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米原将磨

『アイリス・オデッセイ』発売にあたって

2026年5月29日、つまり、今日、私が参加していた『アイリス・オデッセイ』が合同会社イースニッドより発売された。詳細は公式情報の以下を参考にしてほしい。

ぜひみなさんでゲームをプレイしていただき、「#アイオデ」をつけて感想を投稿していただくと嬉しい。

では、ここからは私がこの作品についての短いエッセイを書き残しておく。

私はプロデューサーという肩書きだが、主要業務としては以下を務めた。

スクリプター
スクリプトデバッガー
広報統括
ティザームービー絵コンテ
ティザームービー制作
SFX編集
音響監督
アニメーション編集
エンディングムービー監督
クレジット監修
アシスタントゲームデザイン
プロデューサー
ナラティブデザイナー(メインプロット)
日本語監修
監督補助
プロダクション・コーディネイター
プロジェクト・マネージャー
(以上、クレジット登場順)

イースニッドは創業者で監督の太田一行に米原将磨が参加するというかたちでゲーム開発を続けてきた。ようは2人しかいないので分担するほかないし、得意不得意の観点からクオリティ・コントロールを委任された部分もある。例えば、「音響監督」とあるように、ミックスとマスタリングについては、メインテーマをのぞくすべてのBGMと効果音について私の意思が反映されている。2023年あたりから音楽批評に関心を強く持ち始めた私はひたすら音楽のエンジニアリングについて考えていたこともあり、方向性のすり合わせは精度高くできたし、エンジニアの成塚優貴の優れた手腕のおかげで、かなり独特のノベルゲームBGMの質感になっていると思う。成塚はDTM、エンジニアリング、楽器演奏もマルチにできる優れた才能の持ち主なので、『アイリス・オデッセイ』のBGMを聴いて関心を持った人はぜひ成塚に作曲の依頼をしてほしい。また、ピアノ生演奏をしてくれたシラスで知り合ったyurikoさんにも感謝を。


他にもあまりに多くの、ゲームの根幹に関わる作業をしてきたが、そのことはまた別のところで詳しく話したり書いたりすることにする。

ここでは、この作品は動画プラットフォーム「シラス」の誕生によって生まれた、もっというと、ゲンロンカフェ周辺で生まれた作品だということについて忘れないうちに書いておきたい。
『批評なんて呼ばれて』(フヒトベ、2023年)にてオートフィクションの手法で書いたように、私はゲンロンカフェができた頃に大学生になったばかりだった。そこでいろんな人と交流した。編集者、アーティスト、写真家、ミュージシャン、ライター、批評家、小説家、建築家、ゲームデザイナー。すでにその肩書きで働いていた人もいたし、そこを目指していた人たちがたくさんいた。その頃は何者でもなかったが今では何者かになっているし、何者にもなっていないにしても人生を続けているだろう。あるいは不幸なことにある人々はただ単に消え去った。私は専門がフランス文学のこともあり、初期ゲンロンカフェの喧騒は19世紀末にその後のフランスの前衛芸術のあり方を永遠に変えてしまったカフェ「シャ・ノワール」のようだったな、とつくづく思っている。

あの頃のゲンロンカフェはDIY的な雰囲気がまだあり、放送ブースなどなかった。ビールケースを少し積み上げ、膝くらいの高さになっていたところに畳がしかれ、夜な夜な始発までの数時間、話しこんだ。そこで時を同じくしたあの人たちとは交流もないし、何をしている人かもよく知らないが、あの瞬間でしかありえなかった出会いと別れだった。

年に数回ゲンロンカフェに行くだけで普通の大学生では不可能な濃密な体験を過ごした私は、こんなことを考えるようになった。研究者のように学びたまに論文を投稿し、批評家として商業・同人とわずに媒体に寄稿し、たまにクリエイティブな事業に携わる、そんな人生。その無邪気な高い理想、すなわち陰惨な妄想はさまざまな形で自分を追い詰めていくことになる。

そうして、私自身の問題から、ゲンロンカフェには2016年の終わりからまったく行かなくなった。批評に関わる業界が嫌になり、研究の世界に閉じこもり、それはそれで楽しい日々を過ごした。ただ、それも3年ももたない。研究が行き詰まり、研究者としてのキャリアの不安を迎えた。クリエイティブなことなどまったくできなかったし、金もなく、思想も固くなるばかりだった。ただ、それでもまだ人生を生きていくことにした私は、2020年から友達の伝手で職を得た。それまで私が積み重ねてきたものとほとんど関係のない職種だった。

そんなとき、「シラス」が始まった。コロナ禍のシラスの立ち上がりは本当に楽しかった。30歳を目前にして新しい友達ができた。職場でもないし、習い事でもない。単に文化や政治について関心があって、イベントスペースで会うだけの人と友達になること。それは本当に奇跡みたいなことだ。

そうして再びゲンロンカフェと出会い直した私は素晴らしい才能と出会った。それが山下Topo洋平さんと厳男子さんだ。
2021年の無観客配信のみゲンロン総会でTopoさんの「流星群」の演奏に衝撃を受けた。

「流星群」は、はじめ4/4か3/4拍子だと思っていたが、ピアノの入りとメロディラインを辿っていると混乱がはじまる。耳に馴染んでいく音の連なりは、ポップスでありそうなリズムとはどうやら違った規則で動いているらしい。だた、それは完成された美しいメロディだった。のちに、私はTopoさんの動画でそれがカルナバルというリズムだと知ることになる。カルナバルについて詳しくはこの動画を見てほしい。

そんなふうに、はじめは一方的に聞くばかりだったが、あるときqppさんに呼ばれてTopoさん主催のイベントに行き、付き合いができた。今では毎月スタジオを借りる仲だ。そんなとき、監督からゲーム開発の相談を受けて、メインテーマを本気でやりたいならTopoさんで行きたいと言った。シナリオをすべて読み込んだうえで作曲し、クオリティに信頼ができて、独特の雰囲気をもつ他にはないメロディとリズムを作ることができて、音楽だけで生計を立てているプロフェッショナル。インディーゲームの最初の一作目のメインテーマはそれらしいものではなく、それでしかないものがほしい。どこかで聴いた似たようなものを安く済ませるなら、さまざまな作曲家に依頼できた。それでも、ワイニョ、カルナバル、クエカ、タキラリ、そんな南米のリズムを身体化して自分の音楽を作る、物語に引っかけて言えば、魔法使いのような音楽家をTopoさん以外に思いつかなかったし、それ以外の人に依頼したいとも思わなかった。そうしてできたテーマ曲「アイリス・オデッセイ」は、以下で聞くことができる。

例によって信頼できる成塚にミックスとマスタリングを任せた。また、この曲は私が米原将磨名義で書いた歌詞がついた歌にもなっている。Topoさんと出会ってから4年で、作曲を依頼するどころか、彼の曲に歌詞を書いて、それが配信されるまでになった。シラスがなかったら、こんなことは起きなかった。

厳男子さんに出会ったのはTopoさんと出会ってから1年経つかたたないかの頃だった。シラスの共通の知り合いを通して面識を得たのだが、ラインマンガ『ムラサキ』の作者だったことは名前を聞くようになってから知った。

『ムラサキ』を読んで看取したのは画面構成力とカラーイラストの圧倒的なセンス、そしてその独特な思想だった。読んだ瞬間に普通のマンガ家ではないと直感した。ギャグ満載のストーリーは、次第に哲学エッセイと化していき、もともとの問いそのものが解体される。あたかも田中小実昌の小説『カント節』の読後感を覚える前衛マンガ。それを圧倒的な画力によってメジャーレーベルで連載させる胆力と実力。可能なら大きい仕事を一緒にしてみたいと思った。そんなときにちょうど、ゲーム開発の話が持ち上がり、アートディレクターは外注ではなく自分たちの仲間でやりたいという話になった。たまたま厳男子さんと会った時に仕事の様子を聞くと、まだ次の連載は決まっていないということだった。ゲーム開発について相談してみると、アートディレクターの仕事の依頼を快諾してくれた。

いざプロジェクトに参加し始めると、マンガ家としてイラストレーションの集団作業に関する知見もあり、こちらの考えた作業フローとのすり合わせもスムーズだった。また、何よりも感銘を受けたのは色彩を調整するときに自身が何をしているか精確に語れることだ。弊社の監督の意向もあり、色彩設計の参考の一つとして『ブルーアーカイブ』をあげたのだが、彼による色彩の解析と表現方法の意図の推測、色彩設計の再現には驚いた。その時の対話のほんの一部は以下の原稿に反映されている。

そしてもちろん、彼の導いたエッセンスは、他のさまざまなコンテンツと合わさって、『アイリス・オデッセイ』のイラストを輝かせている。もしもシラスではなかったら、この哲学者にして求道者のようなマンガ家に出会えなかったし、インディーゲームにおいてこのクオリティでコントロールされたスチル絵や背景画をつくることは絶対に不可能だった。

Topoさんと厳男子さんがいなければ、『アイリス・オデッセイ』はここまでのクオリティには決してならなかった。シラスがなければ二人に出会えもしなかった。シラスもあと少しで10周年になり、すでにその折り返しを迎えて、オープン当時と同じままというわけではない。多くのチャネルが消えたし、私の付き合いのあるシラス配信者の土屋耕二さんは「自分は絶対にならない」と言っていたはずの市議会議員になってしまった。これからシラスに関心をもった人がいたとしても、私が体験したようなシラスでの日々はもう経験できない。ただ、サービスとはそういうものだ。私が言えることは、あの瞬間にシラスがなければ、ゲームがこんなふうにして発売されるなんてことは起きようもなかったということだ。あらためてシラスに深い感謝を。


