氏に感動をおぼえる。
エミューちゃんかわいい?
11
Yellow
Tegan and Sara
VIDEO
Coldplayが2000年に“Look at the stars/look how they shine for you And everything you do/ yeah they were all yellow”と歌った。そのミュージックビデオが歴史に名を残しているのは、朝日のが登る中をフレームレート40fps程度にしながら海岸をずっと歩くChris Martinを移し、奇妙な映像空間を作り、決して真似できないが誰もが一度はやってみたい画面作りをしたからだ。そして、今回とうとうTegan ans Saraがまったく同じ曲名で同じコンセプトでミュージックビデオを撮影した。今回二人は、“This bruise ain’t black, it’s yellow”と歌い上げたが、これは驚異的である。かつて愛する人を星にたとえるための色が、傷つけ合うふたりの深くはないが浅くもない怪我として書き換えられている。だからこそ、このミュージックビデオは左から右にパンをして、Martinが歩いてきた方向に向かって進んでいく。かつての“Yellow”が左から右に向けてパンをして空と海を映して終わった続きを始めるためである。22年という長い時間をかけてようやく“Yellow”はミームとして完成し、自由になったのだ。
10
ブラックパンサーII:ワカンダフォーエバー
ライアン・クーグラー
https://marvel.disney.co.jp/movie/blackpanther-wf
この配信で2時間くらい詳細を話しているので気になる方はどうぞ。 https://youtu.be/39e6MVdadqI
9
シスターズ
脚本チョン・ソギョン、監督キム・ヒウォン
https://www.netflix.com/jp/title/81610895
毎年なからず一作は手堅いドラマを提供する韓国ドラマの中でも今年はやはり、『シスターズ』が最も優れていたのは間違いないだろう。離散していく家族、女性の連帯、グローバルな犯罪、ベトナム戦争の影、巨大企業の陰謀、莫大な遺産、などシリアス韓国ドラマにつきものの題材を完全にレベルアップさせていた。また、ありがちなヒーロー像ではなく、主人公のひとりが重度のアルコール中毒である。ちなみに、韓国ドラマではジャーナリズムはいつも信頼が寄せられる対象ではないのだが、今回もその例にならっているので、そのアルコール中毒者がジャーナリストである。大抵の場合、シリアスな韓国ドラマは海外文学を参照としているが、今回は、『嵐が丘』のヒースクリフの復讐劇を少しなぞっているが、ヒースクリフを女性にすることで何がおきるのか、というを極めて緻密に計算して脚本が作られている。圧巻の12話。
8
秘密
劇団普通
http://gekidan-futsu.com/works/himitsu/
佐藤佐吉賞2022で、優秀主演俳優賞(安川まり)・優秀作品賞・優秀脚本賞を総なめ。実際、とてもおもしろかった。舞台はほぼ家のリビングというミニマルな構成だが、2つの家族のそれぞれの話のなかには、ごく個人的な会話のはずなのに、社会的経済的諸条件によって規定されているポイントだけが抽出され、その中には小さいが確実に人生のある過程では不条理にならざるをえないことが描かれていた。ミニマルで抑制のきいた演技は静かに進んでいくのだが、ストーリーがきちんと頭の中に残っていく。「病室」も素晴らしい演劇だったが、「秘密」は間違いなく、演出家・脚本家を務めた石黒麻衣の傑作だろう。
7
KOKOPELLI
山下Topo洋平
https://topoyohei.shop/items/630691fcef80851cd6bc0a9a
驚異的なアルバム。何も考えずに聞くと、ポップなインストにしか聞こえないが、「流星群」からしてリズムがカルナバル、そのほかワイニョなど、フォルクローレの世界でできている。もちろん、リズムとしてはポップソングのものが多いが、「なーんか民族音楽っぽいな」といったように、グルーブは南米フォルクローレを残しつつ、リズムだけは違うものを採用している。なんなんだこれ。
そもそも南米フォルクローレは、ポストコロニアリズムと深く関係する重要な音楽ジャンルであり、例えば、その複雑な文化交流でうまれてきたラテン・ヒップホップが独特のリズムをもっているのも、南米フォルクローレと名付けられているスペイン語圏音楽に由来してる(ちなみに、ブラジルのポップスに相当するセルタネージョはだいぶノリが違う)。
