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米原将磨

米原式ベストハンドレッド2023

ベストハンドレッドを毎年やっていて思うのは、これは100のレコメンドではない、ということだ。自分にとってこれは、「100のコンテンツによるカルチャーの把握方法」と言える。100のコンテンツに入っていないからといって面白くないわけではないし、100位以内に入っているからといって万人が見て面白いとも思わない。ただし、自分がカルチャーの動向を把握し、それを批評的に思考していくうえで必要なコンテンツはだいたい100ほどで十分なのだ。

そして、その100のコンテンツを順位づけしていくときの面白さとは、それがジャンル固有のものであるものほど順位が低くなり、他のジャンルにも展開している、あるいは隣接しているコンテンツほど自動的に順位が高くなるということを感じるところだ。そのようにして並べていく時、常にそれを裏打ちするため論証をしないと気がすまなくなるし、そのようにして獲得されていく視点もまた、新しい年のカルチャーを見る視線を鍛え直してくれる。結局のところ、こうした試みは人生のある時期しかできないのであり、せめて5年は続けることで新しい視座を常に獲得していきたいと思う。

2023年をそうした観点で振り返った時に感じるのは、アニメーションが傑出していた年だったということだった。昨年は『THE FIRST SLAM DUNK』(2023)の衝撃があったが、今年は全体的にすぐれたアニメーションが目立った年だった。3DCGによるアニメーション表現も今まで以上に多様化していき、題材そのものはここ最近の傾向と大きな違いはないものの、どのようにして面白い表現ができるのかという点で突き詰められていた。

個人的な反省としては、前年と同様に、ゲームする時間をほとんどとることができなかった。確かに『ゼルダの伝説 ティアーズ・オブ・ザ・キングダム』を少しはプレイしたし、ノベルゲームも多少見てみたものの、文脈を見出して発見していくことができなかった。それは、ホラー作品にもいえる。今年は『8番出口』といったホラーゲームの洗練された形式の作品もでてきたし、『オクス駅のお化け』(2023)・『コカイン・ベア』(2023)といったホラー作品もあったものの、全体を包括してとらえるほど本数をこなすことができなかった。

何より残念だったのは、展覧会にほとんど行くことができなかったことだ。2022年はなんとか数をこなすようにしていたが2023年はほとんど行けなかった。

このように、ランキングはその年の条件によって均一した条件を設けることはとても難しい。しかし、だからこそできる範囲でランキングを作り続けることで、数百のコンテンツが次の世代につながるかもしれないことに想いを寄せたい。

では、以下が今年のランキングとなる。ご笑覧いただければ幸いです。

100位

たむらかえ2

たむらかえ

https://www.youtube.com/@tamurakae2

10日間で1万人の登録者にいった逸材。いろいろ謎。あと、学業のほうは大丈夫なのか心配。それはさておき、東大生=クイズ王を完全に破壊するタイプの謎の人物で、話にユーモアと知性を感じる。ただし、キャラを作っている感じがしなさすぎるので、そこが少し心配。将来設計についていつか聞きたい。

99位

ケイコ 目を澄ませて

三宅唱

https://happinet-phantom.com/keiko-movie/

実在する聴覚障害女性プロボクサー小笠原恵子をモデルとした映画。アジア映画で国際ウケしそうな感じっていまこんなのかーという点ではおもしろかった。なんか参照先わかりやすいインテリ感すごい。研究者とかシネフィルに受けそう。あと、ライティングがすごい日本映画っぽい、ドリーで横から入ってきてカット切り替えで横顔みたいなのも日本映画っぽくて、日本映画って文法あるんだなーと思った。

98位

目隠しでギターを当てる配信をする楽器店員【島村楽器イオンモール甲府昭和店】

島村楽器 イオンモール甲府昭和店

https://www.youtube.com/watch?v=6OXB6fO8m0s

最近一番アツい店長。初めの頃は真面目にエフェクターボードの作り方や初心者にお勧めのギター紹介などしていたが、いつからか目隠ししたままギターの型番をあてるという奇行に走り出して大ブレイク。私も時間を見つけて島村楽器イオンモール甲府昭和店に行く予定。

97位

VIVANT

監督 福澤克雄/脚本 八津弘幸、李正美、宮本勇人、山本奈奈

https://www.tbs.co.jp/VIVANT_tbs/

マンガのスタイルで作成されているドラマとして見事だったし、日本のドラマでできる範囲のことを示してくれた。けれど、投げ過ぎ、つけ過ぎ。

96位

ますぢちゃんねる〜大人のワイン学校〜

鈴木培稚(すずきますぢ)

https://www.youtube.com/@masuji-ch

右回しと左回し。それが大事。ますぢさんが丁寧にワインの飲み方、味わい方を説明してくれるのだが企画にユーモアがあってみていて飽きない。サイゼのワインもちゃんとおいしいことをむっちゃ的確に説明してくれる。

95位

佐藤ミケーラ倭子

https://youtube.com/@MichaelaWakoSato?feature=shared

ポプテピピックの実写版。昔の『バミリオンプレジャーナイト』。東京カレンダーとコラボしている動画では、人物風刺の技術も芸が高い。今後、脚本家としても活躍するだろう。風刺文化と演劇の最先端は、佐藤ミケーラ倭子にあるだろう。

94位

Winny

監督 松本優作(Libertas)

https://winny-movie.com/

2023年はモキュメンタリーや時事ベースの創作より、ドキュメンタリーを意識したフィクションが多かった。日本では、Winnyがよくできていた。ただし、この手の人は実際にはわりと人を苛立たせるみたいなのがわりと配慮されて除かれているような印象をうけた。

93位

ピムとタイ語

ピム

https://www.youtube.com/@pimgabpasathai

最近、ネイティブが日本語を教える番組のうち、アジア圏のものが増えている。こちらは、若いタイ人が日本語で発信して、タイ語を教えるチャンネル。かと思っていたら、タイの政治状況を語る回があり、「王制についてはこの動画では話しません」といった感じで、ギリギリをせめている。実際、下手な記事よりわかりやすい。

92位

ゼロから始めるジャック・ラカン

片岡一竹

https://amzn.to/424SWHf

2017年の単行本の文庫入り。大学時代に知りあった友人。彼は昔からそうなのだが、圧倒的に文章がうまい。文庫化にあたっては、内容についてアップデートもしっかりかかっている。前に論点になっていたフェミニズムから精神分析批判に対してもきちっとテーゼをもって答えている。最近本人と話す機会があったけど、博論がとにかく楽しみ。大著待ってます。

91位

ジョン・ウィック コンシクェンス

監督 チャド・スタエルスキ

https://johnwick.jp/

ありがとう、ジョン・ウィック。今回はアクション俳優界の至宝ドニー・イェンもかけつけて、アクションのレベルもかなり高いものになった。盲目の刺客の戦い方などよくも思いついたと感じ入った。堂々の大団円。

90位

【作曲回】特別ゲスト:森悠也 プロの作曲家に学ぶ、作曲の極意!

山下Topo洋平のHappy New Moment

https://shirasu.io/t/topo/c/topo/p/20230816

その日まで聴いたこともないメロディの断片を、プロ作曲家が数時間にわたってDAWを操作して編曲していく過程を本当に生で配信し続ける驚異の配信。プロがなぜプロなのかはこれを見ればわかる。

89位

プロフェッショナル 仕事の流儀 #248 ジブリと宮崎駿の2399日

NHK

この手のドキュメンタリーは「まぁこういうもんだよね」というふうに適当に流していたが、今回はかなり構成が作り込まれていて鈴木がどのようにジブリの物語を作りたいかよくわかった点で面白かった。また、ジブリをバックアップにつけて駿の台詞にアニメの台詞をかぶせてちく編集なども印象的だった。日本におけるクリエイタードキュメンタリーの本質的な要素を垣間見ることができた。

88位

奈良時代貴族官人と女性の政治史

木本好信、和泉書院

https://amzn.to/3D6HNdw

日本史研究叢刊45冊目。奈良時代の官僚政治はほとんど『続日本紀』の記述を周辺文脈と比べてどのように一貫性をもたせて理解するかという研究スタイルも面白い。テーマとなっている、光明皇后(聖武天皇の皇后)の政治がどのようなものだったのかという検証を孝謙天皇の皇嗣がない状態から説明していくところも勉強になった。

87位

マイ・エレメント

監督 ピーター・ソーン / 脚本 ジョン・ホバーグ、キャット・リッケル、ブレンダ・シュエ

https://www.disney.co.jp/movie/my-element

ストーリーはどうでもよい(移民の話の定形)。そうではなくて、火も水も輪郭がずっと不定形で物理演算し続けてるんだよ……、いったいどれほどの犠牲を払えば、こんなことができるの……、意味がわからない。途中から話も入ってこず、3DCGアニメーションの可能性で殴られつづける稀有な映像体験。

86位

中国アニメーション史

孫立軍監修

https://www.yumani.co.jp/np/isbn/9784843364260

2011年にも同書がででいたが、改訂版となって大幅に内容も変わっている模様。ちなみに、北京電影学院の文化部支援アニメ産業発展関連会議弁公室が監督している以上、中国の政府公認の立場が強い記述もあるので、そこは割り引いて考える必要がある。とはいえ、現代の中国アニメシーンは無視できない盛り上がりをみせていて、線画も3DCGもあと10年で日本は抜かれるだろう。現在時点にて中国アニメーションの基礎を理解するためにはこれが必要だ。とはいえ、物語の類型分類ばかりで技術的な変化が2000年代以降になると記述が希薄なのは気になった。

85位

科学普及活動家ルイ・フィギエ

槙野佳奈子、水声社

https://amzn.to/3tFMmKi

学会でたまたま知り合った研究者仲間の初の単著。19世紀中頃のフランスで活躍したルイ・フィギエという科学普及家、いまでいうサイエンスライターについてのモノグラフ。初期のダゲレオタイプは、科学サイドと芸術サイドで態度の違いがあったというこれまでほとんど日本では紹介されていなかった文脈を説明、とくに、紙と金属の違いが、科学者と芸術家の意見の対立に深く関わっていたという点は興味深い。また、後期のフィギエの関心が科学の驚異から超自然的なものへと移行していったのも示唆的。つまり、わかりやすい新技術が普及していくと、観念的なことに注目するようになる。ようはスマホを支えるアーキテクチャがAI神話を産んでいるというのも昔からそうなのだなーということ。

84位

グリーンナイト

デヴィッド・ロウリー(A24)

https://transformer.co.jp/m/greenknight/

公開は2021年だが、2022年11月日本公開で配信は2023年から。トールキンオタクが「サー・ガウェインと緑の騎士」の叙事詩の話をしたがるのだが、近年のダークファンタジーブームをうけてA24というこれまたいま話題のプロダクションが制作。

83位

バビロン

デイミアン・チャゼル

https://www.imdb.com/title/tt10640346/

『セッション』と『ラ・ラ・ランド』の監督が撮った作品。フィッツジェラルド的テーマ。ハリウッドが定期的にやるメタハリウッド映画で、トーキー移行期だと『アーティスト』(2011)ぶりのテーマ。困ったことにお金のかかった普通の映画。

82位

フェイブルマンズ

スティーヴン・スピルバーグ

https://www.universalpictures.jp/micro/fabelmans

自伝的映画だけど、ものづくり映画でもあったので、『ヒューゴ』みたいなやつだと思ってたらぜんぜん違っててそこがよかった。クリエイターあるあるがたくさんつまっているなかにユダヤ人ファミリーという文化習慣がその背後にあって面白い。ユダヤ人文化表象作品としては、エンジニアものよりも金融ものが多いので、そこも差につながっていたか。

81位

Cœour Blanc

Jul

https://open.spotify.com/album/7rEzID1MsdhMXLvOVMf2h4?autoplay=true

フランスでは2010年代から中心的なラッパーの一人。2023年のチャートでもJulが3回ランクイン。というか、3枚アルバムだしてる。何者? 世界的に流行しているDrillのリズムに乗せて、子音や母音でたくみに遊びつつも、韻を踏んでいる単語と歌詞の内容がばっちりあっててやはりいまのフランスを代表するラッパー。

80位

「こころ」はどうやって壊れるのか ~最新「光遺伝学」と人間の脳の物語

カール・ダイセロス著、大田直子訳

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光遺伝学という研究ジャンルがあり、関心があったので読んだ。基本的にはうつ病と認知症の患者の感情、ASD症例での社交の難しさといった現象を脳神経科学や光遺伝学研究成果で説明し直すなど、精神疾患について光遺伝学でわかっていることを示す。いまは科学ジャーナリズムでは文学表現が好まれないが第一線の研究者が驚くほど詩的な叙述をしている点で、興味深い。

79位

スピノザ

國分功一郎、岩波新書

https://amzn.to/3H4FMAf

岩波のプロジェクトの一環でたとはいえ、ものすごい高いクオリティの本。哲学者個人の新書としてかなり、よくまとまっていていわゆるクセジュ文庫に入っていてもおかしくないようなものだった。

78位

MOROHA V

MOROHA

MOROHAはある意味でほとんど変わり映えしないと思われているが、このアルバムはUKの楽曲編成がかなり変わった印象。というのも、あれだけうまいUKがまださらにギターがうまくなっているからだろう。また、アフロも毎回同じようなことを言っているはずなのに異なる印象を与える歌詞を作り続けられているのも見事。キャリア史上最高のアルバムだろう。

77位

『文藝』2023年春季号瀬戸夏子+水上文責任編集「批評」

河出書房新社

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短歌の歌人にして批評家の瀬戸夏子と批評家の水上文が責任編集の『文藝』は、自分ならこの人に声をかけてこういう文章を書いてもらうとかしないけど、こういうことが可能なのか、みたいなものが学びになった。しかし、江藤淳の評価がいまだにわからないので、このあたりが私が日本的批評ディシプリンの埒外にいるのだな、と再認識できた。

76位

ジャック・デリダとの交歓 パリの思索

浅利誠 

https://amzn.to/41VCTve

浅利誠といえば、ブルトンの研究者としてもともと知られていたが、次第に別の路線に行った。その背景にあったデリダのゼミへの出席の話が非常に興味深い。デリダの言いそうなことや、意外とこういうこといいうのかーというのがたくさんあってデリダクラスタ必携。

75位

百貨店の歴史 年表で見る夢と憧れの建築

PRINT&BUILD

https://printandbuild.square.site/product/-/5

造本そのもが百貨店で買えるもののようになっていて、それがよい。あと、意外に百貨店について網羅的に時系列比較して見ることができる本もないので資料としても貴重。

74位

幽☆遊☆白書

監督 月川翔 / ROBOT(プロダクション)

https://www.netflix.com/jp/title/81243969

冨樫的運動表現をそのまま実写化したらこうなるだろう、というアクションの工夫や、原作の再構成の巧みさに感動。いまどきの脚本にしてはどうなのと思う女性についての演出に思うところはなくはないが、シーズン2があればそこに期待。

73位

運動しても痩せないのはなぜか

ハーマン・ポンツァー 著、 小巻 靖子訳、草思社

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フィットネス文化では、食べた分だけ消費すればカロリーを帳消しできるという神話が存在している。しかし、人間の機構はそれほど単純ではない。人体に対するメタファーによる神秘化はいまだにあとを立たないことを教えてくれる一冊。

72位

君たちはどう生きるか

宮崎駿(スタジオジブリ)

https://www.ghibli.jp/works/kimitachi/

大平晋也の火事のシークエンスなど、均質化された演出を好む宮崎駿には珍しい試みもさることながら、若い世代には徹底的に刺さる「友達をつくります」というセリフも良かった。ただし、作品内でつながりがとくにない展開や、自己作品の引用とわかりやすい参照などについても処理しきれていない感じはどうしても目立ってしまった。

71位

別れる決心

監督 パク・チャヌク

https://happinet-phantom.com/wakare-movie/

『お嬢さん」のパク・チャヌク監督。この映画より『お嬢さん」を観たほうがよいものの、本作は韓国ノワールとしてなかなか興味深い。簡単にいうと、移民で身売りした女性が夫を殺したのを追う刑事が、原発作業員の妻とのぎくしゃくとした関係から目をそらしているうちに、殺人を犯した移民の女性を好きになってしまうというもの。じりじりと人間関係が壊れるのを見たい人におすすめ。

70位

スーパーマリオブラザーズ・ムービー

監督 アーロン・ホーバス、 マイケル・イェレニック(イルミネーション、 任天堂、 ユニバーサル・ピクチャーズ、 Sky Studios)

https://www.nintendo.co.jp/smbmovie/index.html

3DCGアニメーションでマリオをやる、ということの挑戦は計り知れないが、イタリア系移民の葛藤パートから矢継ぎ早にキノコ王国に移動、そこからのビルドゥングスロマン、アクションパートの手に汗握る展開、ピーチ姫はマリオのステージを全部クリアしてたんかいといわんばかりの小道具演出など、考え抜かれていた。良質なアニメーション。

69位

海外マンガRADIO

原正人・ブックカフェ書肆喫茶mori店主森﨑(海外マンガch )

Youtubeチャンネル「海外マンガch / 原正人」で2023年になってから定期的に公開される動画シリーズ。毎回、世界のあらゆるところのマンガを紹介している。気になったのを調べると、いろんなマンガがあって楽しい。

68位

ザ・グローリー

監督アン・ギルホ/脚本キム・ウンスク

https://www.imdb.com/title/tt21344706/

今年も韓国ドラマも盛り上がったが、トレンドとしてはこれ。韓国では、ノワール・社会階級もの・いじめもの・民間宗教もの・復讐ものとあるが、総合したケースとしては一番よくできている。とはいえ、なんで絶対に恋愛しないといけないんだろ・・・。

67位

ONE PIECE

マット・オーウェンズ、スティーヴン・マエダ(トゥモロー・スタジオ、集英社)

https://www.netflix.com/jp/title/80107103

NetflixがONE PIECE実写化で絶対失敗すると思っていたらすごいよくできててびっくりした。ルフィ役の イニャキ・ゴドイはルフィそのものだし、千葉真一の息子・新田真剣佑がゾロを演じているというのも素晴らしい。ところどころ変にちゃちいのもいい味を出していた。とにかく、マンガでもアニメでもなく実写、ということをよく理解したうえで原作を解釈している点に好感が持てた。

66位

光の曠達

江永泉、米原将磨(TERECO)

ここでやってます。チャンネルを伸ばす気がない内容で、批評家の江永泉さんと私と米原が話続ける番組。目的はこちら(https://diontum.com/archives/633)。最近になって、「これって院生の雑談がそのまま研究会になってるパターンだよね」などと自己解決している。

https://youtube.com/playlist?list=PLqquazgWuPmZUDMr85Gfq_JoDhmzsmQKV&si=uLJesD2qslWzStY8

65位

PLUTO

監督 河口俊夫/ スタジオM2、ジェンコ

https://www.netflix.com/jp/title/81281344

原作マンガではかなり曖昧だったラストのバトルシーンが非常に詳しく描かれていたし、何よりゲジトの最初の方のアクションシーンなどアニメーションとしても見事だった。単なるアニメ化ではなく、挑戦的な表現も見られた。

64位

ダーウィン・ヤング

脚本 イ・ヒジュン、作曲 バク・チョンフィ、日本語版演出 末満健一

https://www.tohostage.com/darwin_young/

韓国ミュージカルレベル高いが感想。あんな王道文学ネタをミュージカルにしてるのがすごかった。ただ、ふだんミュージカル出てない人は演技面でも歌唱面でも、やはりなーと思った。なにより、動画で韓国版の演出を脳に入れた状態で日本のやつを見ると、ぶっちゃけノーコメントでもあった。要は、日本のミュージカルは文化は個々の良さはあるけど全体としての技術的洗練みたいなものは、韓国には及ばないんだな、という感想。

63位

悲劇・喜劇 7月号 特集 韓国演劇・ミュージカルの今

悲劇喜劇(早川書房)

https://amzn.to/3NPHysL

『悲劇喜劇』の「韓国演劇・ミュージカルの今」特集読んだけど、非常に良かった。一点疑問だったのが、「韓国カルチャーの成功は「設計されていない成功」―韓国文化政策の誤解を解く」で韓国の文化政策は過大評価、という張智盈(ジャン・ジヨン)の主張。予算とか法的整備だけの話になってるけど、そもそも文化政策ってそれだけの観点で語れるものではないだろう。日本のアイドルが成功してもたぶん国連で演説はしないし(BTSのあの映像はソウル歴史博物館で展示されているように国家的示威なのだ)、大統領がNetflixのCEOに挨拶しに行くことこそ、「文化政策」、つまりプロパガンダ的な真剣さであり、その点についてどう思っているのか知りたかった。