さて、こうして振り返ってみたとき、ちょうど5月29日、『アイリス・オデッセイ』の販売のほかに、私の心を動かすものがある。Kamuiの冠番組「Kamui’s HYPE THE HOPE」の初回放送だ。

Kamuiはこの番組が決まったことについて歌った「ウサギとカメ」で10年かかってようやく自分独自のキャリアが最高のかたちで定まったことをラップする。

やっと間に合った
10年前に始まった
ウサギにはなれなかった
カメだから間に合った
アイツはウサギはおれはカメ

私も近い世代が早々にデビューしていくことについて、あの頃戸惑いがなかったといえば嘘になる。身近な人間が名前が広く知られた出版社から本を出しているなんて当たり前で、同い年の人間が自分と同じようにおしゃべりするだけでYouTubeの大きなチャンネルで再生数を稼ぎ、たまに1万部単位で本を売っていく。ただ、一方で私は私のやりたいことがずっとあった。10年前に自分を苦しめたあの妄想、「研究者のように学びたまに論文を投稿し、批評家として商業・同人とわずに媒体に寄稿し、たまにクリエイティブな事業に携わる、そんな人生」。10年経ってみてどうだろうか。

私は会社勤めを始めてから、そこで転職などでいくらでも話のネタになる成果を残した。その間、査読論文は1つもっていて、学会発表も論文投稿もした。批評家として5本の原稿を寄稿し、商業誌にも同人誌にも掲載した。YouTubeでは定期的な配信を続け、小綺麗な解説番組なんてしない、エンタメともほど遠い内容のうえ、更新頻度も低いのにもかかわらず、いつのまにかチャンネル登録者数はサブスクリプション基準開始の基準を満たしていた。ある時から自分で会社をつくっていた。そこからは本を2冊出して、私の発案ではなく、ある人から持ち込み企画で学術的に貢献する本の出版企画も動き出している。そして、あれから10年目の今日、『アイリス・オデッセイ』という、最高のクリエイティブ・チームと作り上げたゲームが発売になった。ここまで私は、どこの組織の支援を受けることなく、すべて独立不羈にやってきた。私は自分で開拓した道をカメのようにゆっくり歩み、しかし止まらずになんとかここまでやってきた。私の今の気持ちは同じくKamuiが「Beginner」で代弁してくれている。彼の言葉で今日は締めたい。

10年経った今一番楽しい
平沢唯みたいな気持ちが大事

※本記事は合同会社イースニッドによる公式の見解を含むものは一切ありません。米原将磨個人の見解です。本記事についてのお問い合わせは合同会社フヒトベまでお願いいたします。
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南礀中題 米原将磨

米原式ベストハンドレッド 2025

昨年、動画で100位までやるといったが、90位までいくことさえできなかった。そこで、今回は一言コメントをつけることにする。主に、どの観点において素晴らしいかを短く紹介することにした。配信も考えたが、その時間は別の作業に充てたい。なお、今年から、YouTubeやiTunesで事前にハイライトをちゃんとみるようにしたが、それぞれ1000件以上新しいコンテンツに触れていたので、それなりに説得力のあるベストハンドレッドだと思う。
また、今回の対象は2024年12月20日以降から2025年12月までのコンテンツ。13ヶ月あるが、2024年12月のコンテンツは後追いしたので、このようなかたちにする。今年はアフィ盛りなので要注意。
おまけで今年はランキング候補としてあがったけど惜しくも100から漏れた選外も一覧にしてます。
では、ご笑覧あれ。



100位
啤酒土狗(Beer to Go)の店主、https://maps.app.goo.gl/g2NHdiaQETmUXYEV7、台北は忠孝新生駅の近く、新生南路一段12巷にあるビール屋の店主。経営者から店舗オーナーを任されたそうなのだが、高田馬場で演劇をやったことがあるということで話した。2000年代の台日文化交流を間近に感じることができた。素晴らしいビールを置いているのでぜひいってほしい。

99位
見立てと女語りの日本近代文学、齋藤樹里、文学通信、https://amzn.to/4po97cC
明治文学研究者が少ないなかでさらに斎藤緑雨研究などほとんどないなかで「芝居」の語りに注目しつつ、男性中心の近代日本文学史における「女性独白体」というテーゼが興味深かった。

98位
名誉伝説、https://www.youtube.com/watch?v=rpY3buWDM4k
離婚伝説ではない。日本のバンドシーンにはまだまだおもしろい人がいるなと思った。

97位
コーパスを丸呑みしたモデルから言語の何がわかるか、横井祥、https://speakerdeck.com/eumesy/what-can-language-models-swallowing-corpora-tell-us-about-language 
言語モデルについては大量コーパスと自然言語処理、機械学習の観点から優れた成果が達成できたが、その後の展開を示すなかで提示された「経験主義的言語観の数理科学化のやりやすさ」という観点の説明で、ニューロン発火抑制にもとなう侵襲的介入の可能性が興味深い論点だった。

96位
イスラームの慈善の論理と社会福祉――現代インドネシアにおけるザカートの革新と地域の主体、足立真理、明石書店、https://amzn.to/3Yg0zcJ
とにかく何もしらない話が大好きだが、その枠で最も興味深かった。

95位
一九六八年と宗教——全共闘以後の「革命」のゆくえ、栗田英彦編、人文書院、https://amzn.to/4qxJzuo
紋切り型の1968年言説のかたちで、20世紀後半の日本の宗教史を包括的に示した。

94位
ホームコンピューター デジタル時代を決定づけた100の名機、アレックス・ウィルトシャー著・伊賀由宇介訳、グラフィック社、https://amzn.to/492Mx4r
個人向けコンピュータ史を造形と機能の観点で入門するための重要な一冊のため。

93位
新しい近代服飾史の教科書、長谷川彰良、翔泳社、https://amzn.to/3N5MGv9
服装の構造面に着目した紹介と創作などにおいて参考にしやすい資料を提供した。

92位
世界観を創る、鈴木貴昭、星海社新書、https://amzn.to/3NbrNPf
地政学に頼っているところ以外は良かったというか、これを基準にしてほしいくらいなのだが、実際の創作者でここまでちゃんと考えられている人は少ないなといつも思う。私の活動はここに批評理論を加えているところにある。世界構築の時代性もまた重要なファクターだろう。

91位
鮫河橋の社会史――近代東京と都市下層、武田尚子、日本評論社、https://amzn.to/3LmYBUW
新宿ローカル歴史ものとして今年もっとも良かった。

90位
古代マケドニア全史――フィリッポスとアレクサンドロスの王国、澤田典子、講談社選書メチエ、https://amzn.to/3YWHc8A
アレクサンドロス大王についてはみんなよく知っているけど、マケドニアについてはよく知らない、そんな痒いところに手が届いた。

89位
近代日本の仏教思想と〈信仰〉、呉佩遥、法蔵館、https://amzn.to/3YREiC9
20世紀以降の日本仏教史を信仰の観点からまとめることで信者にとって仏教がなんだったかを丹念に追った成果であると同時に、近代中国仏教と日本仏教を対置させるといった他には類を見ない興味深い論点を提出した。

88位
一元論の多様な展開――近代ドイツ哲学から、世紀転換期の英米哲学を経て、現代の分析哲学まで、小山虎編著、晃洋書房、https://amzn.to/4aGrINs
一元論を理解するための体系的な思想の流れがまとまっており、各国での思想史を相対的に理解するための足がかりとなっていた。

87位
Whiskey’s Whisperin’、Brandon Wisham、https://youtu.be/U5wYwq1ejhQ?si=ikXXegXhi8_w32YT
2025年は酒カントリーが低調だった。酒を飲んだあと、Still HangoverだったElla Langleyの昨年からの快進撃もあり、いったん酒は手癖的な主題になっていた感はあるが、この曲はなかなかによかった。

86位
〈怪奇的で不思議なもの〉の人類学――妖怪研究の存在論的転、廣田龍平著、https://amzn.to/3N5MJaj
博論以後展開として近年の作品の類型を民話などから導出していく丁寧な調査によってホラーの形式性についてわかりやすい示唆を与えた。

85位
部落フェミニズム、熊本理抄編、エトセトラブックス、https://amzn.to/4pYrcil
部落問題における女性史についてもっとも先端的な成果を得るだけでなく、とにかく読ませた。

84位
戦後日本と政治学史、熊谷英人、白水社、https://amzn.to/4pYrgP7
70年代に政治思想史がすごくたくさんでていて「名前くらいは知ってるでしょ?」みたいな圧力のあった著作家たちに一つの視座を与えた。

83位
雑誌利用のメディア社会学、永田大輔・近藤和都編、ナカニシヤ出版、https://amzn.to/4sqTELC
フランスでは雑誌を中心としたメディア研究と文学研究は近いのだが日本では社会学と一括されているなーといつも感じているが、日本での雑誌メディア研究の概観を示した一冊だった。

82位
気体論講義、ルートヴィヒ・ボルツマン著/稲葉肇訳、https://amzn.to/4aGd5tk
科学史における初期統計力学を理解するときに最重要な文献を翻訳し、優れた解説を附した。

81位
古筆見の仕事――真偽の先にあるもの、編集部編、書物学第26巻、勉誠社、https://amzn.to/4pfmGLd
日本における歴史学の成立を考えるうえではずせない一冊だった。

80位
08 JETTA、Kai Banks、https://www.youtube.com/watch?v=LCu9gl_HbzQ
理由はまったくわからないけど、人生って感じのリリックだった。ポエトリーラップ系の中でもビートとフローの幅がやや広くできているところも器用な感じでよかった。