そんなわけで、現代日本の民族音楽家の中でも際立って重要な仕事をしていることが明らかになったアルバム。知られていないのでバズらない典型だが、1万人単位の人がフォローすべきだと思う。
6
リコリス・リコイル
原作 Spider Lily/原案 アサウラ/監督 足立慎吾
https://lycoris-recoil.com
米原将磨が参加している配信チャンネルTERECOができるきっかけになったアニメ。ここで散々語っているので、気になった方はどうぞ。
VIDEO
5
ぼっち・ざ・ろっく
斎藤圭一郎(監督)
https://bocchi.rocks
『けいおん!』ぶりにギターの売れたアニメ。というのは、冗談として、原作者らの2010年代をJ-Rockの側から歴史化しようとする試みは、『まんがタイムきらら』それ自体についての批評ともなり、大きく成功したと言えよう。『まんがタイムきらら』の4コマでヒットしたものの多くは多かれ少なかれ学園ものである。そして、日本では理由はどうあれ、学園ものはひとつの一大コンテンツジャンルとして戦後長らく支配的ではあり、「きらら」系マンガの多くもその例にもれない。しかし、『ぼっち・ざ・ろっく』が突破しているのは、「趣味人ではあるがコミュニケーション能力は著しく低い」キャラクター造形を設定し、学校という場所から排除される構造をつくり(学内にぼっちがつどう部活のようなものもてぎない)、学校の外で能力を活かしたコミュニティをつくるという点である。この方法によって、モデルとなっている学校ではなく、下北沢シェルターに人々が向かうような外部のアジールをつくり、ごくごく一般的な成長ストーリーに仕立てている。かつて、「きらら」は日常系を生み出す根拠地とみなされていたが、近年最大の成功をおさめたといえる『ぼっち・ざ・ろっく』は王道ストーリーものであり、ある意味では、日常系は前衛的ではあるが、極めて内向きの作品だったということを示していることを改めて示した。
アニメーションについても、「後藤ひとり」の妄想という設定のために自由に表現されている点が心地よく、ラストの文化祭ライブのシーンについても、これまでのアニメで描かれてきた文化祭ライブの表現をとりいれつつ、静止画のカット割りに意味を作り、それぞれの芝居についてもすべて意味があるような表現がなされている点も、一つの到達点だった。楽曲面でも、本当にいそうなJ-Rockのイミテーション曲に少しずつ独自性をだしている曲がよかった。ちなみに、ヒグチアチが樋口愛名義で作詞している「星座になれたら」は歌詞にBUMP OF CHICKEN、曲調はthe Band apartをオマージュしていて私の好み。以上より、2022年に最も優れたアニメーションといえる。
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中国における技術への問い 宇宙技芸試論
https://amzn.to/3D3FTu6
ユク・ホイ著、伊勢康平訳
私は編集協力してます。英語・フランス語・ドイツ語・中国語(ドイツ語についてはとくに資格もないので単語とハイデガーの訳語を一部みたぐらい)について軽くみた程度なので、大したことはしていません。訳語も綿密な議論を経て練られていたので、サジェストもほぼせず。翻訳者の伊勢さんは本当にすごい人で、「あーそう訳すのか勉強になるなー」という感じでゲラを読むのが楽しかった。仕事のあとで時間とってやったので、一週間ぐらい毎日朝3時くらいまでやってたのがいい思い出。内容については、こんどqiitaで紹介しようと思う。重要な点としては、カルフォルニア・イデオロギーとは別の可能性を考えるというということ。つまり、技術って「自由」の問題と関係していることが多いけど、「それって本当に技術の本質だっけ」ということなどを改めて問わせることができる。
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It’s not too late for me
Beowulf
VIDEO
聞くモルヒネ。リンクは表題作。今年やっと2010年代後半に発表し続けたアルバムが出た。グリッチの種類、アニメからのサンプリング、ジャズピアノを使った伴奏など、lo-fi hiphopのジャンルに属すのは間違いないのだが、何かが違う。どこかでメジャーにならなくとも、Beowulfインスパイアの曲のジャンルがいつかできるのかもしれない。いまだにどう語ることで位置付けられるのかはわからないが、圧倒的に強い印象を残す。