62位

ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE

クリストファー・マッカリー(スカイダンス・メディア、TCプロダクションズ)

https://missionimpossible.jp/

トム! とにかく「AIがよくないんだけど、アナログならいいよね」って神話がすごいあるなーと思いました。ここで話しました。

https://www.youtube.com/live/W2YH00sj5wU?si=NFDQ3Ky9M53B1Xg5

61位

ペイン・キラー 死に至る病

監督 ピーター・バーグ、原作・制作: マイカ・フィッツァーマン=ブルー、ノア・ハープスター

https://www.netflix.com/watch/81229684?trackId=255824129

主人公のアフリカ系行政の調査員が初代トゥームレイダーをプレイしているシーンが最高に面白かった。そこからもわかるように、90年代カルチャーが2010年代にかけてアメリカの根底をゆるがしているということがみてとれるような構成になっていて、オピオイド薬害の根の深さみたいなものを感じることができた。

60位

日本近世中期上方学芸史研究 漢籍の読書

稲田篤信

https://amzn.to/48kHrxj

近世中期上方学芸の隆盛は、戦後の世界文学の更新やアメリカ文化の影響下で戦後の文化が発展したように、明・清の漢籍が江戸時代の文化的背景を作ったことはよく知られた事実だが、それが実際にどのように読まれていたのかを丁寧に追っていった労作。とくに、原文からの引用が現代語に置き換えられて「趣旨」というかたちで読みやすく示されていたのが助かった。平賀中南『集義和書』に四民(士農工商)に儒者はどう位置づけられるのかという問について、蕃山は「儒者は四民の産業ではなく歴史を記録することが仕事なのだ」と諭したという話は考えさせるものがあった。

59位

ジャン=リュック・ナンシーの哲学

西山雄二・柿並良佑編、読書人

https://amzn.to/3vrb81i

ナンシーは、法政大学出版の哲学者読本シリーズに入っていないこともあり、2000年代生まれの哲学志望の若者にとってみれば、いまいち漠としている哲学者だろうが、この新書を読めばだいたいわかるので興味を持ったところを読めば良い。

58位

教養・読書・図書館

松井健人

https://amzn.to/48fkXhn

松井健人は2020年代を代表する論客になっていくだろう。教養主義の神秘化に対する徹底抗戦の一つとして、本書は人格陶冶の教養主義がいかに国家に利用されるか、そして、そうした理念を唱える人々がいかに危険かということをワイマール期ドイツからナチ期ドイツへの以降に焦点を定め明らかにしている。

57位

ウーマン・トーキング 私たちの選択

監督 サラ・ポーリー

https://womentalking-movie.jp/

サラ・ポーリーの抑制のきいた演出は素晴らしいし、ルーニー・マーラの演劇も見事。ベン・ウィショーの役柄もよい。『市民ケーン』を現代において女性でやるならどうするのか、というののお手本のような内容。メノナイトの生活の中でどのようにして決断するのかを描く。

56位

バービー

監督 グレタ・ガーウィグ

https://wwws.warnerbros.co.jp/barbie/

ここで全部話したけど、アメリカローカルな話だし、人間になるオチもローカルな文脈。ここで配信した。

https://www.youtube.com/live/rcdQPouGP2E?si=Rd2pcl5tYoEkycdy

55位

SHE SAID シー・セッド その名を暴け

監督 マリア・シュラーダー

https://www.imdb.com/title/tt11198810/

Netflixのドキュメンタリーでもハーヴェイ・ワインスタインの被害を描いた作品は数が多いが、『スポットライト』などで開発されたの演出技法が活用されていて、女性ふたりが主人公となっている。女性のキャリアのライフステージを物語の展開と重ねつつ、記者と被害女性の少しずつの歩み寄りを描いていく好作品。

54位

クレムリンの魔術師

ジュリアーノ・ダ・エンポリ著、林昌宏訳、白水社

https://amzn.to/47qFm1y

ロシア大統領補佐官をつとめたウラジスラフ・スルコフをモデルとしたヴァディム・バラノフの口を通じて、プーチンが大統領選挙にでる頃から大統領になったあとの政治までを描いたフランスの小説。ダ・エンポリは、フランスで政治エッセイストとして活躍しているとのこと。

53位

Music Map

GNOD

https://music-map.com

楽曲を機械学習して類似しているものを集めてくれるものはたくさんあったけど、これは本当に精度が高い。英語圏以外微妙だが、チャットモンチーと検索した時の「ああそう来るか」と思いつつも、同時代のロックサウンドには類似性が高いんだなといろいろ気付かされる。

52位

批評なんて呼ばれて

米原将磨

さやわか文化賞2023 批評賞を受賞。人生で初めて何かを受賞したのでむっちゃ嬉しい。基本的には2010年代前半を中心に、いわゆる「ゼロ年代批評」がどのように崩壊していったのかを当事者目線で語ったモキュメンタリーのようなもの。2024年6月に普及版『批評なんて呼ばれた』を出す予定。

51位

Hogwarz Legacy

監督 Alan Tew / シナリオ Moira Squier

https://www.hogwartslegacy.com/ja-jp

ホグワーツをテーマパーク化することで、『ハリー・ポッター』を知らない人にも間口を広げた。ストーリーもホグワーツの秘密を掘り下げる形になっている点が良かった。マルチエンディングにもなっている。ちなみに、現実の科学技術による生活の変化が進みすぎて、『ハリー・ポッター』の魔法が比較的に弱くなってしまったことが、最近の関連作品が過去にさかのぼるものになっていることの原因。

50位

メディア考古学とは何か?

ユッシ・パリッカ

https://amzn.to/3tPIFld

メディア考古学の流行は2010年代初頭からだったが、日本語でもようやく優れた概説書が読めるようになった。批評とかやりたい人はとりあえずこれを読んでおこう。

49位

Ice Spice

今年USシーンで一番目立ったラッパーはなんだかんだIce Spiceだろう。節をつけて歌うのではなく、リズムで区切って言葉をどんどんドロップするタイプのライミングはいまのUSシーンではかなり特徴的だ。アルバムの表紙のキッチュな身体表現も興味深い。

48位

社会派ミステリー・ブーム 日中大衆化社会と〈事件の物語〉

尹芷汐(イン・シセキ)

https://amzn.to/3tHYD0S

どうして松本清張・水上勉・森村誠一といった社会派ミステリー小説が中国でブームになったのか、を丹念に調査していった一冊。当然、日本でそもそも社会派ミステリーとはどういうものだったのかというのもよくまとめられているので今後、この手のことを知りたい人が参照すべき基礎資料になったと思う。

47位

ユリイカと現代思想

青土社

今年の現代思想・ユリイカの特集はすごい良かった。感情史、トールキン、フィーメイルラップ、コペルニクス、平田篤胤、アグノロジーなど。正直、ここ5年ほどでもっとも面白い特集をずっと組んでいたと思う。ただし、浦沢直樹のPLUTOアニメ化、ワンピース実写化の成功などがあるなかで、そのあたりの王道エンタメの現在みたいな話を総体として把握する力は弱かった。

46位

図書の家選書 配信第1期開始

立東舎

https://note.com/toshonoie_note/n/n49142e78ac32

1950年代から1980年代のマンガ史のうち少女マンガについて人々のアクセスは極めて難しい。それに対して、再版活動をしているのが立東舎の「図書の家選書」だ。第一回配信は飛鳥幸子の主要作品だ。こうした取り組みによって少女マンガのイメージをどんどん刷新し、いつか岩下朋世をしのぐ研究をみたい。

45位

変革する文体

木村洋

https://amzn.to/3tIvgLO

むっちゃ勉強になった。徳富蘇峰が文学史で過小評価されているというより、文学史において政治と文学の結びつきがこれまでの近代文学研究でこれほど軽視されていたのかということに驚いた。また、この本を読んで樋口一葉が雅文を織り交ぜた文章とはいえ、自然主義の影響下のテーマを描いていた戦略なども明確にされていて、非常に啓発された。

44位

ブッダという男

清水俊史、ちくま新書

https://amzn.to/3S7OrYK

下田正弘『仏教とエクリチュール』くらいでしか本格的な初期仏教研究について知らなかったが、非常にコンパクトにまとまった研究成果で様々な点で啓発された。とくに、ブッダの五蘊と因果論が輪廻おいてどのように論証されているかについてこれほどわかりやすい解説は読んだことがない。後書きのアカデミック・ハラスメントの告発はいろいろ考えさせられた。というのも、私はデジタル・ヒューマニティーズの関係で下田先生の授業にも出たことがあるし、ハラスメントの件とは関係ない仏教研究者界隈の関係者と長時間会話したことがあるからだ。人はすべてについて毅然と対処することはできない。だからこそ、どのように振る舞うべきかを常に考えるべきなのだ。

43位

THE DAYS

監督 西浦正記・中田秀夫 / 脚本 増本淳

https://www.netflix.com/watch/81233755?source=35

福島原発への対応を綿密に描いたドラマシリーズ。ぶっちゃけVIVANTなんかより、ぜんぜん面白い。役所広司が吉田昌郎を演じているのだが、技術屋上がりの管理職みたいなものの説得力がすごい。日本のドラマで2023年一番面白かった。

42位

思潮社の叢書 lux poetica

思潮社

http://www.shichosha.co.jp/editor/item_3157.html

思潮社による新世代、というか私に近い世代を紹介する叢書が始まった。一通り読んだが、前衛表現もあり、これまでの世代をうまく解釈する表現もありで期待以上。若手の動向はこの選書を追っていけば大丈夫だと確信を得た。私は小川芙由(おがわあおい)『色えらび』をとくに好んでいる。「体温が/常にはみ出すものだってこと/気づいたことがないみたいだった」(「驟雨のひと」より)。

41位

Self Love

Avery Anna

https://www.youtube.com/watch?v=s7ibuVG9v_4

カントリー歌手でこのアプローチにはただただ驚いた。まず、歌詞の内容がカントリーへの批評になっている。カントリーはそもそもSelf Loveから広がって神と友人と酒を称えるものであるのだが、その構造を利用して、そもそも「何がSelf Loveだよ」とメタレベルで切り捨てていく。コード進行はカントリーっぽいのだが、普通に聞いてただのポップスにしか聞こえないようにしているのも素晴らしい。

40位

レーエンデ国物語

多崎礼 

https://amzn.to/4aM8UK4

ゲースロの後で、トールキン的なことと、日本のファンタジー小説の文脈を真っ向から引き受ける作品が出てくるとは思わなかった。多崎礼についてはあまり知らなかったが、堂に入ったファンタジー的内容にたじろぎすらした。編集者の信頼も感じられる。

39位

BRUTUS No.997 GAME STYLEBOOK 2023

BRUTUS編集部

https://amzn.to/4aGtThv

ゲーム業界で一線で働く人の単ページインタビューは非常に読ませたし、現在のゲーム需要・受容を多角的に描いてみせた素晴らしい特集だった。何度も読み返したい。

38位

The Injustice of Place: Uncovering the Legacy of Poverty in America

Kathryn J. Edin、 H. Luke Shaefer、 Timothy J. Nelson

https://amzn.to/3NSu930

一言で表すと、アメリカドリームの虚妄を暴く本。チアリーダーに選出されるさいの人種圧力といった非常に細かいところまで質的調査しつつ、主成分分析を用いた計量的アプローチによっていかに奴隷制後の格差が温存されたまま社会が発展していき、さらには階級が上のはずの白人が無理にコミュニティの格差を温存したままにしたがゆえに治安の悪化をもたらしているが、人間であるが故にその事実決して向き合わないといったことをたんたんと語っていく良書。これ、日本でもあると思う。

37位

Psychopath

Morgan Wade

https://open.spotify.com/track/1pxzWiOrRbpXQkk4n0HRs3?autoplay=true

カントリーなのに神の存在がゼロな感じで本当に良い。憂鬱な歌にもならないカントリー的な曲構成の中に「私たちがいる前に人生ってあったっけ?(Was there life before there was us?)」というかなりネガティブな歌詞を入れるのがかっこいい。

36位

母という呪縛 娘という牢獄

齊藤 彩

https://amzn.to/47tlBGG

俗にいう2018年に発生した滋賀県母バラバラ殺人事件の犯人へのインタビューと事件の背景をまとめた一冊。胸を抉られるルポルタージュだった。9年の浪人期間はまるまる2010年代だ。私と年齢も近いだろう。そして、その呪いの連鎖が戦後日本を生きた彼女の祖母の時代から続いていたという事実を知るにあたって、心胆寒からしめるには十分だ。

35位

歌舞伎座新開場十周年記念 鳳凰祭四月大歌舞伎より「連獅子」

尾上松緑・尾上左近

https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/801

連獅子の出来がよすぎてびっくりした。連獅子といえば最後の大ぶりだが、揃っているのは映像でしかなかったが、生で見れた。知り合いのプロパーによると、この出来は相当珍しいそうで、4回観たらしい。

34位

BLUE GIANT

監督 立川譲、音楽 上原ひろみ

https://bluegiant-movie.jp/

楽器を弾くライブシーンをアニメでどう表現するか、ということはこの10年リアリズムにおいて試されてきた。そのアプローチとはまったく違う可能性を見せてくれた。ただ、3DCG表現についてはそのテンションについていってはいなかった。しかし、最高のものを見せてくれたのには違いない。

33位

走泥社再考

京都国立美術館

https://www.momak.go.jp/Japanese/exhibitionarchive/2023/454.html

ここで話した(米原将磨のあやなし 2023年8月21日 レオ・レオニの彫刻から走泥社まで https://youtube.com/live/jDT4bsEe8FI?feature=share)。とはいえ、陶器についてほとんど知らない自分からするとあまりにも学びの多い展覧会だった。フィギア以前のフィギアへの情熱といった観点も今からすると言えるだろう。

32位

現代フランス哲学

渡名喜庸哲

https://amzn.to/47q7Ng7

良い意味でタイトル詐欺。現代フランスの哲学の哲学範囲がジャーナリズム方面、日本なら評論家や批評家と呼ばれるだろう人々にも着目しており、あまりにも優れた書となっている。

31位

マスクガール

キム・ヨンフン監督・脚本

https://www.netflix.com/watch/81516491?source=35

韓国的なVtuber表象はマスクを付けてネット上でダンスしてお金を稼ぐということになっているらしい。いうまでもなく、マスクをすること自体は韓国恋愛ドラマが明らかに顔のいい女性しか恋愛していないという事実に対する痛烈な皮肉である。さらには、彼女に恋をした男性が日本のアダルトアニメ好きのHENTAIで、日本のコンテンツが好き過ぎて怒りのさいに日本語を口走るオオタクだったというのもオタクカルチャーに対する皮肉がきいている。さらに、殺人の隠蔽を手伝った結果いろいろな流れで性交渉をしてしまうのだが、なんとその一回で子供ができてしまう。そこでむりやり韓国ドラマあるあるの生き別れ子供探し要素と刑務所サバイバルものが投下されるといったような感じ。あまりにも賢くて怖いドラマだった。

30位

「戦前」の正体 愛国と神話の日本近現代史 

辻田真佐憲

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新書を読むことの楽しさを思い出させてくれた一冊。「辻田真佐憲の国威発揚ウォッチ」の視聴者は、配信の内容が見事にまとめられていることに驚くし、まとめかたのうまさや構成の妙など、物書きにとって必要なことを教えてくれる一冊。

29位

Taylor Swift Eras Tour Movie

監督 サム・レンチ

https://towapictures.co.jp/taylor/

だいたいのアーティストは、アルバムを一枚出した後にツアーを始めて、ヒットソングをそこにまぜて、20曲ほどを演奏する。しかし、テイラー・スウィフトは、ツアーとツアーの間に再レコーディング含めて5枚のアルバムを出してしまった。そこで、約3時間にわたって、アルバムごとをEraと呼んで、ライブを一つの物語として構成するというものだった。そして、ほんとに3時間やってのけてしまうわけだが、映画からでもその卓越したライブ構成がうかがえるし、映像だけで相当に満足できる。近年、こうしたライブを映像作品にするものが流行っているが、その中でも出色の出来だと思う。

28位

日本エッセイ小史

酒井 順子

https://amzn.to/3RLJzHz

酒井順子こそ、推しも押されぬ名エッセイストだが、ついに彼女自身によるエッセイ史が書かれることになった。近年、小説もマンガも実録もの、エッセイ的なものが一世を風靡しているなかで、エッセイそのものがどういった歴史をたどってきたかを知るためにもまずは一読。

27位

Breaking Thermometer

Leyla McCalla

https://open.spotify.com/track/6Jx6VW69DwGav5Pb0jl7BU?autoplay=true

Leyla McCallaは、チェリストとしていまむっちゃ来てる人。ハイチ系をルーツをもつ彼女は、アメリカにおけるフランス的なルーツをすべて自分の音楽として落とし込んでいく。つまり、ケイジャン。そして、南部のバンジョーを用いたブルース。これらを自分の得意とするチェロの楽曲にまとめあげていく本作は出色の出来。語りや、同じ言葉のリフレイン、ブルースとは少し違う拍の入れ方など、アコースティックな未知の音楽を聴きたい人におすすめ。

26位

Blue Eye Samurai

監督 ジェーン・ウー /  原案 アンバー・ノイズミ、 マイケル・グリーン

https://www.netflix.com/watch/81144203?source=35

セルルック系の3DCGアニメーションがまた次のレベルに。演出技術も練られているが、文楽を用いた演出、時系列の操作、祭りの演出などどれをとってもすごい高いレベルのアクションだった。とくに、3DCGアニメーション表現が人形の操作でしかない、という点を利用した裸体表現、人体毀損表現など極めて巧緻なアニメーションだった。

25位

프릳츠(Fritz Coffee Company)

(주)프리츠(FRITZ CO.LTD.)

https://fritz.co.kr/

弘徳(コンドク)駅近くにある珈琲店。パン、スコーン、パイ、どれをとっても美味しく、コーヒーも非常にうまい。今年韓国で見つけたカフェの中で一番だった。コンセプトもよいし、お客さんの雰囲気もとても良い。ソウルに行った時はぜひ。

24位

アイドル

YOASOBI

https://www.youtube.com/watch?v=ZRtdQ81jPUQ

YOASOBIのサウンドは2010年代末から2020年代前半を作り出したが、この曲はそのすべてを総括する曲となっていた。転調も意味がないものではなく、ボカロ文化とエレクトロシーンの総決算的なもので、ラップする部分もK-POP的曲構成を参照するなど傑出していた。

23位

Yzerr(BAD HOP)と舐達麻を中心としたビーフ

とにかく平和が大事。この配信で90分話してます。

シラスの台地で時事語り#16 2023年12月号 https://shirasu.io/t/namaudon/c/tsuchiya/p/20231228142102

22位

宗教からアメリカ社会を知るための48章

上坂昇、明石書店

https://amzn.to/3tQoNyp

いまアメリカ文化を知る上で必携の書。アメリカの宗教といえば、すぐにキリスト教とユダヤ教のことを思いつくだろうが、政治に影響を与えるのはそれだけではなく、今の民主党政権の副大統領カマラ・ハリスはヒンズー教2世のバプティスト。多層的なアメリカ社会を知るうえで非常に重要。

21位

TRIGUN STAMPEED

武藤健司

https://trigun-anime.com/

最終話の3DCGアニメのシーンが必見。アクションシーン多彩なアクション、爆破シーンの解像度、線画アニメ表現の再解釈など、セルルック3DCGアニメーションの未来を感じさせるすごいアニメだった。

20位

戦争と劇場

小田中章浩、水声社

http://www.suiseisha.net/blog/?p=17963

日本ではこの手のことを研究しているの人はほぼいないので言及が少ないものの、戦後の日本でフランスの第一次世界大戦時の演劇についてこれだけ良質な研究書がでたのは初めてといってよい。戦争に演劇がどのように奉仕したのかや、敵国の演劇についてどのように語られていたのかまで細かく追っていて、最初にして最後の戦時中フランス演劇研究書であると思う。

19位

シャフトアニメと演出(ミザンセーヌ)の力

石岡良治

https://ch.nicovideo.jp/article/ar2173050

近年書かれたシャフト論で最も優れている。現在に至っても、アニメ好きの中でシャフト作品を愛する人が多いことから分かるように、シャフト言説は、実は新海や片渕を超えて、おそらくジブリに次いで多いだろう。そんな中でも、新房の経歴とアニメーション史を重ねつつ、彼の達成とシャフト的表現の系譜を作り上げたことを端的に説明している。