79位
イスラームにおける聖性の継承:預言者、聖者の血統と聖遺物、SIAS Lectures No.12、上智大学イスラーム地域イスラーム地域研究所、https://sophia.repo.nii.ac.jp/search?page=1&size=20&sort=custom_sort&search_type=2&q=1749014914132
聖遺物と聞いて湧き立つ人間としては、イスラームにおける物体と聖性の関係を知ることができて本当によかった。

78位
ノンパラメトリック統計学――小標本でも分布によらないロバスト手法、白石高章、共立出版、https://amzn.to/4aFiqB7
一様性の検定法の手法に収束しそうなイメージのあるノンパラメトリック統計学について、ロバストな手法としてどのようにモデルにあてはめていくか説明し、「なんだかんだいって中心極限定理できっと正規化するよねー」以上の理解を与えた。

77位
food for thought vol.2 – EP、justicexavier
私はSHAD的なビートメイクの領域に関心があるのだけど、justicexavierはその最新系を見せてくれた。

76位
次世代クスリチャン・ラップ
DC3やChildlike CCなど、次世代の卓越したクリスチャン・ラッパーが登場した。

75位
「イエスの言語」をめぐる論争史――古代から近代まで、髙橋洋成、教文館、https://amzn.to/4qxRUya
田山健三フォロワーはなんの疑いもなくイエスは「アラム語」を話していたと言いがちだが、アラム語について正確な知識には乏しい。この著作はそもそもイエスの言語はどのように考えられてきたのかについて初学者にも教えてくれた。

74位
インフォーマルな政治の探究——政治学はどのような政治を語りうるか、松尾隆佑・源島穣・大和田悠太・井上睦編、吉田書店、https://amzn.to/4qSWiIz
ともすると経営学やエスノメソドロジー、あるいは社会学で考えられがちな対象であるインフォーマルな集団、例えば、日産とルノーの企業間関係などを政治学でみるという視点がよかった。ただ、まだ良いのか悪いのか私は判断できていない。

73位
杉本舞のXでの投稿、https://x.com/MaiSugimoto4
一級の学術知識や大学行政改革のときに何があったかの経験などをずっと話していて往年のツイッターの良さを感じた。

72位
投票の倫理学、ジェイソン・ブレナン著/玉手慎太郎ほか訳、勁草書房、https://amzn.to/4pkV9Ii
投票することはとりあえずいいこと、という前提についてポジティヴにちゃんと考えましょうという本だった。こういう問いかけはとても大事だと思う。

71位
日本の経済投票、大村華子、有斐閣、https://amzn.to/4pnHxwb
なんで日本では経済動向に伴う投票行動の変容が起きないんだろうというところを感覚ではなくてデータで裏付けてくれたところがよかった。

70位
NENEとBMSGのビーフ
NENEは年末に結婚して、SKY-HIは未成年女性との関係をめぐるの報道で失墜。なんともいえないビーフの結末。

69位
日本古代交流史入門、鈴木靖民・金子修一・田中史生・李成市編、勉誠社、https://amzn.to/45myO62
こういう定期的に研究をアップデートしてくれる古代史の本がむっちゃ助かった。

68位
競争なきアメリカ、トマ・フィリポン著/川添節子訳、みすず書房、https://amzn.to/4qwjETM
私はアンチ・トランプだが、GAFAMの負の側面についてのみ彼がたまたま抑圧できているところだけ認めざるをえない。そのことを理解できる。インデックス投資は10年単位で伸び率が縮退し、ゆっくりと衰退していくが、それはGAFAMがアメリカ産業にまったく貢献せず、金融経済を空転させるばかりだからだ。本書はそのことがよくわかる。

67位
古代王権の成立と展開、仁藤敦史、八木書店、https://amzn.to/3LlQVlT
天皇が万世一系というフィクションについて数年に一度本格的な本がでるが今年はこの本だった。定期的にアップデートされる古代史は追っていて楽しい。

66位
日本人にとって教養とはなにか——〈和〉〈漢〉〈洋〉の文化史、鈴木健一、勉誠出版、https://amzn.to/49BwLxu
教養という言葉自体が明治以降なのでやや時代錯誤な表現ではあるが、自己研鑽のための勉学の文化史という点を考えると、各時代の知識人が前提にしている内容がわかるので入門によい。

65位
だいまつのどこでも体験隊、https://www.youtube.com/@daimatsudokodemo
昨年より展開に失敗した商業施設をめぐる動画を発表し続けていたが今年ついに10万人到達した。ただの探訪だけではなく、地道な調査もしており、動画の見応えが高い。

64位
西洋文学における魔術の系譜、田中千惠子編、小鳥遊書房、https://amzn.to/3N293Se
幻想文学なども含め、神秘主義的想像力の多様な想像力についてよくまとめた。

63位
【書評】フィリップ・ラクー=ラバルト/ジャン=リュック・ナンシー『文学的絶対―ドイツ・ロマン主義の文学理論』(柿並良佑・大久保歩・加藤健司訳、法政大学出版局、2023年)、二藤拓人、『シェリング年報』33 巻、p. 126-138、https://www.jstage.jst.go.jp/article/schellingjahrbuch/33/0/33_126/_article/-char/ja
もしも天才の仕事をわかりやすく見せるなら、この書評を読ませると思う。

62位
フランスのニーチェ——19世紀末から現在まで、ジャック・ル・リデ著/岸正樹訳、法政大学出版局、https://amzn.to/4sht47H
まさか訳されたとは。ニーチェがどのようにフランスに受容されたかを知る重要な基礎文献の翻訳。

61位
帝国神道の形成——植民地朝鮮と国家神道の論理、青野正明、岩波書店、https://amzn.to/4aBa4KQ
昨年のハンドレッドでとりあげた「墓破」でも帝国神道の影が問題になっていたが、この本は国家神道の成立と植民地問題を包括的に扱っていてとても勉強になる。まだ消化しきれていない。

60位
The Hanged Man、Arcana、https://amzn.to/49fDQm2
なぜこれが売れていないのか謎なくらい面白い楽曲の数々。インストで市場において成功するのは難しいのかもしれない。

59位
悪魔崇拝とは何か——古代から現代まで、ルーベン・ファン・ラウク著/藤原聖子・飯田陽子訳、中央公論新社、https://amzn.to/4b9IX9W
アメリカのオカルト文化史を理解できる重要な本の翻訳だった。

58位
特別展「江戸☆大奥」、東京国立博物館、https://amzn.to/49jcY4y
大奥の文化史だけではなく政治史的な側面もあますところなく示されつつもしっかりとエンターテインメントもやっている非常に優れた展覧会だった。

57位
LUX、Rosalía、https://www.youtube.com/watch?v=GkTWxDB21cA
Bad Bunnyの活躍などでラテン音楽はふたたび世界的な流行を見せているが、こんな前衛的な楽曲でチャートも席巻できるのはすごいなと思う。

56位
インターネット・ガールズ・クラブ、あべしオフィシャル、https://booth.pm/ja/items/7683586?srsltid=AfmBOorX_sPKdRzdWSH4lxn1IAqyXnMadqr8PxF3nRdFIfQVjME4U0fX
今年も同人誌が豊作だったが、本作はラインナップと参加者を平成一桁生まれの世代と、その世代が2000年代に交流しえた人々で見事にインターネットに携わっていた文脈が明らかになった。

55位
アルパカは今日もひとり、https://www.youtube.com/@alpacahitori
東京都港区出身だがいわゆる「中流」家庭出身らしいチャンネル主がブラタモリ的な構成と詳しさで港区について語っていく。普通に面白い。

54位
【総集編】日本の抗うつ薬、「全て」解説しました。【薬学】、いわしのお薬解説チャンネル、https://www.youtube.com/watch?v=I6t7BuTJBko
抗うつ薬の文化表象は多くあるが、多くの場合、書き手自身の実体験が反映されていることの限界が目立つ。そうした限界を超えさせてくれる幅広い知識とわかりやすさがあった。

53位
コマ送り-Frame by Frame-アニメ業界発社会のことを考えるZINE Vol. 1、コマ送り-Frame by Frame、https://fbfkomaokuri.base.shop/items/117374232
アニメーターが業界について社会問題の立場で考えるという時代を感じさせる一冊だった。

52位
MadRaps、Rapsody&Madlib、https://www.youtube.com/watch?v=Rpy8iYIa6Lg
詩のようなラップを聞く喜びを思い出した一曲。

51位
New Life Will Grow、Stereocity、https://www.youtube.com/watch?v=k3GZO689IXI
midwest emoないしmathrockと呼ばれる界隈ではYvette Youngがキャリア最盛期を迎えると同時にもう次はないかな、と思っていたなかで突然人気がでた新星。2010年代のmidwest emo的サウンドを引き継ぎつつ現代的なロック・サウンドになっていた。

50位
福音派――終末論に引き裂かれるアメリカ社会、加藤喜之、中公新書、https://amzn.to/4jpsFvN
この手の本にしては宗教史ではなく、福音派がなぜ政治的な影響力をもちえるのかという背景を高い解像度で説明した類例のない著作だった。

49位
Skipping Tape Vol.3 and Vol.4、WorldWideSkippa、https://youtu.be/y2Kfq_qNy0o?si=8XUWW9kVZSye8rpI
日本国内に限定すると、Tee Shyne、Siero、e5、3Li¥en、MIA、Sonsi、27AM、などぱっと思い出せるだけでこれだけで他にもっとたくさんいい人がでてきているが、なんだかんだ私がベストハンドレッドにいれたいと思ったのは、WorldWideSkippa。

48位
やよい&こふんの古代トーク!、https://www.youtube.com/@YayoiKofun
ゆっくり解説の形式の中でもっとも学術的にレベルが高いもの。古代といっているが先史時代も含むトピックについて正確かつわかりやすく説明している。あの「かぬそぬ」のチャンネルということもあり、今後の人類学・考古学・古代史に大きな影響を与えるだろう。

