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南礀中題 米原将磨

鈴木 潤 Jホラーの核心: 女性、フェイク、呪いのビデオ (ハヤカワ新書)

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前に、こんな話をした。
https://diontum.com/archives/828

女性の生死が問題にされることが多い、最近の流行作家は男性と思われる人が中心で女性を主人公として描いていることが多い、その手の展覧会の鑑賞者には女性が多い、みたいな基本的なことがだいたいスルーされていて微妙な気持ちになった。

今回の話は、ようやく必要な議論の前提を作れる書き手の登場したと感じた。鈴木潤だ。

https://researchmap.jp/suzukijun_z16

鈴木潤は、日本のホラー映画、とりわけ「Jホラー」と呼ばれる領域を中心に研究してきた研究者で、現在は開志専門職大学アニメ・マンガ学部の助教。大学院時代から新潟大学のアニメ・アーカイブ研究センターに関わっていたそうだ。
鈴木の議論の特徴は、メディア論的アプローチだ。幽霊や呪いといった怪異譚についての物語論的、あるいは文化人類学的ないし民俗学的アプローチではなく、それがどのようなメディア装置—VHS、ビデオカメラ、フェイク・ドキュメンタリー形式など—を通じて成立してきたのかを読み解く。たとえば『リング』に代表される「呪いのビデオ」がなぜ90年代に成立したのか、そこにはいかなる社会的イメージの流通が関与したのか、といった考察がその代表例だ。このあたり本書でも読み応えのある論証がなされている。
新書ということもあり、ここ最近のホラーブーム作品も多く紹介されているだけでなく、主要作品とスタッフ相関図がとても役に立つ。つまり、ホラーブームとは、作品同士の影響関係はあるにせよ、人物相関としては、おおきく二つにわかれる。その人物相関がそのままホラー作品のメディア的形態や作風の傾向も示していることがよくわかる。知りたい人はぜひ買ってみてほしい。
なお、ホラーのセオリーまとめなどを期待している読者にとってはおすすめしない。本書は、80年代以降の日本の代表的なホラー作品について見取り図を用意するのに限定している。よって、何か新しい理論的更新などはあまりないが、それは今後刊行されるであろう博士論文に期待したい。