18位

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス

ダニエル・クワン、 ダニエル・シャイナート

https://gaga.ne.jp/eeaao/

家族もの、確定申告、という小さな商店の日常ものをSF化したものとしてはここ一番の成功。ただし、このスキームってインターステラーが家族もの再解釈してたのと一緒で、それがアジア人家族表象の再解釈になっている点が興味深い。

17位

舞台リコリス・リコイル

舞台リコリス・リコイル製作委員会

https://lycoris-recoil.com/stage/

声優と背格好が似ている俳優がでる。みんな演技がうまい。完全オリジナルストーリーではなく、アニメのストーリーの演劇化だが、浅草観光編とか「それ必要だったか?」といった話がないので観ていてさくさく進んでいたのがよかった。脚本のほさかようはほんとすごいと思う。CARアクションもわりとよかった。ただ、「嬉しい嬉しい」と言いながら抱き上げてぐるぐる回るシーンはアニメのほうがよかった。カメラワークって魔法なんだなと思った。なお、真島さんは舞台版のほうがよかった。

16位

12 hugs

羊文学

https://open.spotify.com/album/1wNDOs0Zmqrm7dhgnneflC?autoplay=true

もともとまったく注目していなかったけど、このアルバムは女性バンドの2010年代の総括的な内容になっていると感じた。また、シューゲイザーの中にそれを集約していく手法が、Y2Kリバイバルの今日においては非常に効果的。という理屈はおいといて、聴いていて心地のいいロックサウンドは久しぶりだった。

15位

Soul Quake

Watson

https://linkco.re/RGsmH3tG

関西の都市周縁圏のhiphopアーティストの活躍が目立ったのが2023年だった。和歌山の7、徳島のWatson、高知のAMOといったように、関西でも大阪や神戸ではないローカルなアーティストの活躍が顕著な年だった。全員に共有しているのは、日本の若年層の圧倒的格差とドラックの普及状態の現状。飲酒より先にドラッグを使用している可能性もある。ただし、AMOのように福祉が成功し、社会に溶け込みながらも芸術活動を続けられるような人もでてきた。そんな中でも、最も出世頭なのはWatsonだろう。非常にユーモアのある歌詞やラップのアプローチを多様化するのを恐れない精力的な楽曲制作など、2023年もっとも活躍したラッパーだった。

14位

TWENTY SOMETHING

Alana Springsteen

https://open.spotify.com/track/5BfNa5WsnMWgRonhA8ywes?autoplay=true

Alana Springsteenは今年カントリーで最も輝いた新人だと思う。グラミー賞もとった Chris Stapletonが参加している”ghost in my guitar”の完成度もさることながら、(たぶん)別れた恋人に対して「あんたはカントリーソングにはふさわしくないよ」と歌い上げる”you don’t deserve a country song”のテンポの良さや、テイラー・スフィフトに捧げられた”taylor did”(そもそもタイトルも「22」へのオマージュだろう)、このランキングで常に紹介するカントリーと酒枠を代表する”cowboys and tequila”も入っている。

13位

革命と住宅

本田晃子(ゲンロン)

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価値観を変えるために読む本の一つ。フランスユートピア思想家が妄想した姿を苛烈に実現していったソ連建築家たちの姿を丹念に追って見せる傑作。建築に思想が宿るだけではなく、思想が建築的要請によっても修正されているのではないかと思われるようなアンビルドな計画な数々は、いまの建築計画に対しても生き生きとした視座を与えてくれる。

12位

励起 仁科芳雄と日本の現代物理学

伊藤憲二

https://amzn.to/3vmWech

https://amzn.to/3H7nz4W

話題にあまりなっていないのが不自然なくらいの驚異的な一冊。仁科は自伝も書いていることがあって、科学好きの中では当然共有されているエピソードがあるものの、伝記やモノグラフいまいちのものが大きい。伊藤は仁科が日本の戦後のノーベル賞を獲得するな研究シーンをいかにしてつくり、それが20世紀の世界の科学を変えていってのかを仁科の研究だけではなく、仁科の活動していた環境を丁寧に追っていくことで明らかにした。日本の科学家のモノグラフにおいても現在時点の最高傑作。

11位

万物としての圏論

丸山善宏(青土社)

https://amzn.to/3HamJoc

世界中で待たれていた(ということに私の中でなっている)丸山善宏の単著。文理融合の極北はここにこそある。私は最初に彼の名前を知ったのは自分も参加した号の『アーギュメンツ』だったが、本格的なその議論を知ったのは『圏論の歩き方』「圏論的双対性の「論理」──圏論における抽象と捨象,あるいは不条理」で知った、圏論的双対性のアイディアだった。久しぶり脳に電撃が走るほどの衝撃を受けたのをよく覚えている。今後、私が期待してやまない研究者の1人だ。

10位

訂正可能性の哲学

東浩紀(ゲンロン)

https://amzn.to/3Hbk65k

「批評」と現在呼ばれている、特定の界隈の文芸評論や哲学的エッセイのうち、戦後の最高傑作だと率直に思った。構成力、文章の練度のどれをとっても一流で、これ以上は不可能だと思わせる。これに影響を受けて今後も多くの書き手が出てくるだろうし、間口の広さからいってもしばらく参照され続けるだろう。私も哲学に関心を持っている人が面倒なビジネス自己啓発哲学書とか読みそうな時に「とりあえず訂正可能性の哲学とか読めばいいよ」ということがよくある。また、私はこれを読んで「否定神学」(東浩紀)ってようは訂正不可能性の政治学だな、と思ったが別の機会にまた語るかも。

9位

Medina By the Bay

 Maryam Kashani 

https://amzn.to/3TMGR7n

いつからだろう?研究論文を読みやすくして、注釈をつけることが批評になり、すっかりそれ以外はどうでもいいと思ってしまったのは。シリコンヴァレーと呼ばれる地域に存在していたイスラーム共同体の歴史について、それが証言の再構成でしかないなゆえに、著者自らが映画監督であるという知見を活かし、脚本として表現して見せる。しかし、その用語の一つ一つの使用が読み進めるほどに理解できるようになっていくという仕組みになっている。イスラーム共同体の闘争史だけではなく、信じがたいほどに練られた一冊となっている。

8位

player’s player feat. KREVA

OZROSAURUS

https://music.youtube.com/watch?v=jAWqHA7h70s&feature=gws_kp_track

昔、喧嘩していたふたりが仲良くなったと思ったら、協力して歴史を作ったという盛り上がる一作。BACHLOGICはここのところの活躍が目覚ましいが、サウンド・プロデュースは彼が手掛けた。ラップの技術の一流を知りたい場合はこちらを聞くこと。

7位

名探偵コナン 黒鉄の魚影(くろがねのサブマリン)

監督 立川譲

https://www.youtube.com/playlist?list=PLmnMiSXtJEB0I_EoiyJP29OHgtokFhMx7

『名探偵コナン 黒鉄の魚影』みたけど、あまりにも素晴らしすぎて手が震えてしまった。コナン映画史上最もいい。思い出補正されている『世紀末の魔術師』すらはるかに超えてしまった。音楽に最初の時点でやられてしまった。いきなりハンス・ジマーとかアラン・シルヴェストリみたいな音楽がかかりだして、その時点で脳みそがやられてしまった。オタク的フェティッシュも全展開。ラブコメ三角形関係・NTR・百合すべてをクライマックスで詰めてきてて、神かと思った。脚本の櫻井武晴はすごいし、カット割りとかも本当に良くて、監督の立川譲もほんとによかった。パンフ読んだら、ラストシーンでキスを返すのは青山剛昌発案らしい。ですよね。そして、CGイラストは幸田和磨。「NieR:Automata」からコナン、すごい。

6位

長安三万里

監督 宋依依 / 脚本 红泥小火炉 (追光动画)

https://weibo.com/u/7799178350

『ナタ転生』(2021)のスタジオの作品。李白の友人である高適が老年の陣地内で作戦を進めようとする部下を諫めるために昔話をする、いうかたちで、李白との思い出語られていく。青年・壮年・老年にかけて徐々においていく二人のモデリングは見事だったし、中国でしか考えつかないような仙道修行の描写など見どころにつきない。とくに、「将進酒」の詩をとうとうと読み上げながら天空の菩薩たちのいる宮殿を飛び回るというシーンの構成力の高さが目立った。普通に泣かせるシーンもたくさんあった。

5位

ガーディアンオブギャラクシーvol. 3

監督・脚本 ジェームズ・ガン 

https://marvel.disney.co.jp/movie/gog-vol3

不振が続くマーヴェルシリーズの安定した作品。だらっとこういうのを見て、だらっとピザ食って帰るのがよい。真面目な話をすると、キャラクターの掘り下げと物語全体の展開が一致しているとか、細かいギャグ、性格をうまく反映した策略など、プロットが丁寧。また、未来技術がとにかく彩度が高いといった背景のわかりやすい表現とかも勉強になる。

4位

ライブステージぼっち・ざ・ろっく

脚本・演出 山崎 彬

https://bocchi.rocks/stage/

山崎彬による、イマジナリーフレンドが次第に実際の登場人物になっていく演出(父親を女性が演じるという点で露骨)、守乃もりの怪演、キャスト全員の演奏技術力の高さといい、欠点のつけがたい演劇だった。しかも、実際の演奏ではライブステージセットに本物のアンプやエフェクターがついていて、会場での音圧もすごかった。

3位

窓際のトットちゃん

監督 八鍬新之介

https://tottochan-movie.jp/

『窓際のトットちゃん』は名作エッセイなので、なにがどう評判になっていたか理解できなかったが、歴史再現の細かさ(最初の大本営発表と2回目の発表の表現差、服装、看板、おもちゃなど)や人物の動作、ライティング、アニメーションでの空想表現など傑出していたため、鑑賞して納得。今後も参照され続けるアニメーションだろう。

2位

레드북(レッドブック)と마리 퀴리(マリー・キュリー)など、代表的な韓国オリジナルミュージカルの再演

레드북(レッドブック)は플레이더상상(プロダクション名)、마리 퀴리(マリー・キュリー)は라이브・우리별이야기(プロダクション名)

https://www.themusical.co.kr/Musical/Detail?num=3134

2つともここ数年の韓国オリジナルミュージカルー牽引している代表的な作品が再演となっていた。레드북(レッドブック)は2018年初演で、2023年に再演だった。ネット上で気合で見た。主人公の設定、女性だけの文芸サークルがヴィクトリア朝にあったなどストーリーの豊かさなど現代韓国とたくみにダブらせていて感服。ヒットナンバー「사랑은 마치」(愛はまるで)は、ここ数年のグローバルなミュージカルシーンでも非常に印象に残る曲。박진주(パク・チンジュ)のバージョンがお気に入り。ここで生演奏での歌唱を見ることができる。

https://www.youtube.com/watch?v=PO5T8yBJJd8

また、마리 퀴리(マリー・キュリー)は現地で再演を見た。ストーリーのわかりやすさと展開されるメッセージの複雑さのメリハリ、圧倒的な歌唱力、演出の完成度。どれをとっても2023年最高のミュージカルだった。

1位

スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース

監督 ホアキン・ドス・サントス、 ジャスティン・K・トンプソン、 ケンプ・パワーズ(ソニー・ピクチャーズ モーション ピクチャー グループ)

https://www.sonypictures.jp/he/11022640

前作では、別のユニバースのスパイダーマンのコマ数が少なく描かれるといった狂気じみた作品を見せてくれたこのシリーズだが、今回はそれ以上の傑作だった。一般的に、3DCGアニメーションでは、画面をリアリズムに寄せていく、つまり立体空間での表現を前提にしようとするが、原作がアメコミであるということもあり、どうやってアメコミっぽさを3DCGでやろうとしているのか、という試みの結果、これまでにないアニメーションを見らてくれた。ここでの表現によって、Pixerとは別の可能性を拡張し、一つの完成を達成したと評価することができるだろう。また、ニューヨークの建物の高低差を利用したレイアウトによってささやかな会話のシーンの色調の構成、ライティングなども緻密に設計されている。何度も見返して配信でコマ送りして分析したくなる最高の作品。

カテゴリー
TERECO 米原将磨

米原式ベストハンドレッド2022

今年もやってきたベストハンドレッド。前回はDion式だったが、せっかくなので、以前つかっていたペンネーム「米原将磨」を使ってベストハンドレッドを公開することにした。

毎年反省点があるのだが、今年も前年と同様、自分の中でマンガといった特定メディア媒体やホビー系のガジェットについてぜんぜんサーベイできなかった。マンガについて考えるのは絶対数が足りていないのでどこか上滑りしている語りしかまだできない。また、ホビー系についてはそもそもアウトドアしないし、ありものですませる考え方をしてしまうので、もしかすると自分の仕事ではないのかもしれない。とはいえ、2023年はマンガについて理解をより深めたい。加えて、ゲームもどんどんプレイしたい。やはりゲーム用PCを買うしかないのだが、その金で旅行や研究所を買いたいと思ってしまうので、あえてMac OSでプレイできるものだけやっていくしかないのか……。

また、音楽についてもヒップホップやポップよりのテクノがどうしても優先されてしまった。これはロックに対する関心が著しく低下しているからでもあるが、韓国やタイのロックシーンには注目し続けているので、いつかランクインできるような批評的文脈を構築できるかもしれない。

とはいえ、そうした反省点ふまえつつも、ひとまず500個ほどのコンテンツの中から100個選んだ。また、2023年1月20日公開なので、せっかくなので、1日1個ぶん付け足した。お時間のある方には、ぜひお楽しみいただきたい。

動画でも配信している。文章とはまた違った内容を話していることもあるので、両方でお楽しみいただきたい。

【パート1】 まだ間に合う、新春コンテンツ振り返り! 2022年良かったコンテンツ120個をランキングにして振り返る!!!!! 米原式ベストハンドレッド2022
【パート2】まだ間に合う、新春コンテンツ振り返り! 2022年良かったコンテンツ120個をランキングにして振り返る!!!!! 米原式ベストハンドレッド2022

120

ミズ・マーヴェル

Marvel Studios

https://www.disneyplus.com/ja-jp/series/ms-marvel/45BsikoMcOOo

つまらなかったのは確かだけど、アメリカのパキスタン移民文化やモスクにレイドする警察への苦情のシーンであるとか、4話くらいまで普通に面白かった。問題としては、パキスタンにルーツを探しにいき、秘密組織にあい、自分の力のルーツを知り、かつて祖母を助けたのは自分だったという誰が見てもわかる展開をわざわざ何話もかけるべきだったのか、というもの。でも、ご近所ヒーローものとしてもっとパキスタン文化とアメリカ文化の融合みたいなのができたらみたいかも。

119

テレビ放送開始69年 このテープもってないですか?

BSテレ東

https://www.bs-tvtokyo.co.jp/VHSmottenai/

いとうせいこう・井桁弘恵・水原恵理が司会するモキュメンタリーホラー。テレビおもしろいやんって5億年ぶりに思った。2022年12月27日から29日の3夜構成となっているが、だんだん不気味になっていく。「坂谷一郎のミッドナイトパラダイス」という架空の昭和深夜エンタメを中心に展開する。オチが微妙。

118

エルピス

脚本 渡辺あや/監督 大根仁

https://www.fujitv.co.jp/b_hp/elpis/index.html

長澤まさみがまったく笑わないのがとにかく良かった。「日本のドラマも面白いな―」と初めて思ったかも。とはいえ、深く考えさせられたのは「あまりにも何かがたるいのはなんなだろう」というのだ。オープニングとエンディングは非常に優れた演出、カット割りなのに、本編が始まるとなんかたるい。ライティングも良いし、カット割りのテンポもいいし、みんな演技もいいし、なんでなんだろう、と思っていたのだが、全体的に話すことに比重が置かれたドラマなのに、そのときの演出がたるいんだな、と思った。つまり、人が話しているときは、カットバックだけではだめで、表情・別のシーンの回想・仕草・移動といった工夫が必要で、改めて映像ってつくるのはむずかしいなぁと思った。あと、AXNミスリーとともに育ってしまった身としては、物語が一直線すぎてつまらなかった。いや、国家権力=悪、ジャーナリスト=善なんてここまでひねらずにやられても……。

117

TAROMAN

藤井亮

「真剣に命をかけて遊べ」という岡本太郎の言葉を掲げたNHKの短編シリーズ。戦後の日本文化の中で重要なモチーフ、ゴジラなどの怪獣・ウルトラマンを同じく戦後にかけて活躍した岡本太郎に重ねるのはよかった。太陽の塔をウルトラマンに見立てるのは文化的交差を考えるときわめて正しいやりかただし、3分という短さの中でテンポもよかった。画面の編集まで初代のウルトラマンに合わせていくことや、エヴァンゲリオンに影響を受けたカットを作りつつ、ゴジラなど他の特撮のキャラクターもまんべんなくの取り入れていたのがよかった。ただし、結局全体を通じたストーリーがない、鑑賞者に物語化をアウトソースするかたちになっていて「二次創作を喚起ってそういうことだっけ」と疑問に思った。

116

FIFAワールドカップ

自分が知ってるサッカーとはだいぶ違う世界になっていて、どの国の戦いでも面白かった。見ていると、どういう種類の戦略があるかしらないがパターンにしたがって動いているのがよくわかった。フランス文化を学んでいる身としては、Mbappéのようなアフリカ系移民(カメルーン)でセーヌ・サンドニ県で育ったという点が重要。ラップしかり、いま、フランスでもっとも重要な文化はこの地域と人種の問題が関わっている。

115

THE BATMAN

Matt Reeves

https://wwws.warnerbros.co.jp/thebatman-movie/

画面が暗い。とはいえ、夜に活動するバットマンと昼間に歩き回るウェインという対立はよかった。リドラーと警察組織の汚職問題というのが結びつく少しひねった話もよかった。ただ、一番良かったのはバットマンがちょくちょくダサいところ。建物から飛び降りる前に少しびびったり、バスの上に着地しようとするが失敗するとか、人間らしさにフォーカスをあてていた。ただ、リーヴスにしては、カーチェイスとかの単調さが映画を見るのにあきさせている点が気になった。

114

那須川天心 vs. 武尊

RIZIN FIGHTING FEDERATION

格闘技は基本的に将棋の棋士を楽しむのと一緒。似たようなルールのなかで、非殺傷的に暴力行為をするのを楽しむように見えるが、実は殴り合いの要素以外のところがあると知ると、ゲームとして楽しめる。そして、ゲームはプレイヤーの人生が物語として鑑賞者の中で把握される。というわけで、武尊のように経歴の長いプレイヤーは、那須川天心という今をときめくプレイヤーと戦うことで「かつての自分との戦い」という王道展開になる。

113

果てしない二人

aiko

EP。毎年一曲は新しい曲がでていて仕事量がすごいけど、今回のEPはよかった。収録曲の「夏恋のライフ」の「半袖長袖迷う日には/昔からあなたが決めてくれた」。習慣と喪失をミニマルに語るのがとても見事。結婚してからのアルバムだがいまでも失恋について語ることができる偉大さこそ、人生をうまく創作に落としこむプロの仕事。また、収録EP『果てしない二人』の「号泣中」は、四拍子を裏拍で刻む、はい、ヒップホップですね。aikoはブルーノートと比較されることがありますが、そうじゃないです。aikoはhiphop。What I’m sayin’?