47位
台湾国家人権博物館企画展「黒名前単」、台湾国家人権博物館
ナショナリズム高揚の中で自国史の暗部を中国共産党批判に基づいてしなかった誇りの高さを感じた。

46位
MUSIC、Playboy Carti、https://www.youtube.com/watch?v=flQ0q8clrWw&list=PLxA687tYuMWiPVIIC_bNd9J8Aq2Mtch8I
やっとでたらすごかった。新しいサウンドでのラッブはいつも楽しい。

45位
第1回 人文系リトルプレス市 in ジュンク池袋、アレ★Club主催、https://are-club.com/2025/06/26/20250626/
優れた試み。肥大化した文学フリマのうち、批評・エッセイ界隈を昔の文フリの規模の感じで実践した。文学フリマにプロが来るななどと言っている人は全員アレ★Clubの活動を見習ってほしい。

44位
ミッシング・チャイルド・ビデオテープ、近藤亮太監督、https://amzn.to/4sB5gf8
2010年代後半から2020年代前半のホラー的映像をすべて集約していた。

43位
WHATMORE、WHATMORE、https://youtu.be/pBc_GSJqK-g?si=__Lpkw4uCdgnsoNu
Yoshi-T所属のバンドだが、ラップなどもしているアッパーミドルクラス的なニューヨークサウンド。“jenny’s”は傑作。

42位
Elle Teresa、https://youtu.be/8KlEGEI3IoQ?si=MNeGzE7PelLg14ac
いまさら感はあるが、今年はLANAと二分するほどの人気をもっているように感じた。また、彼女のフローのスタイルは非常に独特なのものがある。引退してもプロデュースなどもできる能力もありそうなので、今後もヒップホップの未来をつないでほしい。

41位
McKenzie、FattMack、https://www.youtube.com/watch?v=hVzHhT0UeZo&list=PLDhajrZgo0TKV2x8iksDbsDOdQdy6NJFg
アラバマのラッパーなのでサザンのサウンドかと思えば、アトランタではないのでまったく違うメロディアスな感じ。サウンド作りが面白いアルバムだった。

40位
スキナマリンク、カイル・エドワード・ボール監督、https://amzn.to/4sjVT31
アナログホラー的表現技法の最先端のかたちを示すだけでなく、一人称ゲームを応用することで登場人物を画面に映さずともホラー映画を作れるという可能性を示した。

39位
人文系論文における係助詞「は」直後の読点使用の傾向と指導指針、岩崎 拓也・井伊 菜穂子、専門日本語教育研究26巻、https://www.jstage.jst.go.jp/article/jtje/26/0/26_27/_article/-char/ja/
日本語アカデミック・ライティングにおける「は」のあとに読点を打つ条件として「一文中の読点数が2個程度の場合、一文が70字程度の長さがある場合、形式段落の冒頭(一文目)で「は」が使用されている場合という3つ」の可能性が高いことを提示し、経験的な妥当性のある内容であること、日本語アカデミック・ライティングにおける文法以外での知見を提示した。

38位
失踪した友人の部屋に残されていたゲーム、rentaka、https://store.steampowered.com/app/3201810/_/
ホラーインディーゲームであることを逆手にとった表現方法の中で2025年最も優れていた。

37位
ロングレッグス、オズグッド・パーキンス監督、https://amzn.to/494X92M
ホラーとミステリーのすぐれた美的アプローチの卓越さと、すべてが種明かしされても解決できない現実の不条理さを見事に表現した。

36位
「なぜ妻は病院に行きたがるのか(1)」、大脇幸志郎、webゲンロン、https://webgenron.com/articles/article20250821_01
今年読んだ論考の中ですごい共感したもの。統計学を正確に理解するとどうじに文化と社会を語る態度を示すさいにぜひ参照したい。

35位
Tele倶楽部Ⅱ、ピーナッツくん、https://youtu.be/kzuRQCKapNw?si=ipO8rFjmYnZ-6Z1L
ピーナッツくんは本当にすごいと思った。KIRINAIに喰らった。

34位
クリティカル・ワード ゲームスタディーズ、吉田寛/井上明人/松永伸司/マーティン・ロート編著、フィルムアート社、https://amzn.to/49gIHn7
助かってます。

33位
『ブルーアーカイブ』に見る“新しい日本らしさ”と韓国の思想潮流、米原将磨、KAI-YOU premium、https://premium.kai-you.net/article/913
私です。2025年12月時点で最も『ブルーアーカイブ』について面白いことを言っています。

32位
思想としての批評——明治期東アジア哲学における展開、郭馳洋、東京大学出版会、https://amzn.to/4aGed02
「批評」という自体を掘り下げるこういう丁寧な研究を大事にしたい。

31位
田崎英明さんゲスト出演!(6月28日) 登壇者=江永泉 司会=米原将磨 デビュー35周年特別企画『ジェンダー/セクシュアリティ』から『間隙を思考する』へ 田崎英明の思想をたどる、TERECO、https://www.youtube.com/watch?v=YZWyG2G2I4k
1990年代から2000年代の旺盛な仕事ぶりは2010年代から批評を本格的に読み始めた自分にとって田崎英明は遠い人だったが、江永さんの協力で出演していただけることなった。「語る人田崎英明」を見ることができる稀有な番組になったと思う。

30位
アメリカの黒い傷痕――〈生態(エコロジー)〉、新田啓子、青土社、https://amzn.to/4qsjmNQ
俺たちはいつだってこういうハードコアな文学研究書が読みたいんだ。

29位
「酔っ払い」の日本近代――酒とアルコールの社会史、右田裕規、角川新書、https://amzn.to/4smXFjW
2025年の個人史で一番驚いたのは酔っ払いすぎて壁にぶつかり額を切って数針縫ったことだった。そんな自分には天啓のような書だったが内容も優れていた。近代都市と飲酒文化の由来を明治時代の移行期の資料を紐解き文化史を描く労作。ちなみに、右田の研究では「天皇制と進化論――近代日本の統治機構による進化論への対応の変遷」とかいいよね。

28位
Jホラーの核心――女性、フェイク、呪いのビデオ、鈴木潤、ハヤカワ新書、https://amzn.to/3N5Oe8r
この本についてはこちらで説明している。https://diontum.com/archives/844

27位
現代ホラー小説を知るための100冊、朝宮運河、星海社新書、https://amzn.to/3Yk5ERe
こういう見取り図的な本の中でも一番よくできていた。現代のホラーブームは映像だけではなく小説でも展開されているので、この本を文化史的視座を確保するためによかった。

26位
大正教養主義の成立と末路、松井健人、晃洋書房、https://amzn.to/4jn8xKO
この動画を見てください。 https://www.youtube.com/watch?v=lmd5Whto7WI

25位
お布施のからくり――「お気持ち」とはいくらなのか、清水俊史、幻冬舎新書、https://amzn.to/4pD58Jr
日本社会が明治以降から転換を迎えている点として象徴的なのは檀家の減少という統計的事実だけではなく、清水のような仏教研究者が登場してきたところもその一つだろう。近代仏教の通説を原典から創作していく手つきはいつものとおりだが、結論である「お布施は在家者と出家者のあいだに相互利益的な関係を形成し、健全な社会の基盤を支える」という発想はそのとおりだと思った。日本の宗教文化を考えるうえで重要な一冊。

24位
日本の後宮――天皇と女性たちの古代史、遠藤みどり、中公新書、https://amzn.to/4pjPYIQ
義江明子ら女性史と古代史研究のアップデートはどれも知的好奇心を刺激されるが、古代末期である平安時代の女御・更衣がいったいどのような制度的変遷を辿っているかすぐに理解できる素晴らしい新書だった。

23位
今年の『思想』、岩波書店、https://amzn.to/3MYwrAa
フランツ・ファノン、現代中国思想、ドゥルーズ、哲学教育/哲学対話、シェリング、セルトー、といった近年稀にみる優れた特集が続いた。

22位
そらみつ、米原将磨編、フヒトベ、https://amzn.to/4q1Cxya
私が編集しました。Amazonのアカウント対応遅れで現在買えないものの、イスラーム・カリブ海・短歌批評・暴力と映画の関係など、今話題であるだけではなく、普遍的なものを作り続けたいです。第二号は原資を作っているところです。

21位
はじめての圏論――ブンゲン先生の現代数学入門、加藤文元、ブルーバックス、https://amzn.to/4skIkAv
2010年代は人文情報学の誕生と圏論の知的重要性の高まりによって説明できるかもしれない。しかし、圏論について入門することはこれまでまったく簡単ではなかった。この本はこれまでにない適切でわかりやすい入門書だった。

20位
新しい階級社会――最新データが明かす<格差拡大の果て>、橋本健二、講談社新書、https://amzn.to/4qyxRQk
前著でも格差社会が日本で生まれていることを示していたが、コロナ以後の展開と階級と政党支持の関係を統計的に示しているのも素晴らしかった。

19位
第四境界、https://www.daiyonkyokai.net/
2025年時点でARGのホラー・ミステリーにおける表現方法のスタンダードを確立した。

18位
サイレントヒルf、竜騎士07原作/コナミデジタルエンタテインメント、https://www.konami.com/games/silenthill/f/gate?p=q9avy6C9QUKFRFGSGPvBvSpsOXH1Uth4gvBKWu0xdJY%3D
日本産のトリプルAタイトルホラーとしては久しぶりに上質だったが、それよりも加藤小夏筆頭に主演した俳優が実況するという文化が作られ、それが面白いということがよかった。今後も日本で3DCGアクトの文化が発展していってほしい。

