物理系における計算Computation in Physical Systemが面白かった。
だいたいこんな感じで説が分かれてて、ほえーとなった。
ちなみに、ここで汎計算主義と言われているのはだいたい落合陽一の著作での主張だと思って読むといいかと。
1.写像説
(a) 単純写像説
メリット: 定義がシンプルで理解しやすい。どんな物理系にも計算的記述を対応づけられるため包括的に説明できる。
デメリット: 「岩も計算している」といった過剰に対象を包括するのにつながる(汎計算主義)。計算概念が空洞化し、意味のある説明力を失う。
(b) 制約写像説
メリット: 単純写像説の恣意性を排除し、計算をするシステムとしないシステムを区別できる。反事実的制約・因果関係・傾向性などを用いて、現実的な実装条件を反映できる。
デメリット: 「どこまでを制約とするか」が曖昧。全ての物理系に何らかの計算を割り当てられる可能性が残る。
(c) ロバスト写像説
メリット: 情報理論に基づき、写像の堅牢性を厳格に定義。「岩の温度変化をNOTゲートに見立てる」といった擬似的計算を排除可能。何言ってるか分かりづらいけど、加熱される温度変化って形式的には0,1の遷移で説明できるけど(加熱前を0として、加熱後を1とみなすことを繰り返すみたいなこと)、それって他の条件無視しすぎだし(加熱前後の定義が曖昧じゃん、みたいな)、加熱という物理現象の因果関係説明できてないよね、みたいなこと。これを排除できるのが良い。
デメリット: 理論が新しくて反証された議論が十分じゃないっぽい。他分野への適用可能性は未検証。なんか細かいことはAnderson, N. G., and G. Piccinini, 2024, The Physical Signature of Computation: A Robust Mapping Account, Oxford: Oxford University Press.読むしかないらしい。科学哲学のロバストの議論の応用かな?
2.意味論的立場
メリット: 「表象なくして計算なし」という直観を捉え、心やコンピュータを計算するものとして説明できる。認知科学に適合しやすく、計算的心の理論を支持。
デメリット: 「何が表象か」を特定するのが困難。表象を扱わない計算(純粋なアルゴリズムや物理的演算)をうまく説明できない。なんでもありになって汎計算主義になりがち。
- 構文論的立場
メリット: 意味論に依存せず、記号操作を構文的規則のみに基づいて定義できる。計算を純粋に形式的処理として理解可能。
デメリット: 構文タイプを定義する際に結局意味論を前提にしてしまう可能性がある。コンピュータ科学での計算概念をすべて包含するわけではない。
4.機械論的立場
メリット: 計算を「機能的メカニズム」による情報処理として定義し、工学的・生物学的説明に親和的。誤計算(関数の計算命令したら別の関数で計算してたみたいなやつ)をうまく説明できるし、異なる物理的な実装基盤間の共通性を説明可能。汎計算主義を回避しやすい。
デメリット: 「メカニズムの構成要素の機能」をどう定義するかが難しい。抽象度を高めすぎると恣意的な構成が可能になる危険もある。
5.汎計算主義
メリット: 宇宙を根本的に計算的とみなす統一的世界観を提供。一部の物理学者の宇宙モデルと整合的。
デメリット: 「すべてが計算」という主張は「計算は計算である」と言っているのと変わらないし、認知科学や情報科学の考え方の基本をダメにしてしまう。無制限説は何も説明できなくなるし、制限説でも「岩も計算する」など直観に反する。個人的にはというかそれ言って何になるのかわからない。詩人ならメタファーなので可。
6.物理的チャーチ=チューリング論題CTT
(強い説)
メリット: 計算可能性と物理法則の強固な一致を主張。
デメリット: 反例(ランダム過程・連続量の扱い)が多すぎ現実的ではない。
(穏健modestな説)
メリット: 「人間が利用可能な物理計算はすべてチューリング計算に含まれる」として妥当性が高い。
デメリット: チューリング計算できないものを計算するハイパーコンピュテーションの可能性が残っており、完全な決着はない。
7.ハイパーコンピュテーション
メリット: 計算可能性の限界を探る理論的試み。無限加速TM・相対論的ハイパーコンピュータ・量子モデルなどで「CTTを超える可能性」を提示。
デメリット: 現実の物理的実装は未証明で、ほとんどが思想実験に留まる。無限精度や非現実的条件を前提にしていて、工学的に不可能。
個人的にはロバスト写像説かなー。Modest CTTは、そうなんだろうけど、面白ポイントがよくわからなかった。自分が詳しくないからなんだろうな。