112

コーダ

Siân Heder

https://www.imdb.com/title/tt10366460/

人生の帰路に悩むもの学園バージョンなんだけれど、C.O.D.Aを主人公にすることで、社会階層や障害者差別を見事に描き出している。例えば、主人公の友達は、放課後に自分の家のバーで働いている。友達になる理由がこうした細かいシーンでよく説明されている。他にも、言葉できない重いを手話のような動きで伝えようとするなど、演出でいい点がたくさんあった。とはいえ、あんなにカッコいい男の子といっしょに自宅で練習するという感覚が自分にはない発想だった。危なくない?でも、背中合わせで練習しようよというアツい演出ですごいよかった。

111

かがみの孤城

原恵一(監督)

https://movies.shochiku.co.jp/kagaminokojo/

年末の映画館を小中学生の主に女性で埋めるのすごすぎるのでランクイン。辻村深月のマーケティング的に完璧な物語の内容(女性の思春期世代の抱える問題と攻撃的な性格をもつ女子生徒との葛藤+読書好き+素敵な男の子が恋人って感じではなく友達として現れてくれる)を支えるアニメーションも、原恵一のケレン味のない丁寧なつくりに支えられていた。一緒に見に行った友人は「パースがおかしい、3D空間ならああならんやろ」と作画に文句をつけていたが、「アニメやからええやんけ」と私がなだめていた。ちなみに、新海誠から技法をもってきたり、エヴァオマージュもあって、そういう点で「自分の好きなものをどうやって作画コストを低くして導入するか」の勉強にもなるいいアニメーションだったと思う。

110

四畳半タイムマシンブルース

夏目真悟

https://yojohan-timemachine.asmik-ace.co.jp

リバイバルはたいてい失敗するが、演劇と小説のマッシュアップということでもともとの作品と離れていたことで別の鑑賞体験ができた。デートに誘うきっかけについて、主人公は受け身すぎでは、という指摘がありえるし、そう思った部分もあることはあるが、わりとその点をカバーするような物語設定にしている点は森見自身の円熟か。

樋口先輩の声が変わっていたことに時の流れを感じした。すべてものは変わり、いつか死にゆく。R.I.P. 藤原啓治。

109

ドライブマイカー

濱口竜介

https://dmc.bitters.co.jp/

アカデミー賞とってから観たので2022年、すまんやで。プロセス自体を作品にしていくという現代的な映画としては、ごく最近で一番おもしろいものだった気がする。けど、話としてはチェーホフのほうが面白いし、いまいち村上春樹を原作にして、他の春樹作品への目配せもないし(収録してる本は参照しているが)、着想というか翻案な気がした。内容としても、「これってだいたい『ハッピアワー』だよね」と思った。しかし、とにかく『ハッピーアワー』に比べてよくもわるくも短くきれいにまとまっていたので、見ごたえのある映画だった。

108

エジソン

水曜日のカンパネラ

Tiktok対応曲として2022年でかなりすぐれていた。ミスiD出身の詩羽がボーカルになって声質とラップがよくなったというのはさておき、歌詞の意味不明さとメロディのキャッチーさがとてもよかった。この1年後に誰も聞いていない曲でありながら、ファンにとってもアンセムになりそうな曲はなかなか出てこないので、その点ではtiktokらしさみたいなものを超えてた。

107

水星の魔女

小林寛(監督)

https://g-witch.net/

さやわかさんがいっていた通り、立てつけはギムナジウムものと騎士道ものに取材している部分がでかい気がした。なんか百合ものかと思って早合点していた人が殺人シーンに盛り上がっていたが、「ガンダムってどういうアニメだったかご存知でしたか?」という感想。しかし、ご存知でないからこそこれだけ盛り上がったわけだし、それは作りが丁寧な展開が見ている人をあまり飽きさせなかったことや、ツンデレがちょっとずつデレになっていくという性格の変化とイベントの対応が客層リーチを広めていったのだと思う。ちなみに、バージョンアップ後の姿を作中の人が「ダサい」といっていたのは笑った。

106

ライブでギターネックを忘れたやつ

Seiji Igusa

youtubeのギター系のバズり動画で一番きてる人。もともと、RTA的技巧派やタッピングギタリストが動画で人気で、ここ最近は発想をかえたおもしろ動画を多く出しているが、プロギタリストということもあり、たんによくできている。ちなみに、本当にギターがうまい、というかギターの演奏で食べているプロ。

105

「民藝の100年」展

東京国立近代美術館

https://www.momat.go.jp/archives//am/exhibition/mingei100/index.htm

「民藝」といえば、柳宗悦、濱田庄司、河井寬次郎がイギリスのアーツアンドクラフツ運動に影響を受けて作成した概念。本で得た知識や断片的な展示物でなんとかなく知っていたものが、運動の参加者たちのそれぞれもっていた背景や活動の歴史的思想的背景がほどよく整理されつつ、そのときに評価されていた工芸品が展示してあり、面白かった。ただ、後期の民藝には明らかに植民地主義の問題があるはずなのに、それについては軽い言及でほぼスルーだった点がとても気になった。

104

SIGNALIS

Yuri Stern

https://store.steampowered.com/app/1262350/SIGNALIS/?l=japanese

自分ではプレイしていないが、プレイ動画だけみてエヴァだったのでランクイン、というのはあるけど、こういう感じのゲームはゲーム作りの勉強になるなーと思った。たとえば、ラジコン操作的に画面を限定させること自体でレトロなプレイスタイルを喚起させるので、ピクセルを落としたデザインととてもマッチしていた。これは開発人数が少ないことや予算制約をゲームのデザインによって解決する優れたパターン。大変満足した。

103

ペリフェラル 接続された未来

ジョナサン・ノーラン(脚本・プロデューサー)/リサ・ジョイ(脚本・プロデューサー)/スコット・スミス(監督)

https://amzn.to/3WsHiS5

ギブソンとノーランとジョイ、見るしかないよね、でも大丈夫なのかな、と最近の『ウェスト・ワールド』の情勢から不安しかなかったが、SFとか以前にミステリとしてクリフハンガーすることをすごい丁寧に意識していて良策ドラマという感じだった。この世界で死んで未来にいって過去改変の歴史を選べばいいという発想はパラレルワールドものというより、ゲームのリプレイ的な想像力に規定されていることに対する批判的な乗り越えなので、「え、普通におもしろいじゃん」と思ってしまった。

102

シン・ウルトラマン

監督 樋口真嗣

https://shin-ultraman.jp/

オタクへの目配せがすごい。長澤まさみの匂いをくんくんするのはキツいものがあるし、脚本上、性的な表現をしたいだけだった。とはいえ、こうした感覚は私の好悪の問題でしかないが、本当の問題は、「そのシーンは何の伏線になっているのか、カットをつなぐためにいるのか、というか大して構図も作ってないのに4カット使ってそれやる?」など、随所に物語の進行を阻害する無意味なシーンがたくさんあった。それをごまかすようにカットの早い切り替えなど、『シン・ゴジラ』を意識した作りにしているが、空間設計・ライティング・カメラワークがまったく庵野っぽくないので、この映画によって庵野が実写で何をしているのかよくわかる点で高評価。

101

2010年代ベルクソンブームの総括

12月末に書肆侃侃房から『ベルクソン思想の現在』(https://amzn.to/3IOpPA8)がでるという驚きの展開。その他、『世界は時間でできている──ベルクソン時間哲学入門』(https://amzn.to/3W7209O)、『ベルクソン 反時代的哲学』(https://amzn.to/3ZADSPR)、『ベルクソンの哲学 生成する実在の肯定』(https://amzn.to/3Hc4Ndv)、『生ける物質: アンリ・ベルクソンと生命個体化の思想』(https://amzn.to/3w1OuK2)といった著作が次々とでる。ベルクソンは19世紀末のフランスでも最も重要な思想家であり、日本では西田幾多郎もその思想に対して反論しつつ自分の哲学を作っていったところがあり、ずっと読まれてる。その後、日本でフランス文化の輸入のときにベルクソンがついてまわったので、とにかくベルクソンは日本の人文学の中で広い影響がでている。ただ、ひとつだけ不満があって、ベルクソンの生理学的なアプローチを現代の認知科学・行動心理学でやるとか、現代形而上学のアプローチでやるとか、「まぁそうするよね」的なものが多い。日本でもElie Duringみたいなファイバー束といった位相幾何学の概念でベルクソンの時間論をアップデートするといった文理融合の論者がもっとほしいところ。

100

Adoのグローバル展開

Geffen Recordとの契約、すごすぎるでしょ。ちなみに、2020年に「うっせぇわ」のときは「いい声だな」としか思わなかったが、最近は「マジでうまいな」という感想。2020年にはベストハンドレッドをやっていなかったけど、2022年に大躍進したのであらためてランクイン。

99

すずめの戸締まり

新海誠

デジタルエフェクトと3DCG表現がよかった。べらべらしゃべった配信はこちら。https://www.youtube.com/watch?v=aWynn7rOylE

98

「シラスの大地で時事語り」シリーズ

生うどんつちやの「シラスの台地で生きていく。」

https://shirasu.io/t/namaudon/c/tsuchiya/p/20220930191110

私がやってます。毎月最近気になったニュース記事を10とりあげて、ランキング形式にしながら、生うどん土屋さんとニュースの注目ポイントについて話つづける。科学から時事問題、三面記事、ローカルネタまで縦横無尽に話していて、実はそれなりに聞かれているそう。ポイントとしては、やはり科学についてどうしてみんなそんなに関心がないのか、というもの。文化と技術は密接にかかわり、理論探求と実験の繰り返しによってうまれたメディアやインフラの環境変化が文化のありようを変えてきた。これは古代からずっとそう。そうしたことを伝えていけたらと思う。

97

ベルファスト

KENNETH BRANAGH

https://www.imdb.com/title/tt12789558/

日本での公開は2022年3月だったので、公開は2021年だったけどランクイン。少年の淡い恋・経済的上昇のチャンスと逡巡について一つの町「ベルファスト」の中で描ききる箱庭的な映画。物語の進み方も丁寧で、退屈に思える出来事のシーンのあとに両親が喧嘩しているカットを入れる、そのときにPOV視点になるなど、古い映画によくある感じでよかったし、テレビは白黒だけど映画館でみる映画や演劇はカラーという演出の細かさもよかった。とにかく、すべてのカットが計算された設計になっていて、観ていて楽しかった。とはいえ、『アーティスト』のように凝っていたものふくめ、現代のモノクロ映画鑑賞についてときどき考えさせられる。つまり、モノクロ映画であるということは現代の動画時代の中でどのような意味を持つのか、ということだ。これは何かいい論文があるだろうけど、調べていない。

96

モガディシュ

リュ・スンワン(監督)

https://mogadishu-movie.com/

韓国・北朝鮮仲良くしようよ韓国映画のひとつ。ベトナム戦争ものが多いので、アフリカの内戦を事例として使用するようになったと解釈できるだろう。普通に良作。とはいえ、そういうのほんと韓国映画うまいよね、という感想。この手のものだと、『コンフィデンシャル』・『鋼鉄の雨』・『黒金星』とか、10数本くらいあり、もはや神々の頂上決戦のようななかでの評価なので、基本的に見たほうがいい。

95

SPRING VALLEY シルクエール<白>

キリンビール株式会社

https://www.springvalleybrewery.jp/beer/

いわゆるクラフトっぽいビールにふっているなかで、いちばんマイルドに飲めてすごいビール。多くの人にとって、ビールとおつまみなのだろうが、個人的に最初の一杯は純粋にビールを飲みたいので、「一番絞り」のように食事の味を邪魔しないがもう少しシルキーなのどごしで、ヒューガルデンほど癖は強くないもの、という絶妙なラインをせめている。自分向けに出されたのか?と疑ってしまうようなビールだった。

94

東京都新宿区霞岳町

https://twitter.com/iphone_masakaz/status/1592573827816771584?s=20&t=Par5WlRrO_xfAn3DdGngfQ

「町の大きさ十数米四方 住宅無いため居住人口0人、唯一あった四谷警察署信濃町交番が建替で信濃町へ2年前くらい前に移転。人口0人建物0件虚無の町になった。」とのこと。住居実態がない町自体は千代田区では珍しくないが、建物0件、というか廃墟もなく本当にただの更地で町名がある東京都23区内土地の存在は東京「府」始まって以来の事件ではないだろうか。もしもあったとすれば、それをテーマにして新書が書けそう。様々なフィクション的な想像が掻き立てられる。

93

このディズニーキャストさん、前職Supremeの店員じゃねえか…?

宮フィのもういいチャンネル

いわゆる「細かすぎて伝わらない」系の芸人。「おミュータンつ」というコンビの一人。ずっとSupremeネタをやっていた。この回くらいから、「前職Supreme」シリーズを開始。この方法によって、「それぞれの職種の特性」というモノマネという技術向上と、Supremeに異化という演劇的なシチュエーションができるように。レベルが割と高い。なお、十年代前半にかけてのSupreme流行寸前のときの深夜待機列などにもさんかしていたかなりのガチ勢だそうで、昔話も面白い。ちなみに、私はSupremeのロゴのついたものは持ってないし、買う予定もない。

92

ドゥルーズ 思考の生態学

堀千晶

https://amzn.to/3WnoELl

昔、語学の授業でお世話になった先生の初めての単著。博論がもとになっているのでかなり専門性が高い。個人的には、ここ最近読んだドゥルーズ論の中で一番面白かった。とくに注目したいのは、講義録を随所で参照し、ドゥルーズの思考過程によって論拠を補足することで、複数の記述内容に一貫した読みを提示するところだ。ドゥルーズの講義録を使用した研究書は、とくに日本語ではほとんどない気がする。また、ドゥルーズと革命という長らく続いてきたテーマについて、ドゥルーズの「耐え難いもの」とサルトルの「耐え難い苦しみ」を対照させて、知覚と行動の中で政治の主体論を構築していたのだ、というところは整理が見事だった。また、革命に極端に期待するようなドラスティックな世界観をもっていない筆致も、さすが我が先生という感じ。

91

地図と拳

小川哲

https://amzn.to/3IXlACz

今年読んだエンタメで一番面白かった。満州に計画された存在しない都市をめぐって、ボルヘス的な百科事典的存在を、地図というテーマに置き換え、それを戦争と重ねることで歴史的な深みと物語の起伏を生みだしているこの一冊の達成は稀有なものだ。また、軽妙洒脱な言い回しや、登場人物たちの詩的なやりとりにも読ませるところがあり、登場するモチーフやガジェットの物語的な意味づけも丁寧になされていて、長い小説を書く人の勉強にもなるような本だった。とくに、孫悟空が自分の言葉を燃やす一方で、神父の地図だけが残るラストは見事だった。とはいえ、自分にとってはどれくらいよくできていてもラストシーンに詩的叙情がないと読後感に満足できないので、その点は微妙だった。

90

【講義】フォルクローレって何?どんな音楽?ざっくり解説

山下Topo洋平のHappy New Moment

https://shirasu.io/t/topo/c/topo/p/202210122

フォルクローレは楽器や衣装とは関係がなく、リズムとグルーヴこそが重要というの、言われてみればそうなのだけれど、実際の曲の紹介や、リズムとグルーヴを活かして創作した自分の曲のロジックの紹介には感動した。この配信を通じて、自分が詳しいジャンルの音楽が世界的に拡大していくなかで起きていく微妙な差とは何かについてうまく説明するヒントが得られた。そういう理論書もあることにはあるのだが、やはり、実際にリズムとグルーブだけをなぞりつつポップスに仕上げた本人が説明すると、普通に本を読む以上の実感が得られた。

89

နေသာတယ်(ナイサル・タール)

しらこ

https://rakoshirako.booth.pm/items/4361484

画家・イラストレーターしらこの個展。しらこは『ザリガニの鳴くところ』の表紙を手掛けたので有名。文芸系と相性がいい人で、今後も多くのところで活躍しそう。個展では、2019年ミャンマー旅行の経験を描いていた。しらこは、一人の人を描くことと、群像を背景として描くことの両方で優れている。そろそろ買えなくなるほど高くなりそうなので、いまのうちに個展で絵を買っておくとよい。なお、私はほしいやつがすでに買われていたことと、そもそも家に飾る用のコルクボード設置しないといけないので、買わなかった。後で後悔しそう……。

88

第二回フリーペーパー『やうやう』大忘年会

生うどんつちやの「シラスの台地で生きていく。」

https://shirasu.io/t/namaudon/c/tsuchiya/p/20221214213042

鹿児島県鹿屋市のイベント。男女年齢層も多様な参加者がいて、ゲンロン総会感がすごかった。登壇者に日置市長や鹿児島県の県議員、それに対してまた別議員が質問するという政治的空間に、様々な職業の人と、なぜか私が参加していた。その後、著述家もきて活動をしている人たちと議論、ライブあり、格闘技トークあり、という硬軟とりまぜ、すごい。「頭だけいいやつ もうGood night/ブランド着てるやつ もうGood night/メジャーになりたいやつ もうGood night」がキャッチコピー。なお、登壇した私はKIKUCHI TAKEOの上下を来ていたが、good nightするどころか23:00からセッションスタートして、3:30までトークした。それ含めて、ゲンロンという場所を知っている人が、ゲンロンみたいな場所を地方で実現できることを示した最初の例だと思う。そして、日置市長の永山さんはその後、別の配信でもコメントしていて、市長がシラシーということも判明。シラスすごい。

87

ChatGPT

OpenAI

https://openai.com/blog/chatgpt

こちらの記事(https://qiita.us5.list-manage.com/track/click?u=e220ac811523723b60d055c87&id=0a267e1006&e=3dbb9bf4f1)で概要はまとまっている。

とはいえ、まず、技術とかに関する説明は細かいところがほぼ間違っているし、コードの出力とかも自分で直さないと動かない。使いまわしコード生成するのに便利かもとかいってるけど、そんなんいくらでもコード補完のライブラリおとせばええやんけ、自分ほんまにスクリプト書いとんのか、と思ってしまう。

あと、いわゆるだめなWikipedia記述が多く、道具として優秀とも言い難いと思った。つまり、それらしい文章の羅列について、レポートの文章ていどのものでは困るし、結局下書きを全部直して自分が一から書く未来が見えた。

今後、唯一使えそうな希望点としては、知らない概念とか体系的にぱっと、ちゃんと正確に出してくれるようになってから。Wikipediaの対話形式の理解のようなもの。

ちなみに、ほとんどの人間が確率的思考に相同するかたちで段落を区切って書いていることなんてChatGPT以前からわかっていた話なので、何も新規性がない。

ちなみに、一番欲しいのは、べらべら喋ったら概念図を引いてくれるAI。それができたら本当にすごいと思う。

86

FLIP&DRAW

7SEEDS & GREEN ASSASIN DOLLAR

https://linkco.re/yM9UHABT?lang=ja

「lo-fiっぽいヒップホップってまとまったものないの」という質問に対してはこれ。これを聞くと、流行っているいくつかのトラックの種類のなかで、一部をすべてを明快にしてくれる。重要なのは、lo-fiはレコード的なグリッチ音が入っているが、ヒップホップでは、そういうのがあんまり目立たないし、サンプリングしている音源の存在が目立つ。そんな中で、GREEN ASSASIN DOLLARは“BUDS MONATAGE”で示したように、サンプリング音源をかなり寸断して編集し、それをピアノサウンドと統合させる高度な技法を使っている。そうした技術の妙を楽しむことのできるおすすめのアルバム。

85

NewJeans(뉴진스)

https://newjeans.kr

90年代リバイバルをかなりわかりやすいかたちでやっている。アイコン化され、ノスタルジー化され、ガジェットとなった90年代を40代の女性プロデューサーが10代の子にやらせるというなんか歪んでる気がしなくもない点が逆に面白い。Y2Kフアッションの再流行に合わせてるだけということもあるが、Windows XPの画像読み込み速度の遅さをアイドルの公式ページで再現してて、丁寧といえば丁寧だが、「それ誰が求めてるの」感がすごくて大丈夫なのか、と心配になる。あと、十代でデビューして人生決まると再学習とか難しい気がする(日常的な生活が送れなくないか)ので、そのあたりのケアってどうなっているのか気になる。

84

Sandora’s Son

CHICO CARLITO

CHICO CARLITOは単なるバトルがうまい人と思っていたら、屈折10年で素晴らしい曲を作り上げてきた。沖縄音楽の独特のグルーヴでフロウを構築し、細かく韻を刻むスタイルは他にない面白みをもっている。“Ryukyu Style”は2020年に発表されたさいにまさしく沖縄的なラップを感じさせてくれたが、CHOUJIと柊人とのRemixもかなり完成度が高く、とくにCHOUJIのフロウもまさしく沖縄的で、ある種のジャンルが確立しているのを示してくれた。

83

Dr. ストレンジ マルチバースオブマッドネス

サム・ライミ

https://marvel.disney.co.jp/movie/dr-strange2

サム・ライミといえば、『スパイダーマン』だとみんな思ってるけど、やっぱゾンビでしょ。ゾンビはヴードゥーといったオカルトミームに由来しているので確かに相性いいかもしれない、というは置いておいたとしても、死体の遠隔操作をするところなど、かなりしびれた。また、MCUではとにかく女性が犠牲になるという問題点を浮き彫りにした点も良かった。別に夫婦に子どもいないってそんなにマイノリティでもないんだけど、子どもにこだわる母親像みたいなものをマーケティング対象にしているからなのかな、と思った。よく考えると、MCUってシリーズと作品の構成みたいなものとしてはすごく良くできているけど、そもそも対象層はミドル・エイジのマジョリティかつ、ファミリー層総取りだし、こんなものなのかな、という感想。個人的には、ディズニー作品をオマージュした音符の戦い(ようは、『ファンタジア』)とか、とにかく魔法のバトルや次元移動を言い訳にピーキーな表現をやっていたのが良かった。

82

悪党の詩(Remix)

Red Eye & D.O.