17位
ネオリベラリズム概念の系譜 1834-2022、下村晃平、新曜社、https://amzn.to/49ALXLd
社会について何か言いたい人が「資本主義」というのが浅そうに見えるので「ネオリベラリズム」と言い換えがちな中、この言葉と真摯に向き合ってその概念史を明らかにした。

16位
疫《えやみ》シリーズ、川端匠志・高山創一監督、https://www.youtube.com/@EYAMIofficial/videos
もともとはお化け屋敷の販促ドラマだったはずが沖縄ホラーのアップデートが果たされた。川端匠志は沖縄ホラーの鍵なので要注意。

15位
RPGのつくりかた――橋野桂と『メタファー:リファンタジオ』、さやわか、筑摩書房、https://amzn.to/4q1TJ6P
こんな本は、ふつう、ありえない。『ペルソナ』シリーズを手掛けたクリエイター橋野に制作中のゲームについてインタビューし、足掛け7年のインタビュー記録。こういう仕事を残す批評家のさやわかに敬意を表す。

14位
国宝、李相日監督、https://kokuhou-movie.com/
『フラガール』自体が青春部活ものフォーマットをビジネスシーンではどうなるのかというときにただの芸能業界ではないという素晴らしいラインを題材とるセンスをもった李相日が、日本にある死ぬまで部活ものとして描けることものして歌舞伎にトライした結果の映画。カメラマンの選出も最高で、こんな優れた日本映画は久々に見た。実家に里帰りしたさいに時間をつくれたので車で30分先の映画館まで見に行ったが、終わったあとに「監督は韓国人なんね」と悪気なく言い放っていた団塊世代の人々にはなかなかくるものがあった。

13位
Kamui、https://youtu.be/rWTE0Jf9Tr8?si=pPSvHKU_gSsm64Pj
『RAFRAGE2』以降のRAF Studioの配信の飛躍、フューチャリングを通じたシーンの可視化、若手からdisを仕掛けられざるを得ない影響力、Ralphとの和解、など更なる飛躍への予感のする活動をした。

12位
ウィキッド ふたりの魔女、ジョン・M・チュウ監督、https://youtu.be/cCN3Ryg-JsE?si=_NSKm30A5RhrzEgf
優れたキャスティングや原作準拠すぎるのにもかかわらず、ミュージカル映画的なリメイクを高い水準で達成した。

11位
アンビバレント・ヒップホップ、吉田雅史、ゲンロン、https://amzn.to/3Yk7TnG
日本語でラップすることと日本人がビートを作成することの意味を考えさせる現在の日本で読める著作で最も優れた一冊だった。

10位
SIX 日本公演、https://youtu.be/kW4IhTAPe1o?si=pjXWoMmtW-yP3htB
近年の日本のミュージカルの中でも圧倒的に優れた演出と生バンドのグルーヴによるライブ的な興奮など優れたエンターテイメントだった。

9位
飯沼一家に謝罪します、TQX Fiction、https://www.youtube.com/watch?v=5reWQdYhe6c&list=PLe7yaPWHjEKrJY5nXB94E9z3ZQxUOVLy0&index=4
『魔法少女山田』もよかったけど、2024年12月公開で今回の対象範囲なのでこちらを挙げる。現在時点でのオカルト系モキュメンタリーホラーの金字塔の一つ。

8位
変な地図、雨穴、双葉社、https://amzn.to/4phOe2E
男性主人公の視点で、因習村・ブラタモリ・フェミニズム・戦前の組み合わせで最高難度のエンタメだった。

7位
親子星、SEEDA、https://youtu.be/84OksE-3GS8?si=BZnE8Qs6MBOawrnG
今年のアルバムの中で一番よく聞いた。

6位
季節、石黒麻衣脚本・演出、劇団普通、http://gekidan-futsu.com/works/kisetsu/
驚異的な作品だった。ほぼ毎年同じようなテーマにもかかわらず微細に演出や表現方法、脚本を変えることで驚かせてくれるが、今回は自分の中でもっともすぐれた劇団普通作品だった。すべてが予断で話される意思疎通をこれほど昇華した作品はあらゆるコンテンツでみたことがなかった。

5位
FORCE Festival、YZERRプロデュース、https://youtu.be/BZZAQFNYAzA?si=d6KdDd_2WVodPrZ_
アトランタ主義のYZERRが主催する大規模なフェス。ビルボードチャート100位以内を取ったことがあるラッパーたちが一同に介してするパフォーマンスは圧巻だった。日本のヒップホップシーンの未来が変わったと思う。

4位
「あの戦争」とは何だったのか、辻田真佐憲、講談社現代新書、https://amzn.to/4pYsSZb
辻田真佐憲の著作をすべて読んだのでいうが、これは彼の最高傑作だ。アジア各国が日本との戦争をどのように博物館で描くかを地道な取材で解き明かし、ヨーロッパの枢軸国が二次大戦のモニュメントをどのように扱っているか現地調査することで、戦後80年談話にも影響を与えた好著。

3位
トワイライト・ウォリアーズ 決戦! 九龍城砦(九龍城寨之圍城)、ソイ・チェン(鄭保瑞)監督、https://amzn.to/3LrPKBk
見たああとすぐに香港料理を食べた。すべてが予測できる展開なのにすべて面白い。

2位
ズートピア2、ジャレド・ブッシュ/バイロン・ハワード監督、https://www.disney.co.jp/movie/zootopia2
大抵の場合、2はつまらないが、今回は1のわかりやすさをすべて捨てつつアニメーションのわちゃわちゃの楽しさと展開の早さに振り切ることでさらにレベルの高いアニメーションとなっていた。

1位
エルデンリング・ナイトレイン、石崎淳也監督、フロムソフトウェア、https://store.steampowered.com/app/2622380/ELDEN_RING_NIGHTREIGN/
フロムゲームだけではなくローグライトゲームにおけるキャラクター人気を確立し、かつ、フロムゲームのメタ的解釈を通じてスルメ的プレイを実現した。



選外
コーパスで学ぶ日本語学——日本語の文法・音声、丸山岳彦編、朝倉書店
阿修羅のごとく
アドレサンス
GUNDAM Gquaaaax
北朝鮮に出勤します
西田哲学の仏教と科学
海に眠るダイアモンド
実学思想の系譜学
ニセコ化する日本
スピリチュアリズムの時代1847-1903 伊泉龍一
I lay down my life for you JPEGMAFIA
普通の組織 ホロコーストの社会
無知学への招待
The Problem of God in Buddhism by Signe Cohen
詩人たちの自然誌
アニメーションと国家 戦うキャラクター、動員されるアニメーター
位相空間の道標 基礎から位相不変量まで 小池直之
台湾の歴史 大全 春山明哲・松田康博・松金公正・川上桃子 編 藤原書店
〈気〉の人類学ー気功現場の身体経験 黄信者 世界思想
構想なき革命 毛沢東と文化大革命の起源 高橋伸夫 慶應義塾大学出版会
なぜ自由貿易は支持されるのか 久米郁男/編 有斐閣
経験から学ぶ人的資源管理 第3版 上林憲雄・厨子直之・森田雅也 有斐閣
ELSI入門 カテライ・アメリアほか 丸善出版
『ヒルベルトの23問題に挑んだ数学者たち』B・H・ヤンデル 訳:細川尋史(みすず書房)
森靖夫編『総力戦とは何だったのか』(千倉書房)
『ユーミンと「14番目の月」』 ラッセ・レヘトネン 平凡社
日本道教学会編『道教文化と日本 陰陽道・神道・修験道』
天皇の軍事輔弼体制――元帥と戦争指導の政治史 飯島直樹 名古屋大学出版会
鎌倉幕府の文学論は成立可能か!? 真名本『曽我物語』テクスト論 神田龍身 勉誠社
シェリング政治哲学研究序説:反政治の黙示録を書く者 中村徳仁 人文書院
新・古代史: グローバルヒストリーで迫る邪馬台国、ヤマト王権 (NHK出版新書 735) NHKスペシャル取材班
中国の女性演劇 越劇とジェンダー 中山文 勉誠出版
本歌取り表現論考 小山順子 勉誠出版
ピンクと青とジェンダー 青弓社
Communism in Philosophy: Essays on Alain Badiou and Toni Negri Alberto Toscano BRILL
現代中国女性のライフコース 一人っ子世代の親子関係と家族意識を読み解く 陳予茜 青弓社
福祉権運動のアメリカ──ブラック・ラディカリズムとフェミニズム 土屋和代 岩波書店
遊びから文化と社会を考える 吉田寛/井上明人/松永伸司/マーティン・ロート=編著 フィルムアート社
ファッションセオリー—ヴァレリー・スティール著作選集 ヴァレリー・スティール アダチ・プレス
BOBBYNOPEACE ft.迪諾哥 灰色頭髮 https://youtu.be/QuKs_BhPtKY?si=0xghkB4mSwSQWDsb
ファッションセオリー――ヴァレリー・スティール著作選集 ヴァレリー・スティール アダチプレス
アウシュヴィッツ以後、正義とは誤謬である アーレント判断論の社会学的省察 橋本摂子 東京大学出版会
フランスの右派、ルネ・レモン
Siero
劇場版名探偵コナン 隻眼の残像
ミシェル・ルグラン 世界を変えた映画音楽家
ほんとにあった!呪いのビデオ 112、113
Okinawa Wuman、Awich
99 steps
10 Dance
K-POPガールズ!デーモン・ハンターズ
弁論、こたけ正義感
ぐんぴぃ
Tucumán Escondido – Vol. 1 – EP、Juan Falú & Emilia Danesi
幕末土佐の天才絵師 絵金(展覧会)
言語学を科学哲学する、山泉実ほか編、大修館

カテゴリー
南礀中題 米原将磨

鈴木 潤 Jホラーの核心: 女性、フェイク、呪いのビデオ (ハヤカワ新書)