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弁護士はウ・ヨンウ
脚本 ムン・ジウォン/演出 ユ・インシク
https://www.netflix.com/jp/title/81518991
韓国ドラマはざっくり、歴史ものと現代ものに別れる。その後、現代ものの最近の流行はシリアス。去年73位だった「ヴィンツェンツォ」もそうだし、韓国映画もシリアスなものが評価されている。ところが、本作でもシリアス要素はなくはないが、あまりない。というのも、このドラマはたんにラブコメだから。本作がここまでランキングが高いのは、もう二度と『サイコでも大丈夫』のような作品はでないだろうと思っていたら、似た性格の障害者主人公を出しつつ、『サイコでも大丈夫』の弱点をすべて更新できたため。『サイコでも大丈夫』の弱点は、「戯画化されたサイコパス表現の踏襲にともなう新規性のなさと安直さ」「発達障害の兄に抑圧された主人公に対して、結局メンタルに問題のある女性の介助にスライドする構図のわかりやすさと安直さ」「恋愛によって障害者の介助者の負担が消えてしまうことの問題」など。ラブコメを採用することでサイコパス表象が消され、障害者の負担という問題は解決されないまま終わる責任感、すごい。なお、韓国ドラマのラブコメ様式が割とでていて、理解できないと退屈になってしまうところが多いが、ラブコメをたくさんみて様式美を理解するか、飛ばし見で対応するとよい。
ちなみに、それでも問題点はあり、「そもそもここまで来て恋愛によって何かを解決する必要があるのだろうか」や、「テンプル・グランディンの動物愛護を参考にクジラ保護運動をしているが、物語の中では男性にとってのストレスとしてしか機能しておらず、伏線にしないのはどうなのか、そもそも発達障害者が環境保護活動をするステレオタイプの助長と、法律と政治的なものの結びつきがあたかもないようにしているためにその代補して環境保護しているだけでは」など、細かいところが気になるが、チェジュ島回でのパク・ウンビンが歌う「チェジュ島の青い夜」の歌はまじでいいし、すべてをクリアする作品なんてないですよね。
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BLUE IN BEATS
舐達麻
VIDEO
BACHLOGICのMIX史を考えるうえでも極めて重要。また、Ingenious DJ MAKINOのもとの“Blue in Green”のビートも大変素晴らしいが、BACHLOGICのMIXによってもとの曲よりキックの低い音の深さや、トランペットの挿入の音質がクリアになり、途中に入る、装飾音的なサンプリング音源の使用もカットされていて瞠目。
Ingenious DJ MAKINOはthe BOSSの“REMEMBER IN LAST DECEMBER”にも曲を提供しているように、もともと界隈では有名人。2000年代のnujabes以後の影響下で、どのように表現するかでかなり独自の路線をだせていた。これをdigった人はすごい。
よく、nujabesの名前がでてくるので整理すると、ようはlo-fiヒップホップと呼ばれているジャンルの先駆みたいに位置づけられる。lo-wiよりずっと拍数が多いので、lo-fi自体ではないので注意。では、どこに先駆性があるかというと、いわば「チル」感を感じるようなメロディラインやサンプリングを確立したこと。
面白いのは、このnujabes影響は日本では独自の発展を遂げて、10年代なかばにはDJ OKAWARIとか、Green Assassin Dollar/SAC/7 seedsなどなど、様々な「チル」がでてきて、それがなぜかギャングスタラップなどサグ系と結びついていった。ゼロ年代を通じての発展なので、正確な歴史については今後の研究を待ちたい。
今回の楽曲では、舐達麻の歌詞のクオリティも高い。BADASAIKUSHが最初と最後にリリックを書いている構成は代表作「BUDS MONTAGE」を筆頭に、他の曲でもよく見られるが、今回はいつもより数小節ぶん長く、1分近く長い曲になっている。「BUDS MONTAGE」より内省の多い表現がおおくなったぶんがそのまま曲の長さに反映されていると考えられるが、全体をとおしてみるとメタファーと思索の釣り合いがとれているので読みごたえのある詩となっている。また思索が深くなったぶんだけ、「たとえ1人になり 誰も理解しなくなり見失う時に それが日々しかし俺はこの世1人隠れる必要無し」といったようにパンチラインの長文化が起きている。舐達麻(というかBADSAIKUSH)研究的には気になったポイント。