大阪出身のRed Eyeに練馬区出身のD.O. がフューチャリングして、まさかの「悪党の詩」をREMIX。Red Eyeの歌詞には、D.O.へのリスペクトが非常に多く、歌詞の構成がよくできている。ただ、このコラボは非常に考えさせるものがある。D.O.は都内の90年代サバイバーであり、もろに景気退行を受けていた。ちょうど20歳ほど年下の2010年代サバイバーのRed Eyeは、ほとんど同じ境遇を生きてきた。マクロには、株価の上昇・円高・ゼロ金利政策・36協定など2010年代は比較的躍進した年だったが、Red Eyeはまさにここで生じた貧困世帯の拡大に合わせて登場してきたといえる。今、ヒップホップで中心的な役割をもっているほとんどのアーティストが似たような環境出身であることを考えると、この曲の意味するところがとても大きいところがわかる。

81

稲川淳二がAppleサブスク解禁

apple music

https://music.apple.com/jp/artist/%E7%A8%B2%E5%B7%9D%E6%B7%B3%E4%BA%8C/86912098

ここ10年ちかくの怪談ブームの帰結。動画でホラーを見るよりも手軽。ほどほどに不気味な話がよくまとまっている。近代的な怪談のほとんどは人間がもっている認知的バグ(ここで人が死んだので、なんとなくいたくない)を利用しつつ、解決不可能な不条理に巻き込まれいくというもの。たぶん、演劇でいう「悲劇」みたいなものの一種といっていいと思う。なので、怪談はずっと人気だが、メディアの変化やホラーブームみたいなものが散発的におきていて根強いカルチャーシーンを形成している。落語などもどんどん解禁になっているので、次は謡とかやってほしい。浄瑠璃など、朗々と読み上げるものがたまに聞きたくなるのでいろいろ解禁してほしいこの頃。

80

RENAISSANCE

BEYONCÉ

https://music.apple.com/jp/album/renaissance/1630005298

“BREAK MY SOUL”はすごかった。Robin Sの“Show Me Love”(’93)をサンプリングした。もとの曲もソウルに、キレキレのエレクトロを導入したかなり先進的な曲だったが、それをさらにBig Freediaの“Explode”(2014)を重ねるという離れ業。プロデューサーをしているTricky Stewart、The-Dream、そしてBeyoncé本人の頭の中を覗いてみたいくらい斬新な発想。“CUFF IT”についても、ファンクをここ5年くらいのR&Bサウンドに取り入れつつ、ポップス化していてビビった。

79

ウェンズデー

ティム・バートン

https://www.netflix.com/jp/title/81231974

90年代を代表するホラー・コメディの『アダムズ・ファミリー』にでてくるウェンズデーが主人公。正直、『アダムズ・ファミリー』はまったく好きではないのだが、予告編をみて「これは、ワンチャン「ハリー・ポッター」ではと思って確認したらやっぱり『ハリー・ポッター』だった。そして、かなりうまいと思った。『ハリー・ポッター』と同様に家族の謎をめぐる話にしつつ、ウェンズデーが主人公であることもあり、賢さとストイックさによってどんどん物語が駆動するので、シリーズものとしてとてもすぐれている。全能チート系主人公だが、コミュニケーションに難がありすぎるため、そこで随所に笑いが仕込まれているといった演出も見ていて気持ちがいい。90年代リバイバルものだが、時代背景も現代に合わせているといった工夫もあるし、その中でもかなり良かった。

78

『伊勢物語』六十段「花橘」小論―女子大学の教室から、注釈のジェンダーバイアスを考える―

大津直子

doi/10.15020/00002246

「同志社女子大学日本語日本文学」34号 2022/6収録されていたこの論文は自分が待っていた内容なので本当によかった。昔から古典を読むのは好きだったのだが、ときどき、女性が出家することになる話のときの様々な理由で「解説が一行も理解でない」というのがあった。一言でいえば、「それってお立場表明に過ぎないし、この文章の背景にある文化風習でもないみたいだし、解釈じゃなくない?というものだ。この「花橘」の従来の解釈もその典型で「女は基本的に男を金で選ぶにきまってるから、純粋な恋愛に負けた反省で出家やろ」みたいな解釈で「は?」と思っていたのに、丁寧なテキスト解釈によるかなり納得のいく回答として「女性が自由に意思表示し、抵抗することができる手段として出家があった」を導いていて、専門外の論文の中で一番読んでよかった。

77

【特別番組】日銀は政府の子会社?ー会計と経済から考える貨幣理論

飯田泰之のシラス経済ゼミ

https://shirasu.io/t/iidayasu/c/iidaecon/p/20220707122447

ウクライナ戦争になり日本経済の雲行きが怪しい中で、日銀は政府の子会社という認識について改めて考える回。貨幣理論はたいていの場合、サプライとデマンドの観点から説明されるが、会計から考えることによって中央銀行の機能もよくわかる。また、暗号通貨の仕組みを支えるプルーフ・オブ・ワークは、決済の事実だけが残るというラディカルな世界観を提示していることを会計の概念で前田順一郎がうまく説明するところも重要。

76

サイバーパンク2077:エッジランナーズ

今石 洋之

https://www.netflix.com/jp/title/81054853

脚本は日本人がまとめているが、構成にBartosz Sztybor/Jan Bartkowicz/Łukasz Ludkowskiの三人が加わっていて、今石作品なのにまったくトリガーっぽくなくて感動した。いつもの今石・トリガーだと、ハードボイルド的に男が一人でさまよっていくだけなのだが、男女の役割を逆転させつつ、しかも、きちっともっていた目標を叶えるのだが、その目標それ自体が明らかに空しいものだったということを恋愛と人間関係の破綻によって描くというのがとてもよかった。しかも、「お互いのために頑張るがそれゆうにすれ違っていく」という普遍的なモチーフをストレートに表現していた。サイバーパンクという箱を使って自由な表現がまだまだできることを教えてくれたし、今石・トリガーに対するイメージも少し変えてくれる良作。

75

anéantir

Michel Houellebecq

https://editions.flammarion.com/aneantir/9782080271532

すごい苦労して読んだ。もともと、パラ読みで済まそうかなと考えていたが、ベストハンドレッドが1月発表にのびたので、年末・お正月も全部潰してひたすら読んだ。新年初読書がウェルベック、辛さしかなかった。とはいえ、フランス語学劣等生でも読めるくらい文章がわかりやすくてやばい。たぶん、読者層を広げようとしている。そんな今回だが、いわば「無駄に洗練された無駄のない無駄な動き」みたいな内容だった。『服従』と『セロトニン』では暴動を描いたウェルベックだけど、今回のanéantirではテロそのものが描かれる、全体の2割くらいで。その少なさはなぜかというと、オカルト・陰謀論的味付けとフランスの伝統的古典作品=バルザックの換骨奪胎がメインになっていて後者の比重がとても重いから。とはいえ、「階級固定したフランス社会で安全保障やってる官僚も親子二世代だし、結婚やパートナーも官僚どうしで、実質血縁でまわってるよね」みたいなのをうまくバルザックの作品とマッシュアップしたみたいな内容。翻訳出るかかなり怪しいけど、出たらでたで、文学好きの人にはおすすめだけど、そうではない人はスルーしてOK。

74

A Decisive Blow to the Serotonin Hypothesis of Depression

Christopher Lane Ph.D.

https://www.psychologytoday.com/us/blog/side-effects/202207/decisive-blow-the-serotonin-hypothesis-depression

ウエルベックといえば、『セロトニン』。というより、心療内科と薬は映像でも小説でも一大ジャンルを形成している。その中でもセロトニンが鬱に効くので、セロトニン再取り込み阻害することでセロトニン量を増やすことが行われてきたが、鬱の症状そのものには実はセロトニンが効かないのでは、という衝撃的な論文誌にのった記事(査読してるどうかわからないが信頼性が高い)がでた。鬱をひたすら人生の複合的な要因によって説明してきた文学の勝利でもあるし、ちゃんと寝て一日三食食べれば実はなんとかなることを示しているのか。どちらが正解かは不明だが、まさに「病の表象」と「医学的知識の常識」が乖離する稀有な事象だった。

73

時間と偶然研究会

https://www.youtube.com/@time.contingency/videos

去年の脱構築研究会に続く、ドープな発表が聞けるフィルカル系の人が主催している。デザインについて、2021年ベストハンドレッドでとりあげた脱構築研究会と基調が異なっていて、それぞれのジャンルを代表しているようで興味深い。米田翼が出演している回があるので、ベルクソン研究が現代形而上学と強い結びつきがあることなどわかる。なお、私はジミー・エイムズを応援している。

72

アンスコム

『インテンション』(https://amzn.to/3wgOFRG)の翻訳が3月に発売され、9月には『思想』でも特集。SNSでも、アンスコムがこんなにツイートされていること自体に驚く。中根杏樹「実践的推論の合理性と論証の妥当性 : アンスコムの「実践的推論」再考」が、松永伸司に論文をTwitterで紹介されるなど、多方面で注目が集まった。とはいえ、なぜアンスコムについて考えると少し考えてしまう。つまり、「意図と行為の結びつき、そこにある倫理的基準は何か」というメタ倫理学ブームの今年の流行なのかもしれないが、アンスコムはトルーマンの原爆投下の命令書にサインしたことを激烈に批判しているので、そうした批判ロジックが作りやすいということがあるのかもしれない。いずれにせよ、「知っているし、議論の前提くらいは理解しておいたほうがいいよね」といった哲学者が「え、読んでないの?」のモードに変わったのがわかりやすい経験だった。

71

Mirror

ちゃんみな

高校生RAP選手権で名を挙げたちゃんみな。First Takeにも出るようになり、頑張っているとは思っていたが、韓国ポッブスに影響を受けすぎていて独自性がどんどん薄れていっているなと思っていたときにでたのが「Mirror」だった。ゼロ年代に流行したSkate punkやJ-Rockのうち、メロディラインがシンプルなものを参考にしつつ作り上げたような韓国語の楽曲でかなりかっこよかった。ラッパーがここまでロックを歌いこなすのはもともともっている歌唱力の強さの賜物であり、ちなみにダンスもふつうにできる人なので、今後もっと伸びていくと思う。

70

三木那由他

すごい仕事量。1年に3冊も出してる。素直に尊敬。グライスに限らず、コミュニケーション理論の大きな流れを作った。『言葉の展望台』では、哲学エッセイなのだが、自分の意図が伝わらないことよりも、「誰か/自分の発言に傷つけられてしまうかもしれない」といった点を強調するといったように20-30代的感性にうったえたエッセイになっていて感心。とはいえ、一応文学研究や批評をしている立場からすると、意外な展開みたいものがない共感型のものは続かないので、この手ものを書きたいなら、筋の交差と意外な展開などを導入していく必要がある。とはいえ、そういう小言を言いたいくらいしかない良い本ということ。仕事をし続けるのは大事だけど、あんまり働きすぎると体に悪いので適度に頑張ってほしい。

69

R. R. R

S・S・ラージャマウリ

ナショナリズムそのものみたいな映画だったが、あまりにも高度に達成されていたので驚いた。ラージャマウリは、アクションについて『バーフバリ』で圧倒的な達成をしたので、ダンスシーンについて高度な工夫がなされていた。普通、30fps前後で撮影することはないのだが、スローモーション撮影で用いる50fpsからは少し下げつつ、手の動きなどの細かい動作がキビキビしてみえるという絶妙なフレームレートを見つけていて、それが映像の緩急を生みだしていた。ライティングが一流だったからこそ可能だったろうし、それはアクション撮影の過程で見出していったものなのだろう。ただ、どう考えても『バーフバリ』のほうが面白かったのは事実。

68

3:03 PM

しゃろう

2014年から活動していて、2022年に大ブレイクしたしゃろう。聞けばどこかで絶対に耳にしたことのある楽曲。会社員だそうで、本職ではないそうだが、かなり理知的な構成をしている。耳に残るフレーズもさながら、展開部分も聞かせどころをつくっていて、リフレーズ部分の繰り返しも盛り上げがある。参照先としてはゲーム音楽のとくに、エレクトロ系全般と思われる。Safuやinoiが好きと言っていたけど、それらに対してしゃろうは圧倒的に音の重ね方がうまい。こうしたゲーム音楽とか、ゼロ年代Akufenあたりのミクロハウス後半の世代といった音楽も背景にありそうだが、系統整理を追うだけで楽しそう。

67

星占い的思考

石井ゆかり

https://amzn.to/3iGLbVr

12月で5刷り。結局のところ、彼女は星座占いをしていない。限りなく詩人に近い、エッセイストであり、批評家である。この自己啓発ほど煽らず、しいたけ占いほど論理構成や修辞表現が破綻していないが、奇妙なメタファーを駆使して読み物を書き続ける謎の人。例えば、「[星占いは 筆者注]人間の脳みその「ごまかされやすさ」と同程度に、インチキである可能性が高い。「統計学」は歴としたサイエンスだが、少なくとも今のところは、星占いに科学的な裏付けはない」(kindleより)だとか、「象徴でできた世界に棲み、運命を生きることをやめられないからだ。そして文学は、象徴と運命の世界である。象徴と運命から離脱しようとする文学作品もあるだろうが、それすらも、重力と戦って大気圏に出ようとする程度には、重力をテーマとせざるを得ない。ゆえに、文学の世界観を「星占い語」で解釈し直すことは比較的容易だ。」(kindleより)だとか、かなり批評的である。

なお、この本ではないが、私が好きなのは『蟹座』の次の一節。「激しい怒りや深い悲しみにも時間薬は霊験灼かです」。私は「時間薬」の意味をほとんど理解できていないが、パンチラインなのは間違いない。

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【ゲスト】視聴者「diontum」さんが山下Topo洋平のビートに乗せてラップを制作!世界初!?南米リズムの日本語ラップの爆誕!?

山下Topo洋平のHappy New Moment

https://shirasu.io/t/topo/c/topo/p/20221009

最初に言っておくと、私と友人で作った曲がいいのではなくて、コンテンツの背景についてでランクが上ということ。その背景とは、シラスで初めて開設された音楽チャンネルで、初めて視聴者がミックスまで作曲し、2022年にゲンロンでも美学校でも取り上げられたhiphopだったということで、初めてづくし+批評の流れを踏まえたものとなっているからランクイン。なお、オチとしてはフォルクローレの曲ではない。リベンジとして本当にフォルクローレの曲を作成中。EP売るかも……(CD作ったことのないのでよくわからない)。

65

ベイビー・ブローカー

是枝裕和

https://gaga.ne.jp/babybroker/

あんまり話題にならなくてびびったけど、ペ・ドゥナっていい俳優だよね、と再確認する映画。是枝監督の中では正直一番これが好き。『万引き家族』やケン・ローチのような階級社会と貧困の閉塞感の先として、希望を描く作品。養子についての議論とか知っているとぜんぜんご都合主義とかには思えない最後の展開だった。カメラワークも撮影監督が韓国人で、いつもの是枝の画面ではないような洒落たカットが随所にあって観ていて新鮮だった。しかし、ぜんぜん評判が聞こえてこなくてびっくり。ちなみに、日本よりはるかに人口の少ない韓国では100万人動員していて、日本は1万人とのことで、韓国語の映画であるということ以上の何かを深く考えさせられた。

64

世界はおもちゃ箱

米原将磨

http://www.seidosha.co.jp/book/index.php?id=3741

私が書きました。今井哲也の読み方としてはいまいちかもしれない。ただし、ガジェット文化論の展開をした批評はたぶんこれ以外に存在していない。ガジェット、もっと言ってしまうと、物語の中で小道具(巨大なロボットも小道具)としてでてくる「おもちゃ」というのは存在そのものが批評的で、美学の中でもゲームについて論じることがここ十年で世界的にも当たり前になった。とはいえ、おもちゃの「遊ぶという目的のために作成されているが、日常的な実践のために何一つとして役に立たないものであり、かつフィクションの想像力を構築するもの」という存在について語る言葉まだまだ足りない。というのも、おもちゃの遊戯性についてみんな話すことができるのだが、おもちゃの物質的な形態の文化的な説明というのがまだまだないから。米原個人としては、ほぼプラモデルの制作経験はないが、その造形や語る言説自体は非常に興味深く、美術批評の文脈で把握しようとしている。その緒として書いた批評がこれ。

63

余計なことで忙しい

藤原麻里菜

https://marinafujiwara.persona.co/

『文學界』で2022年1月号から連載されている。藤原麻里菜は無駄づくりで有名。役に立たないユーモアのある製品をつくり続けている。現代のロクス・ソルスみたいな感じ。ある意味でおもちゃをつくりつづけているというわけで、決してモダンアートというわけでもないのだが、「機能の自立化とそのズレのユーモア」みたいなことをできていて、それがよいのだが、文章もかなりうまい。私のお気に入りの回は、友達と寿司パーティーすることになって寿司の握り方を料理教室で覚えるのだが、友人に妊婦がおり、自分のお手製の寿司は遠慮して食べなかったのだが、後日、インスタか何かで高級寿司店に行っていたがわかり、ちょっとイラっとしたという話。切ない。

62

マンガを鉄道で読む人たち―モダニズムのパロディとしてのキッチュ

三輪健太郎

https://amzn.to/3XA8jUs

さすが、三輪健太郎で、「キッチュ」について話をするのかと思いきや、「マンガを鉄道で読むようになった時代」の証言を紹介し、それが道徳などの観点から批判されていたことから説明する。言うまでもなくこれは、稲田豊史『映画を早送りで観る人たち~ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形~ 』を中心に議論が起きたファスト映画論争を意識しているし、引用もされている。稲田も認めている通り、大衆文化とは、技術の進展で速さがもたらされるたび(距離がとりさられるたび)、モダニズムが徹底される過程のことである。いいかえれば、「もっと手軽に、もっと早く、もっと楽に!」となる。ここまではありがちなモダニズムの復習だが、三輪のこの批評が優れているのは、しかしどれだけ早く効率よく消費しようと、人生は有限であるため、それが空虚にならざるをえないため、本質的には娯楽消費がドラッグにすぎないとまで内省することのである。ここまで論じつくしたうえでなお、内省して初めて、批評を始めることができるのだろう。

61

ダウンファブリック イージーパンツ

TAKEO KIKUCHI

あったかい。TAKEO KIKUCHIは全然持ってなかったが、服を漁っていたら見つけた。ダウンファブリックは、比較的暖かく、秋になればこれだけでもの足元が寒くはない。あと、イージーパンツモデルのいいところは、幅広で形がすとんと落ちているので、脚の癖をある程度隠せること。

60

Bad Habits

Steve Lacy

70年代ポップス・ファンク・ソウルを参照する今どきのミュージシャンだが、“Bad Habits”にはびっくり。“I bite my tongue, it’s a bad habit / Kinda mad that I didn’t take a stab at it”という歌詞に見られる情動の不安定さ(“bite one’s tongue”は、「だまる」ていどの意味だが、これはそのまま「舌を噛む」という意味でとってもよいだろう)という最近の歌詞のスタイルをとりいれて、サビ始まり曲にしてTikTokに対応しつつ、全体として高度に曲を構成している。Lizzoはディスコ的な方向に進んでいるいっぽうで、Lacyのような方法が今後どうなるのか気になる。

59

ALPHA PLACE

Kuncks

UK drillシーンはふだんあまり追っていないが、たまたま知って、Knucksは重要だと感じた。drillは2010年代シカゴのシーン(Lil Bibbyとか)だが、それがUKに輸入された。簡単にいうと、細かいハイハット・スネアに、RT-808のベース音をメインのリズムにかぶせて裏拍みたいなことをすること。なお、trapはスライドさせない。drillとtrapは聞くと癖が全然違うのでだいたいわかる。2010年代末のUKヒップホップシーンは「ストリート」や「ギャング」系のヒップホップといえば、drillになっていった。見分けたい時は警察車両のサイレンの音が多めに入っているかどうかなどに気をつけて聞くと良い。そこに、近年はchillの流れも合流してその中でも、今年のUKヒップホッブアワード2022でKnucksはdrill自体を再解釈するような楽曲編成になっていたのでよかった。まず、チルといってもlo-fi的な方法ではなく、トランペットでジャズな旋律をいれるといったもの。歌詞の内容も陰鬱な感じのものが多く、好み。