Kindle https://amzn.to/47O8ySx
書籍  https://amzn.to/4orUHs6

前に、こんな話をした。
https://diontum.com/archives/828

女性の生死が問題にされることが多い、最近の流行作家は男性と思われる人が中心で女性を主人公として描いていることが多い、その手の展覧会の鑑賞者には女性が多い、みたいな基本的なことがだいたいスルーされていて微妙な気持ちになった。

今回の話は、ようやく必要な議論の前提を作れる書き手の登場したと感じた。鈴木潤だ。

https://researchmap.jp/suzukijun_z16

鈴木潤は、日本のホラー映画、とりわけ「Jホラー」と呼ばれる領域を中心に研究してきた研究者で、現在は開志専門職大学アニメ・マンガ学部の助教。大学院時代から新潟大学のアニメ・アーカイブ研究センターに関わっていたそうだ。
鈴木の議論の特徴は、メディア論的アプローチだ。幽霊や呪いといった怪異譚についての物語論的、あるいは文化人類学的ないし民俗学的アプローチではなく、それがどのようなメディア装置—VHS、ビデオカメラ、フェイク・ドキュメンタリー形式など—を通じて成立してきたのかを読み解く。たとえば『リング』に代表される「呪いのビデオ」がなぜ90年代に成立したのか、そこにはいかなる社会的イメージの流通が関与したのか、といった考察がその代表例だ。このあたり本書でも読み応えのある論証がなされている。
新書ということもあり、ここ最近のホラーブーム作品も多く紹介されているだけでなく、主要作品とスタッフ相関図がとても役に立つ。つまり、ホラーブームとは、作品同士の影響関係はあるにせよ、人物相関としては、おおきく二つにわかれる。その人物相関がそのままホラー作品のメディア的形態や作風の傾向も示していることがよくわかる。知りたい人はぜひ買ってみてほしい。
なお、ホラーのセオリーまとめなどを期待している読者にとってはおすすめしない。本書は、80年代以降の日本の代表的なホラー作品について見取り図を用意するのに限定している。よって、何か新しい理論的更新などはあまりないが、それは今後刊行されるであろう博士論文に期待したい。

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南礀中題 米原将磨

今後の予定について 中間報告

2024年の初頭に、向こう3年の計画を公開した。2年目が終わろうとしているので、レビューしたい。前回の記事は以下の通り。

レビューは以下で評価した。

●: 完了 ▲:進行中 ✖︎:未着手

前回は活動名で振り分けていたが、全体像がかえって曖昧になっているので、仕事の種別ごとにわけた。
来年度の依頼を受けている仕事は、自分から展開できる内容ではないので、以下には掲載していない。
いくつか新しい仕事も追加している。その場合は🆕をつけている。

フヒトベ社について


●2024年1月 メディア事業者である合同会社フヒトベを登記。→21月に登記完了。2月1日を創立日とした。

●2025年1月 YouTubeチャンネルTERECOの運営
→経費は回収できていないが、売上は継続的に微増している。ゲストで鮎川ぱてさんや田崎英明さんをお呼びするなど、独自の色を出せている特殊な批評チャンネルになっている。このTERECOの方針でいくと、チャンネル登録者1万人が市場規模だろうと推測している。現在、400人程度なので、市場の4%シェアとみなせる。2026年には配信回数が増えるはずなので、500人を超えてメンバーシッププランを開始予定。

●2024年12月 年刊雑誌『そらみつ』の発刊
→無事刊行した。Amazonで好評発売中。  創刊号の総売上は少ないが、本当に面白いものを作れたと思っている。資金の目処がつき次第、第2号を刊行する。テーマは「おそれ」。

✖︎2024年2月末ないし3月中旬 不定期更新オンライン文芸誌『うまこり』をローンチ。
→2026年4月 掲載予定のものはどんどん溜まっているが、処理できていない。WordPressからの脱却を考えているが設計をする暇がないので、停滞している。2026年のメインの仕事となりそう。

●2024年6月 『批評なんて呼ばれて』の普及版『批評なんて呼ばれた』をフヒトベより刊行。手紙形式ではなく一人称形式にし、構成も一部見直す。
→『批評なんて呼ばれて』は書き直さないことにした。その代わり、紙を一般的なものにした普及版を刊行している。直販のみなので、文フリなどで買ってください🙇

🆕2026年8月 ゲームと音楽のレーベルについて正式発表する。すでに名称は決定しているが、デザインや社内設計の準備ができていない。

研究について


●2024年4月 アルフォンソ・アレとパヴロフスキーの系譜学的な読解についての論文。Julien Schuhの象徴主義におけるセナークル論とDevin Griffithsの科学アナロジー論を統合し、作品分析をするもの。
→2025年12月 この論点を含む論文を提出済。論文にはGriffithsの論点は入っていない。論文の長さでは展開できなかった。博論では追加予定。

✖︎2024年5月 19世紀末から20世紀初頭のフランスにおける科学と哲学における原子論、および創作における原子表象の差異についての論文。
→全く着手できていないが、そもそも博士論文において、論文化するほどの調査が不要なことも判明。この論文は書かない。

✖︎2024年9月 スピリチュアリスムにおけるUnité概念と反知性(l’anti-intelligence)の同時代受容における同質性についての論文。
→2026年3月 できてない。こちらはできていないのがまずい。

▲2024年10月 ガストン・ド・パヴロフスキー『額の中の皺』のユーモア表現についての論文。ただし、必要な資料の一部について、フランスに資料閲覧を行く必要があり、渡仏できない場合はこの論文については発表できない。
→2025年12月 渡仏して第一次世界大戦と「同意」の問題について理解したので、その線で分析予定。

▲2025年3月 余裕があれば、パヴロフスキーにおけるユーモア概念の変遷および戦時下におけるユーモアの意義を問う論文。
→2025年12月 ユーモアの定義あたりについてなどの精査はできている。ただ、アイロニーとの違いなどについて論理的な詰めが緩い気がする。風刺文学の論証のイロハをもっと知る必要がある。

✖︎2025年6月 デジタル・ヒューマニティーズと批評理論を統合する理論的枠組みをする論文。査読誌はおそらく『言語態』。
→2026年12月 めどが立っていないが、博士論文に集中している間は執筆しない。論文にする意味もないかもなので、「うまこり」に掲載するかも。

✖︎2025年10月 博士論文「ガストン・ド・パヴロフスキーの思想の全体像の解明」を機関に提出。口頭審査後、一般公開。
→2026年10月 がんばる。

✖︎2026年5月 出版社がとくに決まらない場合、自社であるフヒトベ(下記を参照のこと)から僅少部数(500部程度?)で博論を一般向けにして出版予定。題名は未定。
→2027年5月 がんばる。

創作

✖︎2026年6月 小説『負債の星』をフヒトベから刊行。経済批評の実践として債券・仮想通貨・人工衛星をテーマに小説を刊行。
→2026年12月 小説書くの面倒なので、もしかしたら、個人でゲームにするかも。テキストADVにできたら面白い。

▲2025年8月 合同会社イースニッドよりADV PCゲーム「アイリス・オデッセイ第一作 『パンドラの少女』 」を発表予定。米原はプロデューサー、ナラティブデザイナー、演出効果で参加。ゲームはsteamで販売予定。
→2026年某月 イースニッド社の販売予定案内をご確認ください。

🆕2027年12月 インディーゲーム規模のホラーゲームの販売。AIの登場によって自分でコードを書いて、自分でデザインして、自分でモデルを作って、非常に安価にゲームが作れるようになったので、ぜひ挑戦してみたい。ゲームシステムのアイディアはあるので、シナリオを詰めていきたい。

批評

✖︎2025年4月 タイトル未定の批評文化論についての本をフヒトベより刊行。『批評なんて呼ばれた』は2010年代の個人的な回想だったのに対して、こちらは1980年代から2010年代にかけての批評史をインターネットインフラの発展やソフトウェアエンジニアリングの技術変遷などを踏まえつつ、ジャーナリスティックな手法でまとめる予定。刊行が間に合わない場合、『うまこり』などで連載予定。
→2028年1月 「この国のかたち」みたいなタイトルの思想の本を書きたい。そこには私の理論的な基盤を全て整備するような本にする。やはり、人文を愛しているのであれば、L’Être et le NéantThe Claim of Reasonのような本を一度は書いてみたい。

▲2026年4月 フヒトベより、音楽批評集『恋は二度死ぬ、あるいは死なない』を刊行。『うまこり』で個別に販売することも考えている。現在予定してる目次は以下の通り。
→ 2026年12月 博論に集中したいので、そこまで書けないかも。以下の進捗。
✖︎恋は二度死ぬ、あるいは死なない ― aikoについて
→これは書くだけ。
✖︎リズムの哲学者 ― 山下Topo洋平について
→これは書くだけ。
✖︎世界が終わるほどのロック ― チャットモンチーの世紀末的感性について
→アプローチ変える。ガールズバンドの文化史みたいなのがいいと思っている。
✖︎踏むのは手続きと韻だけ ― 短歌とラップについて
→あんまり書く気がなくなったので、執筆しないものとする。テーマの前提が間違っていた。
✖︎最初から最後の恋 ― 宇多田ヒカルについて
→執筆することをやめることにした。私はうまく書けないだろうから。
▲ミス・アメリカーナの肖像 ― テイラー・スウィフトについて
→BRIDGES Vol.2にて、構想部分だけは発表。
▲アイロニーのアメリカ人 ― エミネムについて
→BRIDGES Vol.2にて、構想部分だけは発表。