58

ALL GODS BLESS ME

RYEKYDADDYDAIRTY

出所するとみんな早口になる。出所して改名したRYKEYだが、NARISKがビートメイクし、BACKLOGICがMIXしたこの曲はNARISKの中でもかなりメロウな曲となっている。NARISKはMFS、ジャパニーズマゲニーズ、¥ellow Bucksにも曲提供し、そこではTR-808のdrillに似たスネアとキックを入れ込むとマッチするが、キックがないとまったくラップの曲に聞こえなくなる点がすごい。実は、しゃろうとも近いスタイルの曲も多い。しかし、“ALL GODS BLESS ME”では、ほとんどdrill感はなく、かといってSACやGreen Assassin Dollorのようなサンプリング感もなく、かなり独特のサウンドになっている。また、RYEKYDADDYDAIRTYの歌詞も深い内省と矛盾が垣間見えるかなり文学的な内容になっていて、思わず聞き入ってしまう。

57

米原将磨×江永泉 司会=ジョージ「ゼロ年代批評崩壊期とは何だったのか。地殻変動以後の時代に三人が回顧する10年代批評シーンと20年代への展望」

TERECO

https://www.youtube.com/watch?v=LMz6srf5VkI&t=8122s

江永さん、ジョージさん、その節はお世話になりました。2010年代の同人誌批評シーンについて総括した。話題は多岐に及んだが、基本的にはインフラの瓦解、批評同人誌参加者の考え方の変化といった外部要因にもとめ、思想的な観点からの説明があまりできなかったが、そもそもそれほど思想的なものがなかったから瓦解したのでは、ということも言えると思うので、だとするとまぁこんなものか、という感じ。なか、編集は大変すぎて基本無理なので、基本方針としては生放送のチャンネルとして運用していく予定。

56

荒俣宏×鹿島茂×東浩紀「博物学の知とコレクションの魅惑——古書、物語、そして『帝都』」

ゲンロン完全中継チャンネル

https://shirasu.io/t/genron/c/genron/p/20221120

現地で観覧したせいか、荒俣宏の話法のようなものを生で聞けて大変よかった。また、全共闘世代の中にあった文化オタクたちのリアルな青春模様の話が聞けたこともさながら、とくに印象的だったのは、荒俣宏が作成したという自主制作アニメだった。1960年代(たぶん)に作成されたアニメーションの上映があり、間近で食い入るように観ていたのだが、50-60年代の日米アニメーションのいろいろな要素を吸収しつつ、軍艦めいた船舶が登場することだった。すなわち、これはロボットアニメの最初の黄金時代でのアニメーションとミリタリズムの結びつきがアマチュアたちの表現の中に自然におりこまれているということであり、この日には一度も触れられなかった「雑誌と軍事」というテーマが潜在していただろうということなのだ。

55

芸術と進歩 進歩理念とその美術への影響

E. H. ゴンブリッチ

https://mobile.twitter.com/Dromedarius3/status/1597531899337248768

1978年のKUNST UND FORTSCHRITT Wirkung und Wandlung einer Idee の全訳。解説で簡単なゴンブリッチの履歴とゴンブリッチの著作目録が付録している。訳はかなりこなれており、著作自体もレイトワークということもあり、まとめ方が図式的で初学者向けとなっている。第一章では、2022年10月に岩波文庫で『ギリシア芸術模倣論』の訳がでたヴィンケルマンのギリシャ美術=反動という図式を19世紀初頭ドイツロマン派のひとつ「ナザレ派」を重ねて論じるところから始まる。そこからたった1世紀で急激にモダニズムまで行きついてしまったのは、進化論的歴史主義が普及することで、表現の形式化と相対化が進んでいくことで、時代を統一的に把握するような芸術表現がなくなってしまったのだ、というみたて。いまでもこの議論を批判的に継承することで、多くの示唆が得られるだろう。訳者の労作に感謝。

54

平家物語

山田尚子&吉田玲子&牛尾憲輔

https://heike-anime.asmik-ace.co.jp

高野文子がキャラクター原案。悠木碧の演技が光る。今回一番気になったのは、びわが琵琶を弾きながら吟ずるとき、抽象的な空間の中に超人的な人物が鎮座している画面構成をしていたこと。山田尚子は2010年代の後半はキッチュなキャラクターと極端なリアリズム(レンズ効果を入れることによるカメラの向こうに人間がいるように表現すること)にこだわっていたが、極端な露光を感じさせる抽象空間演出はここ5、6年にはない演出で、驚きを与えてくれた。山田尚子&吉田玲子&牛尾憲輔で撮影される新作も楽しみ。

53

ハウス・オブ・ザ・ドラゴン

HBO

https://www.video.unext.jp/title_k/house_of_the_dragon

『ゲームオブスローンズ』シリーズの新作。大人気シリーズのリブートでもなく、続き物でもない、「この一族の衰退のきっかけになった事件」という歴史をさかのぼるタイプのもの。

といっても、ぶっちゃけ初見でも見れるし、『ゲームオブスローンズ』のシーズン1のときにうれるかどうかわからない中の低予算撮影だったのを考えると、『ハウスオブドラゴン』のハイクオリティな映像のほうが楽しいかも。また、時系列としてもこちらからみると、なぜターガリエン家が没落したのかよくわかる。

本作は相変わらず「正しくあろうとするがすぐに欲望に飲み込まれる」を繰り返し、どうしようもないくらい人間関係をこじらせて救いようがないところが見どころ。また、女性監督が出産シーンや結婚シーンを撮影していてカメラワークの設計や演出意図の迫力がすごいのでそのシーンだけでYoutubeみるといいと思う。

現実の中世では200年で美術様様式がだいぶかわるものなので、「200年後と世界がかわらなさすぎでは」と思った点は多々あったが、200年後のキングズランディングにあった大きな建物がない、など分かりやすく時間の経過を伝えるなど丁寧な部分は肯定的にみていきたい。

52

トップガン マーヴェリック

ジョセフ・コシンスキー

https://topgunmovie.jp/theater/

“But not today.” 還暦のおじいちゃんが海軍精鋭部隊の誰よりも強いイケオジ。しかも昔の親友の息子とアツい関係。あれ……、ハードボイルド系イケオジBL?、と思わずにはいられない本作。エイジズムとルッキズムのオンパレードをなんとか女性パイロットの登場でうまく糊塗するなどして、と思いきやかつて数物理得意で博士号までとって順調なキャリアを歩んでた女性が御年でバーテンダーって、いったいどの時代の作品なんだよ、と全方位に爆撃をしかけるものの、映像が気持ちよすぎてすべてが吹き飛ぶ。『トップガン』初代より圧倒的に面白いつくり。きちんとトレンドをおさえ、どう考えても、「これって……エースコンバットだよね」というツッコミもなんのその、スーパーゲームプレイヤーの操作するコブラ機動に舌鼓をうち、カメラ自体もすべて実際に撮影しているため、いままで一度も観たことがないようなアクションシーンになっている。ただリアルで撮影することが正しいのではなく、物理的な制約を解決していくプロセスもまた映像をつくりあげる醍醐味であることを教えてくれる一作。

51

キラー・サリー ボディー・ビルダー殺人の深層

Nanette Burstein

https://www.netflix.com/jp/title/81331076

フィットネスブームによって、ルッキズムの問題が取り上げられ、肥満の文化史などは論じられるようになったが、機械の中で単純な反復作業を行う奇妙な行動について文化史的な語りが定着しているとは到底言えない。この作品は来たるべきボディビルディング表象論において、一つの影をなす作品になるだろう。2020年にHillaryでその名を広く知られるようになったBursteinの次は、Sally McNeilだった。誰もがその人物のことを覚えていなったが、物語を追っていくと、90年代における女性ボディビルディングに対するヘイト、ポルノとして消費される女性ボディビルディングのダークサイド、そしてボディビルディング夫婦の生活の破綻と自己防衛のための殺人の顛末が丁寧に語られる。Bursteinがいまこのドキュメンタリーを制作したこと目線の鋭さに舌を巻くばかりだった。

50

【驚愕】人間が宇宙で生理になるとどうなるのか?

VAIENCE バイエンス

科学知識がどのように民間に広まるか、という点の研究において、20世紀にかけて最も変わったのは、性について正確な知識だろう。女性が自分を守るための客観的な知識が広まっていったなかで、VAIENCEは幅広いアプローチの可能性を示してくれた。時折、ビキニを着た女性たちが海岸をかけるほとんど無意味な映像を背景に視聴者を煽る極めて退屈な回があるが、宇宙開発と女性の宇宙進出について手際よくまとめたこの動画は非常に勉強になった。

49

Drop out

Hulu

https://www.disneyplus.com/ja-jp/series/the-dropout/5C0gjGwyRTeZ

BAD BLOODなどに基づいて作られたセラノス社を創立し、現在係争中でこのままいくと懲役11年がつくことになるElisabeth Holmesを主人公としてドラマ。エミー賞を特定の枠の主演女優賞で受賞したが、当然のAmanda Seyfriedの演技なのである意味で当然か。とはいえ、その真価は、いっけん技術と自由彩られたゼロ年代のシリコンバレーが縁故主義と隠された女性差別構造に彩られていたということか。詳細は下記で話しているので、興味のある方はぜひ。

https://shirasu.io/t/namaudon/c/tsuchiya/p/20221018173728

48

分析哲学とニーチェ

ブライアン・ライター『ニーチェの道徳哲学と自然主義』(https://amzn.to/3ZFvn64)が翻訳され、『フィルカル』Vol.7 no.2(https://amzn.to/3H9IOnn)でも特集が組まれた。ついにニーチェと分析哲学が日本でもプチブームに。ただし、シンギュラリティ信仰とか加速主義に密輸入されそうなので、個人的には警戒心がすごい。なお、ニーチェの概念で一番の好きなのは、「大いなる正午」。私も人生で「大いなる正午」としか言えない時期が一度だけあったし、うまい比喩だなと思った。ちなみに、現代的にいうと、「無限に中間的なもの」(クレジオ)か。

47

gokigen

chelmico

「落ち着いたらビキニ身につけてワイキキビーチにでも生きたいけど/どんなとこかはよく知らない」のパンチラインを残した「三億円」は高橋諒が作曲。ふだんはJPOPやアニメに曲を提供しているが、DJもしている。そうした人材を採用したためか、『gokigen』は全体に渡って、ポッブでもヒップホップっぽくもないが、MamikoとRachelの丁寧で気だるいラップが独自の位置を確立している。多くのラップソングがあったなかで、こうした曲のアプローチは非常に興味深く、ヒップホップを広げるきっかけになるだろう。

46

占領期ラジオ放送と「マイクの開放」 支配を生む声、人間を生む肉声

太田奈名子

https://amzn.to/3w5kv3J

私の学科の先輩の本。先輩の本だが、本当に面白い。占領期下ラジオ放送の中でどのようにGHQが介入し、『真相はこうだ』→『質問箱』→『街頭録音』になっていった過程を丁寧に追う。占領期ラジオ放送のGHQプロパガンダについてこれだけ実証的に追った本はないだろうし、とくに批判的談話研究で丁寧にラジオの台本を分析するところは必見。また、GHQの息がかかっているなかで偶然とらえられた「パンパン」の検閲された肉声が現在からみたとき、統制しきれなかった被差別者たちの訴えと読み解くのは見事。

45

山水画と風景画のあいだ―真景図の近代

下関市立美術館

https://cul-cha.jp/events/event/3636

たまたま下関に行く機会があり、常設展示を見ようかと思って入って偶然出会った展覧会だった面食らった。江戸時代の文人画家たちは、山水画を写実的に描くようになる。それが真景図であり、明治以降に西洋の風景画を導入するうえで非常に重要なきっかけとなった。その真景図から風景画を化政文化から明治時代まで示していくという野心的な試みはここ近年でみた日本美術展の中でも最も心を引いたものだった。化政文化でいえは、頼山陽の隣に田能村竹田の展示がある構成など、「わかってる!」と思わせるものばかりだった。

44

特集「短歌ブーム」

短歌研究社

https://tankakenkyu.shop-pro.jp/?pid=169373083

ネットの話しかしていないのがとにかく印象的だった。つまり、2010年代を通じてSNSが支配的になっていくことと短歌が流行していくことが一致しているということに驚いた。同人誌もSNSを印刷したとしかいえないとすら思った。ただ気になったのは、内容や単語についての変化についてほぼ誰も関心がないようだった点。短歌の分析をもっとちゃんと読みたいかも。瀬戸夏子の今後の評論活動に期待!

43

Everything She ain’t

Hailey Whitter

今年のカントリーは酒ソングは不調だった。去年のWishful Drinking / Ingrid Andress with Sam Hunt が良すぎたためか。ただし、今年はこの曲のインパクトがすごかった。

The whiskey in your soda

the lime to your Corona

Shotgun of your Tacoma

the Audrey to your Hank

She’s got a little style and a Hollywood smile

But believe me honey good as money in the bank

I’m everything she is and everything she ain’t

あなたのハイボールのウィスキー

あなたのコロナビールのライム

あなたのタコマ(トヨタの車)に積んだショットガン

ハンクにとってのオードリー

あの娘はちょっとおしゃれでハリウッド女優みたいに笑うけど

銀行に預けてるお金みたいに私を信じてほしい

彼女のすべてが私だし、彼女にないすべてが私

銃=男性とたとえられがちだが、ここでは歌手=私=女性が銃。車>銃のアイオワ感がすごい。あと、「believe me honey good as money in the bank」で価値があり安定したものの象徴として「銀行のお金」をとりあげ、それが自分であるという生活感。これがyoutubeで270万回再生されている現実について深く考えるべき。

42

James Webbs宇宙望遠鏡の観測写真

NASA

https://webb.nasa.gov/

人文系の人にあまり注目されてないので驚くのだが、これからはハッブル望遠鏡の撮影した画像はすべてのWebbsに置き換わっていくので、10年後の宇宙の表象がまるで変わったものになるという点は極めて重要である。それに加えて、すでに確立した系外惑星の探索を宇宙空間にできるということもあり、すでにこれまで確認されていなかった系外惑星を発見し性能を十分に示している。既存の技術の発展と表象秩序の変化の境目となっている。

41

アンディ・ウォーホール ダイアリーズ

Andrew Rossi

https://www.netflix.com/title/81026142

良作ドキュメンタリーを作り続けるRossiが取り組んだ、アンディ・ウォホールの伝記。ウォホールの伝記映画は数多くあるが、これが一番いい。最初の一話の時点でThe Philosophy of Andy Warhol A to Z を彷彿させるとされる電話をし続けるアンディのイメージを出したのち、銃撃されるまでを描く。その後、ジェドとジョンが恋人だった時代のウォホールのパブリシティとの関係をなぞりつつ、バスキアとの共同制作とAIDSの流行がモダンアートに大きな影を落とす時代に突入し、そこでウォホールが死んでいくところを描く。見事な構成とウォホールの肉声や作品のオーバーラップなどドキュメンタリーとしても非常にリッチな体験ができる。

40

全文現代語訳 維摩経・勝鬘経

大角修訳・解説

https://amzn.to/3CPBDOE

維摩経・勝鬘経はいつも読みたいと思っていても手軽読めるものがないので非常に困っていたところ、まさかの角川ソフィアから翻訳がでてくれた。この本を読むまで浅学だったのでまったく知らなかったのだが、柿本人麻呂が人の一生を水の泡にたとえ、赤染衛門がこの世を夢に重ねたような「あはれ」は「維摩経」にでてくる一節に由来しているという指摘だった。つまり、万葉時代から平安時代まで維摩経の影響力は絶大であり、しかも「もののあはれ」といった日本的にも思われている概念は仏教という外来の思想によって生み出されたものなのだ。その他にも何度も読み返したくなるコラム、なによりも朗読を前提とした力強い文章が読書経験を豊かにする。

39

Midnights

Taylor Swift

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Evermoreから二年ぶりのアルバム。注目ポイントとしては、Lana Del Reyがフューチャリングした“Snow On The Beach”か。Lana Del Rayのスタイルは、ウィスパーボイスと、“Chemtrails over the country club”でよくに示されているような、複数の歌い方によって微妙に統一感のないコーラスを作り、ギターのメロディのインとアウトを曖昧にしたようなミックスをしていて、掴みどころのない不穏な雰囲気だ。もちろん、ポップスのルールに従って、メロディラインを明確に区別し、サビの盛り上げを重視するTaylor Swiftとは矛盾するステイルなのだが、自分のコアとなる特徴は残しつつ、不穏さを出すためのコーラスとしてDel Reyを採用する理知的な構成には舌を巻く。

“Vigilante Shit”は、Reputationのときのヒップホップスタイルをかなり洗練させている。10枚目にしてまだまだ新しい試みを続けているTaylor Swiftには学ぶところが大変多い。

38

オートエスノグラフィー 質的研究を再考し、表現するための実践ガイド

トニー・E・アダムス、ステイシー・ホルマン・ジョーンズ、キャロリン・エリス/松澤和正・佐藤美保訳

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最新、女性が性風俗を利用する、ストリップ劇場をレポートするといった現象がみられるが、私はこれをエスノグラフィカルな他文化への観察参与というよりかは、自分語りの変奏、つまり、ある種のオートエスノグラフィーだと見ている。オートエスノグラフィーは90年代から明確になっていったが、自分語りに比べれば客観性があり、参与観察にくらべて当事者性が高い、そして、聴者が自分の物語に参加することを求める。つまり、必ずしも自分についての語りだけではなく、当事者の語りをどのように客観性に還元していくかの方法論でもある。この本は上記についてかなり手際よくまとめていて、物語作成者に広く応用できる可能性がある。

37

BADモード

宇多田ヒカル

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宇多田ヒカルの到達点には瞠目するばかりだ。Drakeの“Juice”を参照しつつ作成した“One Last Kiss”ふまえ、USのメジャーヒップホップを吸収しながら日本語でどのように表現するかを探求する姿勢はJ-POPに示唆を与えつづける。ちなみに、“BADモード”ふくめ、ダンスミュージックっぽいけど何か違う感じのする曲づくりにはFloating Points(Samuel Shepard)の尽力が大きいそうだ。論より証拠、レビューより視聴、いますぐ聞くべき。

36

ゼウスの覇権——反逆のギリシア神話

安村典子

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恐るべきギリシャ神話解釈本がでてしまった。安村の精緻な読解と考古学新資料によって覆されていくギリシャ神話のイメージは、衝撃的とすら言える。しかも、何よりも素晴らしいのは、明確なテーマに向かって粘り強く論証を重ねていき、気がつくと次々に謎が解けているミステリーような快感すら得られる。ちなみに、私は犯人を芸術家にたとえ、探偵を批評家にたとえることがあるが、まったく逆だと思う。犯人とは単に判断がうまくできない人である。だから犯罪というさして合理的でもない方法によって解決しようと決断してしまう。一方で、探偵はその不合理に対して、この世界における必然性を与える。常に、探偵だけが芸術家であり、安村の読解もまた、芸術の域に達している。

35

陶淵明全詩文集

林田愼之助・訳注

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1932年生まれの研究者によるレイトワーク。90歳の仕事とは思えない丁寧な仕事。陶淵明といえば限界酒飲み詩人で、私もそれで愛好していたが、賦の形式でラブソングを書き、乞食を歌い、政治批判もしていたことを解説で読み、イメージが変わった。とはいえ、「擬挽歌詩」其二はやはり白眉。「在昔無酒飲/今但湛空觴」(昔は飲みたい酒が手に入らず、死んだ今は手に取る杯に溢れている)。死ぬことによってお供え物の酒が手に入るというユーモア。研究書としての水準は不明ではあるものの、訳と解説の全体を踏まえると非常に素晴らしい一冊だった。

34

diontumがカルチャーお白洲のおたより回に投稿してた手紙

米原将磨

https://diontum.com/「カルチャーお白洲」お手紙回2022年8月/

ゼロアカを2010年代にかなり批判的にまとめた連載。なぜか、ゼロ年代批評をまとめたものとして読まれることがあるのだが、出す固有名のほとんどが東浩紀読者を想定して作成されたようになっているので、ゼロ年代批評全体ではなく、ゼロアカ周辺を描いたもの。2000年代の批評は様々に秩序編成され、2010年代に様々な形で展開していったが、それについて書くのは私の仕事ではないだろう。なお、連載は編集して3月から発売する予定。電子決済オンリーで完全に手売りにする計画。

33

Elden Ring

Dir. 宮崎英高、谷村唯/シナリオ 宮崎英高、ジョージ・R・R・マーティン

https://www.eldenring.jp/

まだエルデン・リングの指輪をめぐる争いの席についてすらいないが、マップ内移動を自由にできつつ、ちょっとした細かいところにも意味があるようなシナリオになっていることを感じさせていて、純粋にすごいと思った。とくに、最初の時点でとくに何も指示されないので何をすればいいのかわからないなか、ほどほどに弱い敵を倒してチュートリアルをしつつ、気がつくと物語が進んでいく方向になっているのもゲームデザインに驚かされるばかりだった。J. R. R. Mのシナリオということもあり、分かる人にはどっぷりはまれるが断続的にしかプレイしない人にはほぼ意味不明というか覚えられない物語世界観もいい。でつくされたオープンワールドものをここまで面白くするとは、フロムゲーム史がここでターニングポイントを迎えたとも言えよう。あ、AC6も来ましたが、どうなることやら。

32

アフリカ文学講義 植民地文学から世界‐文学へ

アラン・マバンク

https://amzn.to/3HaTTok

やっとこういうアフリカ文学紹介の本がでてくれた!という本。マバンクのアカデミーフランセーズ講義録の邦訳。この本で重要なのは、広くアフリカ系移民全体の文化に目を配ることだ。ローカルにはそれぞれ重要な文化と歴史があるが、「アフリカ文学」の観点から世界をつないでいく。そして、内戦とルワンダ虐殺がもたらした災禍を文学はどのように向き合ったかを手早く、しかし、勘所を抑えて読ませる。この本は日本語で読める限りもっとよくまとまったアフリカ文学紹介の本であり、アフリカ文学が私たちとまったく無関係ではないことを教えてくれる稀有な本であることを教えてくれるだろう。

31

ピアリング戦記

小川晃通

https://amzn.to/3w69xv5

こういう本を待っていた。インターネットの基礎技術を学んだ誰もが思う疑問「そもそもどうやってASとかBGPってハードの方で動いているの、あと、IXって結局なに」といったところについてこれ以上ないくらい明確な回答を与えつつ、CDN事業者の台頭にいたるまでの日本のインターネット技術史を余す所なく証した本。すごいとしか言いようがない。ちなみに、IX初期の開発に関わっていた加藤朗インタビューは、岩波書店一ツ橋ビルに最初のIXが設置された逸話は、神保町という町の歴史をふまえたときに非常に示唆的である。人文系の町でこそ最初にインターネット技術の拠点が設置されたのだ。

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アンチピリング タートルネック ニット

TAKEO KIKUCHI

https://store.world.co.jp/brand/takeo-kikuchi/item/BR07022F0024

これはかなりあたりだった。タートルネックがゴムできており、首にぴったりとくる。ポリ成分が多めなので、かゆい人にはかゆいかも。その場合は、インナーがタートルネックになっているタイプのものを着て、その上から着ると良い。基本的には、肩幅で絞られて腰辺りがストンと落ちるので、肩の形に関係なく、それぞれにシルエットがシャープになるため、誰にでも似合いそう。

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新映画論

渡邉大輔

https://amzn.to/3XhWQsY

動画時代における映画体験について総花的に論じつつ、文化史を描こうとした良作。「第一章で論じた非擬人的カメラであれば撮影者とカメラが、第二章で論じたフェイクドキュメンタリーであればリアルとフェイクが、第三章で論じた「楽しさ」の映像論でいえばオリジナルとリメイクが、第四章・五章で論じたポストヒューマンの映像であればヒトとモノが、第六章で論じたポストシネフィリーであれば映画史的記憶とデジタルな忘却が、第七章で論じた現代アニメーションであれば実写と絵が、第八章で論じたインターフェイス的平面であれば視覚と触覚が、それぞれ相互に影響を与え、新たな映像文化を──ポストシネマを生み出していた」(epub p. 395)というまとめにつきるが、ここで重要なのは「劇や映画を作成していく過程描く」といったモキュメンタリー的なフィルムの流行をかなりうまく説明している。現代における動画文化を考えるうえで必読。

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鴻野わか菜×本田晃子×上田洋子「社会主義住宅『コムナルカ』とはなんだったのか――ソ連人が描いた共同生活の夢」

https://shirasu.io/t/genron/c/genron/p/20220106

コムナルカ、やばすぎ。まだ現代的な施工技術が発達していなかったため、都市への人口流入に対して住宅建築が全く追いつかず、すでに建てられていた居住用の建物を分割して住むしかなく、そのため4LDKになんの血縁もない家族が住むことになり、トイレも毎朝渋滞するという驚異的な居住空間が登場した。コムナルカが興味深いのは、ソ連ノスタルジーを喚起させるミームとなった側面があるという話も実に興味深かった。言われてみると、大昔に鑑賞した《一部屋半──あるいは祖国への感傷旅行 Полторы комнаты или Сентиментальное путешествие на родину》(2008)にも、出てきたあれはそういうことだったのか、と合点がいった。

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百鬼夜行

ホーツーニェン

https://amzn.to/3HbcwIK

豊田市美術館で開催されたインスタレーション展示。陸軍中野学校、山下奉文、ビルマ竪琴、日本の植民地主義をサブカルチャー要素と組み合わせつつ、日本の昭和全体の歴史を総括する素晴らしい展示だった。これほど表現性高く、かつ、直接的に理解できるインスタレーションをこれまで一度も観たことがない。第二会場に相当する喜楽亭での「旅館のアポリア」の再現も、前回よりバージョンアップしていた。音圧もさることながら、本展示全体を貫く「のっぺらぼう」をすべての映像で展開し、小津映画のほとんど交換可能な家族の物語と戦争映像をつなげることで戦中と戦後を見事につなぎ、かつ、「誰でもない不気味なもの、すなわち、無」から、西谷修を導入する「旅館アポリア」自体の再解釈。インスタレーションは再現できないものなので、次回も万難を排して行きたい。

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姫とホモソーシャル: 半信半疑のフェミニズム映画批評

鷲谷花

https://amzn.to/3XDFBSu

ここ最近読んだ映画批評本の中で読み物としての完成度が最も高いものだった。技術的な説明は極めて禁欲的にしつつも画面の着眼点には確かに映画についての様々な造形の深さを感じさせる。また、2010年後半・戦後・ホラーについてフェミニズムの観点からの語りを極めて説得力のあるかたちで援用していた。何よりも、フェミニズムっぽくなさ、というイメージがなぜ形作られ、それのわだかまりについて複雑な背景があることを丁寧にしかしまわりくどくなく整理する手際には瞠目した。ちなみに、私としては、『バーフバリ』についてこれほど見事に説明し、かつ、周囲の反応をこれほど納得させてくれた論評は存在しない。

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世界は五反田から始まった

星野博美

https://amzn.to/3CUIiHp

第49回大佛次郎賞受賞。自分の中で戦争を描いた伝記的・自伝的なエッセイとしては、向田邦子が最も評価の高いものだったが、本作は自分史上最高に狭った初めてのものだった。自分の祖父の日記を読み解いていくスリリングな展開によって、五反田を中心に日本が戦争に向かっていく中で人々はどのように生活を送り、市民運動はどのように展開し、戦争は何をもたらしたのかを日記を読み解くことで次第に明らかになってく構成も抜群の読み応えを与えてくれる。オチも完璧だった。復興を思わせる記述から著者が戦争の終わりわ感じているくだりから、チラシを裏返すと空襲が続いたことがわかるどんでん返しを残し、最後まで読者を飽きさせなかった。一気呵成に読むことのできる本だった。

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トランスジェンダーやフェミニズムをめぐる書籍、論者の台頭

2022年の紀伊国屋じんぶん大賞(https://store.kinokuniya.co.jp/event/jinbun2023/)の上位は次の通りだった。

第1位 高島鈴『布団の中から蜂起せよ―アナ-カ・フェミニズムのための断章』(https://amzn.to/3CX8NvR)

第2位 三木那由他『言葉の展望台』(https://amzn.to/3XFT1NQ)

第3位 千葉雅也『現代思想入門』(https://amzn.to/3WlkAv5)

第4位 ショーン・フェイ『トランスジェンダー問題―議論は正義のために』(https://amzn.to/3QPXfQR)

また、第20位には『物語とトラウマ―クィア・フェミニズム批評の可能性』(https://amzn.to/3IT8FS5)が入っている。Peatixで投票する奇妙な投票なので、熱心に購買する消費者の声が反映されていることもあるし、自らがゲイやトランスであることを表明している論者が上位を占めているのは、業界の消費者構造がいよいよ決定的に変わったということだろう。なお、紀伊国屋じんぶん大賞は指標にはなるが、これが絶対というわけではない。それを踏まえると、昨年のケアのテーマの流行に加えて、トランスジェンダーやフェミニズムの本や論者の存在感がここ10年で最も目立った年だったといえる。

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Queendom

Awich

ラップがうますぎて嫌になる。紹介は動画だが、アルバム自体が非常に高い完成度。“Link Up”は見事。CHICO CARLITOと同様に沖縄リズムを使いこなすがどちらかといえば、90-00のUSラップを日本語で再現している理知的なスタイルのほうが遥かに興味深い。沖縄生まれで、苗字も沖縄に多い浦崎である彼女は、沖縄のことが嫌いだが最も近い異国文化だったアメリカにあこがれて、留学、インディアナポリス大学でディプロマを取得。夫にも出会い、娘が生まれ、英語ができることでいくらでも仕事があるということで日本に移住しようとしていた矢先に夫がギャングの抗争に巻き込まれて死亡。こうした複雑な背景をもつawichが沖縄という地に生まれたことについてこのアルバムを聞くたび深く考えさせられる。

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UTコレクション – 永井博

https://www.uniqlo.com/jp/ja/spl/ut-graphic-tees/hiroshi-nagai/men

永井博を着る?着るしかないでしょ!永井博といえば、1970年代後半から1980年代にかけて日本で流行したシティポッブ御用達のアートだが、本人のインタビューなどよんでいると、実はスーパーリアリズムとポップアートに由来しているそう。白黒写真を参考に色彩は自分の想像で埋めていくことで生まれた色調と、リアリスティックに見えつつ古賀春江のようなダリやキリコの影響を受けたようなくっきりとした輪郭線とオブジェの配置が、独特の世界観を作っている。それをTシャツで着るモダニズムで遊びたい。

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39歳

JTBC、脚本ユ・ジャンナ、監督ユ・ヒョンヘ

https://www.netflix.com/jp/title/81568400

2020年放送の中国ドラマ『30女の思うこと 〜上海女子物語〜』のリメイク。注釈はいらない名俳優ソン・イェジン、『賢い医師生活』のチョン・ミド、『刑務所のルールブック-賢い監房生活-』などに出演する名脇役キム・ジヒョンが大の仲良し三人組が、40歳を目前にして一人がもう1年しか生きることができないとわかり、その死までの交流を丁寧に描く作品。毎回なんか泣いた。人は死ぬことがわかっていても、人間関係の問題が解決するわけではなく、少しずつ周囲と死んでいく自分を変えていくプロセス、そして、「誰もが望んでいた一番いい状態」になった瞬間に死んでいく悲劇を貫徹する脚本の丁寧なつくりは何度も見返したいのだが、見返すたびに涙が流れるので勉強にならない。ちなみに、みんな酒ばっか飲んでるのが良い。

20

FIRST SLAM DANK

井上雄彦

https://slamdunk-movie.jp/

3Dアニメの表現史に確実に残ったアニメーション。モーションキャプチャーによって試合に参加する全員が常に動いている状態を表現しつつ、試合の展開のひとつひとつに回想を挿入することで、緩急のつけた演出も鑑賞者を飽きさせることはなかった。白眉だったのは、最後の数秒のシーンだけ、3Dではなく手書きの線と最小限色彩で表現されるシーン。これが最後におかれることで、3Dアニメーションができることと線画のアニメーションのできることをそれぞれ象徴的に示していた。正直、井上雄彦が監督をするので演出面ではほぼ期待していなかったがあそこまでできるのには本当に驚いた。

19

火星人にさよなら

鈴木雅雄

http://www.suiseisha.net/blog/?p=16740

James Webb宇宙望遠鏡が未来のイメージをつくりかえていくのであれば、こちらは過去に宇宙を夢見た人々の想像力のあり方を丁寧に読み解くことで、文学の正史では語ることのできない作家たちに一つの視座をもうけた本。フランス文学研究史上でもほぼ類を見ない本となっている。というのも、一般的に、フランス文学で天体をテーマにする場合、ドゥフォントネーとカミーユ・フラマリオンを中心的に取り上げるが、よりマイナーなドゥフォントネーのみが取り上げられ、後者のフラマリオンは時々ふれられるだけで、ほとんどでて来ない。そのかわり、後半は火星人の幽霊を降ろした霊媒師について語られる。この本が与えてくれる勇気は、一つの理論と一つの視座と一つの信念があれば、どれだけマイナーでもきちんと論じることができるのである。

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【ルームツアー】世界一斬新な「1億円マイホーム」を徹底紹介【注文住宅】

吉田製作所

人が家を一から建てることはとても難しい。とくに、川沿いに面した場所では、GLの設定に慎重さを期す必要がある。しかし、今回、不幸にも、GLは一般的な増水対策に合わせて注文住宅の特性を考えずに作られてしまった。こうして、車を搬入することを想定して建築されたスタジオがつくられてしまい、車を格納することを想定すると、30cmにも及ぶ段差と、公道からの乗り入れのためスロープもつけられない。こうして、ハウスメーカーとの幾度もの交渉がなされ、スタジオの一部解体費用を全額ハウスメーカー持ちにすることで決着となった。

まるでドラマを観ているかのような展開だったこの「自称一億円」注文住宅のルームツアーは1時間近くあるものの、その物語を背景があったため、いやまして魅力的なものとなった。「人生が商売道具」という古諺もあるが、ここまでものを見せてくれた吉田製作所は素晴らしかった。

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映像クリエイターのための完全独学マニュアル

リュドック (著) 坂本千春 (翻訳)

https://amzn.to/3koBHPg

この本は本当にやばい。映画を撮影したいと思っている人のすべてに基礎知識をあますところなく与えてくれる。映画教本ではだいたいカメラのレンズやISO感度であるとか、フレームレートとかで適当な説明になるだけだが、この本はそれらについても適切に説明しつつ、ライティング、マイク、カメラのアクセサリーの特徴、撮影のさいの注意点、代表的なカットをとるときのアドバイスなど、これ以上ないくらい丁寧に説明されている。しかも、実践を前提にしているので、たとえばカット割りの説明では、まずシナリオのカット割り表の作成からはじまり、代表的なカット割りを撮影する際のカメラに対する俳優の立ち位置まで、わかりやすく教えてくれる。映画がどのように成り立っているを知るためにもこの一冊が重要になるし、3Dゲーム作成でも参考になるところが多いだろう。

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スパイダーマン ノーウェイ・ホーム

Jon Watts

みんなに忘れられても責任をとるというヒーローのあり方を提示したのも大変よかった。ただし、これを提示するための道具が多すぎるし複雑すぎる。MCUの中ではMCUそれ自体を批評できるような凄まじい強度をもっているが、いわばこれは「ぶっちゃけ一回きり」の手法であり、奇跡みたいなもの。この解決で、Spider-Verseというコミックの筋を援用しつつ、『スパイダーマン』の映画をまとめあげたのは本当に素晴らしいことだけど、他の映画にどう応用するのかが気になる。ここまで個別の文脈に依存した作品は、多分物語や手法ではなくて、個別のシーンの引用とかがなされていて、同時代で見ている私たちがすぐに解釈できることが10年くらいでもう通じないものになっているかもしれない。個別には素晴らしいが、これに影響を受けた作品があったとして、どのように独自性をだすことができるか気になる。

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Ben Bernanke、Douglas Diamond、Philip Dybvigのノーベル経済学賞受賞

https://www.nobelprize.org/prizes/economic-sciences/2022/press-release/

今年のノーベル経済学賞は、いろいろ考えさせられた。経済と文化が深いかかわりをもつ以上、経済学の学問の流行はもっときちんと追ってきたいのだが、なかなか自分だけでは難しい。とはいえ、今回はクルーグマンのこの記事(https://econ101.jp/krugmans-winning-nobel-prize/)すべてがまとまっているので、まずはこのノーベル賞の深い意義を理解してほしい。これを読んだうえで、ダイアモンド=ディビッグ・モデルが2008年の金融危機に適用されたちに思いを馳せると、金融機関に対して批判的なコンテンツを相対化できるし(ウォールストリートが世界を支配しているという幻想など)、その中でFRBに入ったバーナンキ研究者として対したことがないかのよう見るべきではなく、むしろ、その後のユーロ危機やイギリスの債券市場の混戦など、今でも通じるモデルと対応策のヒントが詰まっている。そしてまた同時に、2010年代中頃までの表象を規定していた社会的背景を知るための重要なマイルストーンなのだ。

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ミュージカルの歴史 なぜ突然歌いだすのか

宮本直美

https://amzn.to/3CSOKic

日本でのミュージカル入門書としてひとまずの決定版がでたといえる。日本では、宝塚・東宝・劇団四季といったようにメジャーレーベルでのミュージカルという娯楽が広く受け入れられている一方で、「では、ミュージカルとは何か」という質問にうまく答えられる人は少ない。とくに、「歌と踊りだけで進めばいいのに、途中で普通の演劇をして、なぜ突然歌いだすの」という質問にどれだけの人が答えられるだろうか。その歴史背景から音楽と演劇が近代においてどういう娯楽として成立していったかというのを丁寧にまとめている。

なお、日本でカルチャーを語る人は、なぜか宝塚についてはよく語るが東宝のミュージカルについて語る人は少なく、もっというと韓国ミュージカルが日本のミュージカル劇団員によって小規模に公開されていることもあまり知られていない。もっというと、ミュージカルの部活というのは日本で全国大会ができるくらいに存在しているということはあまり知られていないのかもしれない。私もたまたま、知り合ったミュージカルのライターに日本でのミュージカル事情を教わるまで日本のそうしたミュージカル文化の存在を知らなかった。このように、日本で確実に存在しているみミュージカル文化を知るためにも、あるいはそもそもミュージカルという演劇形式についてよく知らない人にも、おすすめしたい傑作である。

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【森下豊美×松下哲也】庵野秀明のアニメはどこで生まれたのか?——1960〜80年代個人制作アニメーションと前衛

松下哲也のアート講釈日本地

https://shirasu.io/t/nipponchi/c/nipponchi/p/20220107182032

自らもアニメーション作品を制作し、個人制作アニメーション研究で非常に有名な森下豊美が惜しみなく自分の知見を披露し、庵野秀明のアニメーション表現がどのように形成されていったのかを示してくれる。1960年代の草月アートセンターは少し個人アニメーションに関心があれば名前をしる機会も多いだろうが、その流れをくんで庵野秀明が所属していた「自主アニメ制作グループSHADO」にまでつながっていることは知られていないだろう。また、庵野が20歳前後の1980年代に、1970年代でアヌシー国際アニメーションに入選していた世代が前衛活動を国内で活発に繰り広げており、もともとアマチュアアニメーターだった庵野はこうした界隈に出入りしていたのだ。庵野作品を常に社会評論や哲学的な評論に回収しがちな人々にとってみれば、刮目してみるしかない配信である。

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エミューちゃんと二人暮らし

砂漠

https://www.youtube.com/@emu_chan

2022年に開設して、40本の動画しか公開していないが、16万人登録を超えている驚異のチャンネル(2022年12月時点)。東京郊外の古い一軒家で女性会社員がエミューを飼っていて、エミューを擬人化するかたちでその生活を面白おかしく説明する。ときおり、どうしてこんな生活をしているのか自分のバックグラウンドストーリーを語るが、そちらはまっとうすぎてつまらない。とにかくすごいには、エミューが永遠の二歳児のように振る舞いつづけるのをたんたん見せること。すべて散らかす、動き回る、遊んでいるかもしれないし、そうでないかもしれない。でも、哺乳類のようなコミュニケーションはできない。たんに砂漠氏がそう思っているだけ。人間は区別できていないが刷り込みで「ニンゲンハ、ワタシノナカマ」みたいな認識はしているらしい。ちなみに、エミューは長い時間お留守番ができるので、普通の二歳児よりかは通勤などがしやすい。

女性が子育て奮闘、広くは犬猫エッセイは世の中にあふれている。たいていの場合、紆余曲折あるけれど少しづつ成長して感動、みたいなオチなのだが、そういうことも絶対におきない。エミューは脳が小さいためほぼ新しいことは学ばないし、食べ物の好き嫌いも激しく、野生ではおそらく死んでいただろう個体だ。それが砂漠氏の超人的努力によってなんとかなっている。

そうした努力をみていると、いつか生活が破綻しそうな気もするのだが、「エミューに生活を合わせる」というソリューションによってすべてを解決していてすごい。筋肉じゃなくてエミューがソリューション。

ちなみに、鳥なのでもちろんトイレの躾はいっさいできない。家の中、車の中、あらゆるところで糞尿をまきちらすが、ユーモアをもって対応する砂漠氏に感動をおぼえる。

エミューちゃんかわいい?