▲2026年12月 アニメ批評集を刊行。「声と死と」・「シャフ度の系譜学」といった米原初期の批評を完全にリバイズ。その他、3DCGアニメ論、ミュージカルアニメ論を執筆する予定。
→2027年3月 アニメ批評というよりゲームやアニメなどの様々なコンテンツを横断するものにしたい。いよわ論でアニメーションのMVについて論じた。3DCGについてもっとかんがえないと書けなさそう。また、ラマールの読解を通じたアニメ批評の理論的更新をしたい。

総評

進捗率は33%。原因としてはイースニッド社開発のゲームに関する業務が非常な負担となっていたことがあげられる。当初はナラティヴデザインとアーティストのブッキングと事務周りだけの予定が、プロジェクトマネジメント・音源監修・スクリプトもやることになり、本業と合わせてあまりにも忙しかった。
そうしているうちに、計画の発表から2年が経った。最近の健康診断によると、前回から体重が2キロ減り、体脂肪率が10%となり昨年比10%減だった。睡眠不足でも以前は仕事ができたがもう全然できなくなってきている。疲れが溜まりやすくなった。そのようにして死を感じたので、最近は忙しさに甘えてしていなかったキャリステニクスを本格的に再開し、食事を増やすようにした。
とはいえ、2024年から2025年にかけては、初めての韓国旅行、台湾でのビールバー巡り、奈良から京都への徒歩縦断、フランス滞在研究、フロムゲーのやりこみ、などなど、人生でいつか振り返るだろう充実した時間もたくさん過ごせた。
2026年に向けて、体力回復を意識づけたい。

カテゴリー
南礀中題 米原将磨

石破茂について

戦後80年談話は戦後談話の中でもとりわけ奇妙なものだった。

戦後 70 年談話においても、日本は「外交的、経済的な行き詰まりを、力の行使によって解決しようと試みました。国内の政治システムは、その歯止めたりえなかった」という一節がありますが、それ以上の詳細は論じられておりません。

このような書き方は批評家や評論家のふるまいであって、政治家の振る舞いではない。彼がこうした書き振りを抑えきれないということこそ、彼が政治家としてではなく評論家の方が向いていたことを物語っていると同時に、戦後で初めて、そしておそらく最後に評論家が首相になったことを意味する。また同時に、首相として評論を発することであらゆる評論家より現在においても後世においても読まれる文章を書いたことは否定しようがない。優れているかどうかなどは関係がない。
とはいえ、ではなぜこんな中途半端な論評を発表したのだろうか。
結局のところ、首相がこれを発表した、ということそのものの権威性を彼は信じたのだろう。必ずこの文書はアジアで翻訳される。日本語で書かれた日本人のための言葉ではない文章として割り切り、戦争責任についての考え方を首相として残すこと。評論家としての半端さを受け入れることができなければ決してそんなことはできない。その半端さゆえに、多くの現役の評論家は彼の政治家として配慮する評論家という姿に文句をつけるだろう。ただ、評論家であるがゆえに、非難されることもまた彼は百も承知なのだ。
鳥取の名士であった浄土宗の父をもつキリスト教徒、政治家であり評論家という相矛盾した男、石破茂。
2018年のインタビュー記事によると、石破氏は4代目のクリスチャンで、母方の曾祖父が、新島襄の愛弟子である金森通倫(みちとも)だった。40代でいったん棄教するものの、その後、救世軍やホーリネス教会で活躍し、晩年は湘南の葉山の洞窟で暮らす変わり者だった。金森の妻、旧姓・西山小寿(こひさ)は神戸英和女学校(現在の神戸女学院)の第1期生で、岡山の山陽英和女学校(現在の山陽学園)の創立者の一人に名を連ね、初代専任教師になった。この二人の長男・太郎が石破氏の祖父で、その長女・和子が石破氏の母親となる。この和子と結婚したのが、鳥取県知事から参議院議員になった石破二朗だった。キリスト教徒の家庭の娘と結婚した浄土宗系の二朗が何を考えていたのかはわからない。息子の石破茂氏は、1975年頃、母親が通っていた日本基督教団・鳥取教会において18歳で洗礼を受けたそうだ。
一度、彼にキリスト教徒であることが政治家においてどのような意味をもっているのかについて、ある機会に尋ねたことがある。私が一番感銘を受けたのは、その言っている内容ではなく、事前に簡単に調べていた中にでてきた言い回しや内容をそのまま繰り返したことだった。人は同一のテーマについて、多少のアレンジを入れたりするものだが、言葉を狩られて何を言われるのかわかないし、内容よりも行動と振る舞いが人物の評価を決定づけてしまう政治の世界を生きた人間の職人芸のようなものをの見せられた。しかし、そうした振る舞いはあまり評論家的ではない。評論家も特定の見解を持っているが、話し方を盛ったり、省略したり、新しい例をもってきたりしてバリエーションをだすものだ。もしかすると、彼の政治家的な振る舞いは牧師が似たような話をいつでも繰り返せる説法に由来しているのかもしれない。生来の生真面目さと勉強好きな側面は、牧師であればさぞかし立派になっただろうが、田中角栄時代を学生として過ごし、父も政治家だった彼は、政治家の道を歩んだ。これが、評論家であり政治家である石破茂という人を作ったのだとするとなかなかに興味深い。
そういったこともあり、彼がこの時代に宰相をなすにはあまりにも相応しくない。もしも、16世紀ボルドーに生まれていれば、父の跡を継いだシャトーに住まい、アキテーヌで『エセー』を書き続けたモンテーニュになっていたのかもしれない。鳥取は日本酒がうまいが、ボルドーはワインがうまい。
彼自身も若手として年長世代に思うところがたくさんあったはずだ。しばらく前から、自分がその老境に達したが、鷙鳥不群を掲げるように、派閥を作ることに熱情はない。首相も自民党の党内政治の空白期間になっていたに過ぎないといえる。国民から人気もない。残酷なことだが、彼がどれほど真面目な人だろうと、政治家とは印象の商売である。例えば、同じキリスト教徒としてもバラク・オバマが無宗教者から福音派まで味方にしてしまう魅力に比べれば、ほとんど何もないといってよい。彼は話し上手だが、人を魅力する語り手ではないし、文章を書くのがとても得意だ。またさしく評論家であり、今もさっそく自民党に対しての評論家として活動を再開している。
とはいえ、私が実際に会ったことのある政治家たちの中で、彼は確かに尊敬に値する人物だと思った。叶うならば、食べ、飲んで(ἐσθίων καὶ πίνων ルカ 7:34)、いつか、彼が父祖たちとともに眠るであろう時に(ὅταν κοιμηθήσεται μετὰ τῶν πατέρων αὐτοῦ 申命記31章16節)、その墓標を訪ねて、私はそっと梨の花を供えたい。

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南礀中題 米原将磨

物理系における計算Computation in Physical System

物理系における計算Computation in Physical Systemが面白かった。

だいたいこんな感じで説が分かれてて、ほえーとなった。
ちなみに、ここで汎計算主義と言われているのはだいたい落合陽一の著作での主張だと思って読むといいかと。

1.写像説
(a) 単純写像説

メリット: 定義がシンプルで理解しやすい。どんな物理系にも計算的記述を対応づけられるため包括的に説明できる。
デメリット: 「岩も計算している」といった過剰に対象を包括するのにつながる(汎計算主義)。計算概念が空洞化し、意味のある説明力を失う。

(b) 制約写像説
メリット: 単純写像説の恣意性を排除し、計算をするシステムとしないシステムを区別できる。反事実的制約・因果関係・傾向性などを用いて、現実的な実装条件を反映できる。
デメリット: 「どこまでを制約とするか」が曖昧。全ての物理系に何らかの計算を割り当てられる可能性が残る。

(c) ロバスト写像説
メリット: 情報理論に基づき、写像の堅牢性を厳格に定義。「岩の温度変化をNOTゲートに見立てる」といった擬似的計算を排除可能。何言ってるか分かりづらいけど、加熱される温度変化って形式的には0,1の遷移で説明できるけど(加熱前を0として、加熱後を1とみなすことを繰り返すみたいなこと)、それって他の条件無視しすぎだし(加熱前後の定義が曖昧じゃん、みたいな)、加熱という物理現象の因果関係説明できてないよね、みたいなこと。これを排除できるのが良い。
デメリット: 理論が新しくて反証された議論が十分じゃないっぽい。他分野への適用可能性は未検証。なんか細かいことはAnderson, N. G., and G. Piccinini, 2024, The Physical Signature of Computation: A Robust Mapping Account, Oxford: Oxford University Press.読むしかないらしい。科学哲学のロバストの議論の応用かな?

2.意味論的立場
メリット: 「表象なくして計算なし」という直観を捉え、心やコンピュータを計算するものとして説明できる。認知科学に適合しやすく、計算的心の理論を支持。
デメリット: 「何が表象か」を特定するのが困難。表象を扱わない計算(純粋なアルゴリズムや物理的演算)をうまく説明できない。なんでもありになって汎計算主義になりがち。

  1. 構文論的立場

メリット: 意味論に依存せず、記号操作を構文的規則のみに基づいて定義できる。計算を純粋に形式的処理として理解可能。
デメリット: 構文タイプを定義する際に結局意味論を前提にしてしまう可能性がある。コンピュータ科学での計算概念をすべて包含するわけではない。

4.機械論的立場

メリット: 計算を「機能的メカニズム」による情報処理として定義し、工学的・生物学的説明に親和的。誤計算(関数の計算命令したら別の関数で計算してたみたいなやつ)をうまく説明できるし、異なる物理的な実装基盤間の共通性を説明可能。汎計算主義を回避しやすい。
デメリット: 「メカニズムの構成要素の機能」をどう定義するかが難しい。抽象度を高めすぎると恣意的な構成が可能になる危険もある。

5.汎計算主義

メリット: 宇宙を根本的に計算的とみなす統一的世界観を提供。一部の物理学者の宇宙モデルと整合的。
デメリット: 「すべてが計算」という主張は「計算は計算である」と言っているのと変わらないし、認知科学や情報科学の考え方の基本をダメにしてしまう。無制限説は何も説明できなくなるし、制限説でも「岩も計算する」など直観に反する。個人的にはというかそれ言って何になるのかわからない。詩人ならメタファーなので可。

6.物理的チャーチ=チューリング論題CTT

(強い説)
メリット: 計算可能性と物理法則の強固な一致を主張。
デメリット: 反例(ランダム過程・連続量の扱い)が多すぎ現実的ではない。

(穏健modestな説)
メリット: 「人間が利用可能な物理計算はすべてチューリング計算に含まれる」として妥当性が高い。
デメリット: チューリング計算できないものを計算するハイパーコンピュテーションの可能性が残っており、完全な決着はない。

7.ハイパーコンピュテーション
メリット: 計算可能性の限界を探る理論的試み。無限加速TM・相対論的ハイパーコンピュータ・量子モデルなどで「CTTを超える可能性」を提示。
デメリット: 現実の物理的実装は未証明で、ほとんどが思想実験に留まる。無限精度や非現実的条件を前提にしていて、工学的に不可能。

個人的にはロバスト写像説かなー。Modest CTTは、そうなんだろうけど、面白ポイントがよくわからなかった。自分が詳しくないからなんだろうな。

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南礀中題 米原将磨

ホラーブームについて

ホラーブームの語り、一応、本になっている評論系のものはさくさく読んでる。

傾向として見えてくるのは、男性がだいたいまとめていて、ジェンダー系の評論への一切言及なく、だけど、女性作家が長く活動してジャンル横断的に活躍していることに触れても、個人の資質に還元して終わり。

女性の生死が問題にされることが多い、最近の流行作家は男性と思われる人が中心で女性を主人公として描いていることが多い、その手の展覧会の鑑賞者には女性が多い、みたいな基本的なことがだいたいスルーされていて微妙な気持ちになった。

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南礀中題 米原将磨

いまさら普遍性について

普遍性について、哲学の考え方に触れずに来た人は、それをあの世とこの世というわけで、宗教とは普遍性の実践何だなと最近よく思う。

つまり、正義はなぜあまねくところにあるのか、という問いには、あの世とこの世の理をつらぬくから、という発想なわけだ。

私はデリダの「計量不可能としての正義」という考えたかに馴染んでいたが、これは上記の宗教性が背景にあったのか、といまさらながらに思った。

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TERECO 南礀中題

困った人認定本を片手に何か言う困った人を避けたい

https://www.mikasashobo.co.jp/c/books/?id=00401500

言うまでもなく、私は職場の困った人だ。

最近、それについて産業カウンセラーが書いた本が出て、ほとんど予想通り炎上している。

一方で、この本のマーケ対象はこの本に批判的な人たちではない。他人と合わせて働くことのできる人々の方が多数派であり、それがために経済活動が動くという事実は否定できない。だから、他人に合わせて働けない人は売上にならない困った人、というわけだ。

ただ、「困った人」なるカテゴリーを同僚に向ける人たちは、言動を理解するパターンに乏しい人が多い。困った人たちは、同じノリの同じ仲間としかつるんでこなかったみたいに思われるが、私はどっちもどっちのように思う。それでも、同じノリであれば業務コミュニケーションコストが非常に下がるので、効率的に感じるし(実際に効率的とは言ってない)、みんな困った人に困っているわけだ。

私は管理職なので、上記のように、ここで意図されていることそのものはとてもよくわかる。ただし、私は困った人であるにもかかわらず、なぜか管理職をやっている。どうしてそんなことができるかというと、私は人を困った人扱いする人間をそもそも信用していないからだ。そうした人間の欺瞞も「困った人」とされる人々の振る舞いも等価にパターン化された言動にしか見えない。

例えば、親密度とチーム業遂行能力が比例しているという考え方がある(正しいとは言っていない)。もちろん、困った人の筆頭である私は職場の飲み会には一切行かない。私の業務範囲で売上に繋がらないからだ。人を困った人扱いする人のうち、親しくないと働きづらい人は現実に存在するが、私にはどうしようもない。私は好き嫌いなく働くしかないし、同じチームにいる人間の得意不得意を判別して不得意を減じて得意を増やすようにしかできない。私は好きも嫌いもないので、あなたも人を好きとか嫌いとかで判断して働くのはやめてください、というのしかない。ちなみに、私が飲み会に行く時は、誰かが退社する時だ。その人が会社の人と仲良く過ごす最後の時にやってくる見送り人というわけだ。私はいつも別れの準備ができるようにしている。

最後に、少し真面目に考えてみると、これは管理職と管理職予備軍向けの自己啓発書なわけだ。産業カウンセラーが書いているからこういう語り口になるし、それで現実に救われている人もいる。ただ、これが総じて差別的かといえば、差別的だ。これを武器にして診断の下りている人を攻撃する愚か者が溢れかえるだろう。

そもそも、人を困った人呼ばわりするような人々の考えがちな、コミュニケーションをなんとかしたら問題が解決するというのは神話にすぎない。人間を大切するために人格や性格というものをあまりにも価値をおいてはいけない。道徳は人間を超えて存在するものなのであり、性格や人格、診断、そんな卑小な尺で判断してもどうしようもない。人間を大切にするために人を人として見ないこと。すべてを客観性とシステムに落とし込むこと。効率化を人間を否定するシステム化ではなく、多様な人間を同一システムで働くことができるような工夫だと理解すること。結局のところ、『アンチ・モラリア』をもう一度人は読み返すべきなのだろう。

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佐藤正尚 南礀中題

改めてふれざるをえない人文系の研究における深井智朗の不正の深刻さ

人文系の研究における深井智朗の不正は、この話題に関心を持っている研究者以外の人の想像をはるかに超える問題があることをあらためて記したい。

あえて理系でたとえれば、医療倫理にふれえる内容の医学系論文が、存在しない研究機関の存在しない研究によって示された捏造された実験結果に基づいて、現実の患者がその捏造に基づいて危害を加えられる、といったところか。これまで似たようなことはあっただろうが、少なくとも研究テーマが有名な領域で捏造するのは、「まぁ典拠先見られたらバレるからなー」と、まともな研究者ならたとえ不正を悪いことと思わない人物でさえある程度このような思考はするだろう。なぜなら人文系研究者の中には、注釈から読む人が必ずいるし、論文内で何回も用いられる文献があったら、読み手の研究者は必ず原典を照会する。それが外国の研究であれば、自分がその文献を見つけるきっかけになった論者以外でも、それへの言及がないか調査するはずだ。つまり、人文系研究のごく普通の感覚からいっても、深井の捏造は常軌を逸しているところが正直ある。

もちろん、研究者は有限の時間の中で研究しているので、ある程度信頼のできる著者が複数人の言及する論文を読んで、原典の参照先は基本的に読むとはいえ、その論者の検証を自分でも正当だと確信するまで時間をかけるよりも、自説の立証を急ぎ、ある程度の確からしさは査読体制と著者を信用して引用し、自説の根拠にする。もしも、引用先文献の資料の明白な解釈違いや捏造があり、その論文が修正ないし撤回された場合、引用した論者も必要があれば合わせて訂正、ないし論文の撤回をすることになる。こうして、アカデミックの世界の公正さが成り立っている。その観点から深井の研究不正を再度評価すると、こうした公正さに対する挑戦と言えるだろう。また、彼が現在も社会生活を送れているのは、たんに人文学研究で不正があろうと、社会的な関心がほぼないからだ。これが、サプリメントや医療薬品で行われた研究不正とすると、深井が受けたという程度の社会的制裁と比較にならない事態になっていただろう。

今回、もう一度チャンスのある社会、という理念とともに話題になっている『キリスト教綱要 初版』の訳者あとがきを私も読んだが、率直な感想をいうと、この手の捏造をする人のテンプレート文章にすぎない、という印象をもった。何が悪いかということへの直接への言及を避ける自己保身、自己保身からくる具体的な言及のなさ、自己憐憫の強さからくるアカデミックから向けられている視線をあえて中立化するような書きぶり。その書きぶりの例として、松井健人も2つ目の公開書面で引用している「ところで、読者の中には、本訳書の感想だけではなく、二〇一九年からこの五年間、訳者自身は何を考え、何をしていたのか、と思っておられるかたがいるに違いない」(562頁)を挙げておこう。もちろん、深井の不正な研究について訂正方針がどうして具体的に発表されないのか、あるいはこのまま逃げ切るのかといった対応の方針について確かに気にはしていた。そして、その回答はカルヴァンの翻訳だったというわけだ。加えて、意地の悪いことを言うと、あとがきで小説に出てくる架空の神父について熱心に言及しているのは、何かの冗談なのかとすら思った。

私自身は、アカデミックの現場からほど遠いとろこにいるので、今回のことについては酒の席での怪談話にできるが、カルヴァン研究に携わっている日本語母語話者の研究者たち、また、研究と同時に信仰心をお持ちの方の感じるだろう心痛を想像するに、大変な試練に直面している、と改めて思った。また、私はキリスト教徒ではないということを前置きしてこのような言葉づかいをさせていただくと、訳書の刊行というチャンスを与えることで、研究不正の自身による詳細な訂正とその発表による贖罪の機会を彼から奪ってしまったこと、あるいは先延ばししてしまったことに、深井への憐憫の情を禁じえない。

なお、松井健人の一連のツイートおよび公開書面、互盛央の署名付き返信書面、および『キリスト教綱要 初版』あとがきをふまえ、このブログを執筆した。以下に参考文献として挙示する。


今回の簡単な流れを確認するために

関連資料