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Yellow

Tegan and Sara

Coldplayが2000年に“Look at the stars/look how they shine for you And everything you do/ yeah they were all yellow”と歌った。そのミュージックビデオが歴史に名を残しているのは、朝日のが登る中をフレームレート40fps程度にしながら海岸をずっと歩くChris Martinを移し、奇妙な映像空間を作り、決して真似できないが誰もが一度はやってみたい画面作りをしたからだ。そして、今回とうとうTegan ans Saraがまったく同じ曲名で同じコンセプトでミュージックビデオを撮影した。今回二人は、“This bruise ain’t black, it’s yellow”と歌い上げたが、これは驚異的である。かつて愛する人を星にたとえるための色が、傷つけ合うふたりの深くはないが浅くもない怪我として書き換えられている。だからこそ、このミュージックビデオは左から右にパンをして、Martinが歩いてきた方向に向かって進んでいく。かつての“Yellow”が左から右に向けてパンをして空と海を映して終わった続きを始めるためである。22年という長い時間をかけてようやく“Yellow”はミームとして完成し、自由になったのだ。

10

ブラックパンサーII:ワカンダフォーエバー

ライアン・クーグラー

https://marvel.disney.co.jp/movie/blackpanther-wf

この配信で2時間くらい詳細を話しているので気になる方はどうぞ。 https://youtu.be/39e6MVdadqI

9

シスターズ

脚本チョン・ソギョン、監督キム・ヒウォン

https://www.netflix.com/jp/title/81610895

毎年なからず一作は手堅いドラマを提供する韓国ドラマの中でも今年はやはり、『シスターズ』が最も優れていたのは間違いないだろう。離散していく家族、女性の連帯、グローバルな犯罪、ベトナム戦争の影、巨大企業の陰謀、莫大な遺産、などシリアス韓国ドラマにつきものの題材を完全にレベルアップさせていた。また、ありがちなヒーロー像ではなく、主人公のひとりが重度のアルコール中毒である。ちなみに、韓国ドラマではジャーナリズムはいつも信頼が寄せられる対象ではないのだが、今回もその例にならっているので、そのアルコール中毒者がジャーナリストである。大抵の場合、シリアスな韓国ドラマは海外文学を参照としているが、今回は、『嵐が丘』のヒースクリフの復讐劇を少しなぞっているが、ヒースクリフを女性にすることで何がおきるのか、というを極めて緻密に計算して脚本が作られている。圧巻の12話。

8

秘密

劇団普通

http://gekidan-futsu.com/works/himitsu/

佐藤佐吉賞2022で、優秀主演俳優賞(安川まり)・優秀作品賞・優秀脚本賞を総なめ。実際、とてもおもしろかった。舞台はほぼ家のリビングというミニマルな構成だが、2つの家族のそれぞれの話のなかには、ごく個人的な会話のはずなのに、社会的経済的諸条件によって規定されているポイントだけが抽出され、その中には小さいが確実に人生のある過程では不条理にならざるをえないことが描かれていた。ミニマルで抑制のきいた演技は静かに進んでいくのだが、ストーリーがきちんと頭の中に残っていく。「病室」も素晴らしい演劇だったが、「秘密」は間違いなく、演出家・脚本家を務めた石黒麻衣の傑作だろう。

7

KOKOPELLI

山下Topo洋平

https://topoyohei.shop/items/630691fcef80851cd6bc0a9a

驚異的なアルバム。何も考えずに聞くと、ポップなインストにしか聞こえないが、「流星群」からしてリズムがカルナバル、そのほかワイニョなど、フォルクローレの世界でできている。もちろん、リズムとしてはポップソングのものが多いが、「なーんか民族音楽っぽいな」といったように、グルーブは南米フォルクローレを残しつつ、リズムだけは違うものを採用している。なんなんだこれ。

そもそも南米フォルクローレは、ポストコロニアリズムと深く関係する重要な音楽ジャンルであり、例えば、その複雑な文化交流でうまれてきたラテン・ヒップホップが独特のリズムをもっているのも、南米フォルクローレと名付けられているスペイン語圏音楽に由来してる(ちなみに、ブラジルのポップスに相当するセルタネージョはだいぶノリが違う)。

そんなわけで、現代日本の民族音楽家の中でも際立って重要な仕事をしていることが明らかになったアルバム。知られていないのでバズらない典型だが、1万人単位の人がフォローすべきだと思う。

6

リコリス・リコイル

原作 Spider Lily/原案 アサウラ/監督 足立慎吾

https://lycoris-recoil.com

米原将磨が参加している配信チャンネルTERECOができるきっかけになったアニメ。ここで散々語っているので、気になった方はどうぞ。

5

ぼっち・ざ・ろっく

斎藤圭一郎(監督)

https://bocchi.rocks

『けいおん!』ぶりにギターの売れたアニメ。というのは、冗談として、原作者らの2010年代をJ-Rockの側から歴史化しようとする試みは、『まんがタイムきらら』それ自体についての批評ともなり、大きく成功したと言えよう。『まんがタイムきらら』の4コマでヒットしたものの多くは多かれ少なかれ学園ものである。そして、日本では理由はどうあれ、学園ものはひとつの一大コンテンツジャンルとして戦後長らく支配的ではあり、「きらら」系マンガの多くもその例にもれない。しかし、『ぼっち・ざ・ろっく』が突破しているのは、「趣味人ではあるがコミュニケーション能力は著しく低い」キャラクター造形を設定し、学校という場所から排除される構造をつくり(学内にぼっちがつどう部活のようなものもてぎない)、学校の外で能力を活かしたコミュニティをつくるという点である。この方法によって、モデルとなっている学校ではなく、下北沢シェルターに人々が向かうような外部のアジールをつくり、ごくごく一般的な成長ストーリーに仕立てている。かつて、「きらら」は日常系を生み出す根拠地とみなされていたが、近年最大の成功をおさめたといえる『ぼっち・ざ・ろっく』は王道ストーリーものであり、ある意味では、日常系は前衛的ではあるが、極めて内向きの作品だったということを示していることを改めて示した。

アニメーションについても、「後藤ひとり」の妄想という設定のために自由に表現されている点が心地よく、ラストの文化祭ライブのシーンについても、これまでのアニメで描かれてきた文化祭ライブの表現をとりいれつつ、静止画のカット割りに意味を作り、それぞれの芝居についてもすべて意味があるような表現がなされている点も、一つの到達点だった。楽曲面でも、本当にいそうなJ-Rockのイミテーション曲に少しずつ独自性をだしている曲がよかった。ちなみに、ヒグチアチが樋口愛名義で作詞している「星座になれたら」は歌詞にBUMP OF CHICKEN、曲調はthe Band apartをオマージュしていて私の好み。以上より、2022年に最も優れたアニメーションといえる。

4

中国における技術への問い 宇宙技芸試論

https://amzn.to/3D3FTu6

ユク・ホイ著、伊勢康平訳

私は編集協力してます。英語・フランス語・ドイツ語・中国語(ドイツ語についてはとくに資格もないので単語とハイデガーの訳語を一部みたぐらい)について軽くみた程度なので、大したことはしていません。訳語も綿密な議論を経て練られていたので、サジェストもほぼせず。翻訳者の伊勢さんは本当にすごい人で、「あーそう訳すのか勉強になるなー」という感じでゲラを読むのが楽しかった。仕事のあとで時間とってやったので、一週間ぐらい毎日朝3時くらいまでやってたのがいい思い出。内容については、こんどqiitaで紹介しようと思う。重要な点としては、カルフォルニア・イデオロギーとは別の可能性を考えるというということ。つまり、技術って「自由」の問題と関係していることが多いけど、「それって本当に技術の本質だっけ」ということなどを改めて問わせることができる。

3

It’s not too late for me

Beowulf

聞くモルヒネ。リンクは表題作。今年やっと2010年代後半に発表し続けたアルバムが出た。グリッチの種類、アニメからのサンプリング、ジャズピアノを使った伴奏など、lo-fi hiphopのジャンルに属すのは間違いないのだが、何かが違う。どこかでメジャーにならなくとも、Beowulfインスパイアの曲のジャンルがいつかできるのかもしれない。いまだにどう語ることで位置付けられるのかはわからないが、圧倒的に強い印象を残す。

2

弁護士はウ・ヨンウ

脚本 ムン・ジウォン/演出 ユ・インシク

https://www.netflix.com/jp/title/81518991

韓国ドラマはざっくり、歴史ものと現代ものに別れる。その後、現代ものの最近の流行はシリアス。去年73位だった「ヴィンツェンツォ」もそうだし、韓国映画もシリアスなものが評価されている。ところが、本作でもシリアス要素はなくはないが、あまりない。というのも、このドラマはたんにラブコメだから。本作がここまでランキングが高いのは、もう二度と『サイコでも大丈夫』のような作品はでないだろうと思っていたら、似た性格の障害者主人公を出しつつ、『サイコでも大丈夫』の弱点をすべて更新できたため。『サイコでも大丈夫』の弱点は、「戯画化されたサイコパス表現の踏襲にともなう新規性のなさと安直さ」「発達障害の兄に抑圧された主人公に対して、結局メンタルに問題のある女性の介助にスライドする構図のわかりやすさと安直さ」「恋愛によって障害者の介助者の負担が消えてしまうことの問題」など。ラブコメを採用することでサイコパス表象が消され、障害者の負担という問題は解決されないまま終わる責任感、すごい。なお、韓国ドラマのラブコメ様式が割とでていて、理解できないと退屈になってしまうところが多いが、ラブコメをたくさんみて様式美を理解するか、飛ばし見で対応するとよい。

ちなみに、それでも問題点はあり、「そもそもここまで来て恋愛によって何かを解決する必要があるのだろうか」や、「テンプル・グランディンの動物愛護を参考にクジラ保護運動をしているが、物語の中では男性にとってのストレスとしてしか機能しておらず、伏線にしないのはどうなのか、そもそも発達障害者が環境保護活動をするステレオタイプの助長と、法律と政治的なものの結びつきがあたかもないようにしているためにその代補して環境保護しているだけでは」など、細かいところが気になるが、チェジュ島回でのパク・ウンビンが歌う「チェジュ島の青い夜」の歌はまじでいいし、すべてをクリアする作品なんてないですよね。

1

BLUE IN BEATS

舐達麻

BACHLOGICのMIX史を考えるうえでも極めて重要。また、Ingenious DJ MAKINOのもとの“Blue in Green”のビートも大変素晴らしいが、BACHLOGICのMIXによってもとの曲よりキックの低い音の深さや、トランペットの挿入の音質がクリアになり、途中に入る、装飾音的なサンプリング音源の使用もカットされていて瞠目。

Ingenious DJ MAKINOはthe BOSSの“REMEMBER IN LAST DECEMBER”にも曲を提供しているように、もともと界隈では有名人。2000年代のnujabes以後の影響下で、どのように表現するかでかなり独自の路線をだせていた。これをdigった人はすごい。

よく、nujabesの名前がでてくるので整理すると、ようはlo-fiヒップホップと呼ばれているジャンルの先駆みたいに位置づけられる。lo-wiよりずっと拍数が多いので、lo-fi自体ではないので注意。では、どこに先駆性があるかというと、いわば「チル」感を感じるようなメロディラインやサンプリングを確立したこと。

面白いのは、このnujabes影響は日本では独自の発展を遂げて、10年代なかばにはDJ OKAWARIとか、Green Assassin Dollar/SAC/7 seedsなどなど、様々な「チル」がでてきて、それがなぜかギャングスタラップなどサグ系と結びついていった。ゼロ年代を通じての発展なので、正確な歴史については今後の研究を待ちたい。

今回の楽曲では、舐達麻の歌詞のクオリティも高い。BADASAIKUSHが最初と最後にリリックを書いている構成は代表作「BUDS MONTAGE」を筆頭に、他の曲でもよく見られるが、今回はいつもより数小節ぶん長く、1分近く長い曲になっている。「BUDS MONTAGE」より内省の多い表現がおおくなったぶんがそのまま曲の長さに反映されていると考えられるが、全体をとおしてみるとメタファーと思索の釣り合いがとれているので読みごたえのある詩となっている。また思索が深くなったぶんだけ、「たとえ1人になり 誰も理解しなくなり見失う時に それが日々しかし俺はこの世1人隠れる必要無し」といったようにパンチラインの長文化が起きている。舐達麻(というかBADSAIKUSH)研究的には気になったポイント。

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佐藤正尚 南礀中題

Dion式ベストハンドレッド2021

さやわか式ベストハンドレッドに影響を受けて、自分でもベストハンドレッド2021を作成。2021年1月から12月までに登場したコンテンツならなんでも対象にして、上位100を選出。暇な人はお付き合いください。

100位

シル・ヴ・プレジデント / P丸様

今年一番日本人に認知されたフランス語っぽいもの。エロゲ音楽に由来しているタイプのボカロ系の曲の特徴をよく捉え、かつ、ミームになるような編曲など、年代に最適化された音楽。ちなみに、「シル・ヴ・プレ、ル・プレジダン」とすると通用するフランス語になり、大統領にお願いすることになる。そして大統領にお願い、というか語りかけるシャンソンといえばBoris Vian / Le déserteur

99位

秀和幡ヶ谷の変 / 秀和幡ヶ谷レジデンスの管理組合

秀和幡ヶ谷レジデンスの管理組合といえば、マンションの資産価値を下げるほどの体制を敷いて話題になっていたが、ついに理事交代になったそう。民主政が機能している不動産案件。一方で、NMRパイプテクター導入といった残念なマンションが多いので、マンションに住む気にはなかなかなれない。

98位

Pineapple Kryptonite (Official Music Video) / 新しい学校のリーダーズ

なんかよくわからんけど面白い感じがした。砂漠にセーラー服というシュルリアルな感じだけど、カット割りにコミカルさがなく、そのギャップが良かった。

97位

カウポーイビバップ / ALEX GARCIA LOPEZ

https://www.netflix.com/browse?jbv=80207033

実は良かったと思っているが、シーズンで打ち切りになってしまった。キャラの再解釈も正しく、ドラマとして成立していて、スペースオペラものとしては良かったのでは、という感想。そして、実はアニメはアニメーション表現によって物語のある種の空疎さが隠されていたということも明らかにしてくれたのでランクイン。

96位

閃光のハサウェイ / 村瀬修功

http://gundam-hathaway.net/

モビルスーツが飛び交う夜間での市街戦の描写は本当に良かった。物語についてはどうでもよかった。エコテロリズムについてかなり空疎だった。小説版とオチを変えるのかどうかは気になる。

95位

台本冊を入手 五輪開会式“崩壊” 全内幕 計ページにすべての変遷が / 「週刊文春」編集部

https://bunshun.jp/denshiban/articles/b1436

五輪開会式についての感想は、一般的には「良い」、または「関心がない」だと私は勤め先の人の話を聞いて思った。なので、大衆全体で文化に対する関心が低く、政府がそれを主導する気もない、ということが明らかになった。もはや、政治的資金を用いた大規模な行事の中で文化や技術を高めることは国内ではありえないのだろう。これは是非の問題ではなくて、今後の行政と芸術の関係のあり方について多くを教えてくれている。年東京オリンピックは忘れがたいものとなるだろう。

94位

豚バラのキムチーズサンドを焼いてハイボールをキメるだけの動画 / リロ氏のひとり遊びちゃんねる

意味もなくスタイリッシュで、凝っているようにみえてまったく大した料理を作っていないけれど、美味しそうに見える不思議な動画。クッキング動画の新しいスタイル。

93位

脱構築研究会 Association for Deconstruction(youtubeチャンネル) / 脱構築研究会 Association for Deconstruction

https://www.youtube.com/channel/UCrZIUDEX3fKAf1abz4EhHoA/featured

意味不明なほど硬派な哲学チャンネル。デリダの『条件なき大学』を思想的根拠にしているのかな、と勝手に思っている。

92位

Anya Taylor-Joy: In The Bag | Episode 54 | British Vogue / British Vogue

ドラマ『クイーンズ・ギャンビッド』で一躍時の人なったテイラー=ジョイのインタビュー。スペイン語・ロンドン英語のバイリンガルだが、 なのにスペイン語でインタビューに答えるところから始まり、こぶし大のクリスタル、オブシディアン、ターコイズなどを手にもつと安心するといって取り出すといった終始圧倒されるインタビュー。必見。

91位

パンツ(エアホールド) / MICHEL KLEIN

https://www.itokin.net/d/item/detail/MNLCM49170

スキニーパンツの中ではかなり革命的。伸縮性が高く、長時間履いていても疲れない。しかも、春先くらいなら、下にロングタイツ系の下着を穿かなくてもぜんぜんいけそう。

90位

国家と市場 ── 国際政治経済学入門 / スーザン・ストレンジ

https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480510143/

2021年文庫化。解説にある通り、現代国際政治にそのまま当てはめることはできないが、やはり、「生産」・「金融」・「知識」・「安全保障」の四つの分析の基軸はいまでも通用する。

89位

火星の廃墟 / 佐藤正尚

http://www.seidosha.co.jp/book/index.php?id=3564

私が書きました。シン・エヴァンゲリオンにおける廃墟の美学について、思い出を交えたエッセイ。火星は好きな惑星です。来年は系外惑星についてもっと知りたい。

88位

Speaking of Happiness / Franz K Endo

All in Good Timeが界隈に衝撃を与えたEndoはいつのまにかAmazon Primeにも進出。Youtube作品のSpeaking of Happinessでは、All in Good Timeのサイケな演出を抑制して、カット割りが落ち着いている一方で、物語の表現もストレートになっていてわかりやすい。今後も期待。

87位

Presence V (feat. T-Pablow) [with 3exes] / STUTS、松たか子

デビュー当時のT-Pablowを知っていた人の誰が一体、松たか子とコラボすると考えていたのか。『大豆田とわ子と三人の元夫』は私がたまたま見た回で松たか子が、干していた敷布団が風に舞ったのを見て、「布団がふっとんだ」といってはにかんでいて、ジャンプショットの弛緩ぶりに視聴する気がなくなってしまったのだが、たぶんいいドラマなのだろう。

86位

新宿IKEA / IKEA

https://www.ikea.com/jp/ja/stores/shinjuku/

新宿はニトリに加えて、ができ、どちらも常に混んでいる。といえば、家具のレイアウトスペース再現だが、ほぼ単身世帯に焦点を当てているのが新宿店の特徴。買い物客は家族層も多く、フードを買い求める姿を見る。新宿の買い物文化を変える可能性がある。

85位

同志少女よ、敵を撃て / 逢坂冬馬

https://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000014980/

物語の構成は抜群によかった。ただし、テーマは、そもそもの『戦争は女の顔をしていない』が強すぎて、あまり哲学的な深さがなかった。設定のラノベっぽさや、ロシア人のはずなのに日本人に理解しやすすぎる心理や行動が気になった。

84位

Street Sermons/Morray

ラップでは、チル寄りが趣味なので、私に対して抜群にヒット。ノースカロライナ州ファイエットビル出身の彼の見てきた世界を歌に込めていて、しかも聖歌隊にいた経験があるためかラップがうまいだけでなく、ただただ美声。サザン/ウェスト/イーストにとらわれない楽曲編成の今後に展開に期待。

83位

【世界一危険な仕事】ブラジルの金鉱山で億円以上儲けた男 / 丸山ゴンザレスの裏社会ジャーニー

たまに「丸山ゴンザレスの裏社会ジャーニー」を見ていて、ガリンペイロの話は面白かった。高度経済成長時代に世界に四散した日本人の奇妙な物語の顛末。

82位

Le livre ou la vie – Michel Houellebecq / Michel Houellebecq

新作anéantirが出版される前の最新のウエルベック御大の話しぶりはひたすら皮肉を言い続けるスタイルで、フランス的なユーモアを感じさせて大変良かった。なお、ウエルベックは昔のフランスのハードカバー装丁が好きで今回はこだわったそうだが、私はそういうのに全く関心がない。「文学は、(この世界の)流れから断ち切るような道具ではないのです(La littérature n’est pas, celui que,  c’est un outil de déconnecxion par rapport au flux)」という断言が印象的だった。SFはそれができているらしく、『服従』のときには、リアルな政治シミュレーションを描くと日本では評判な作家だが、ラヴクラフト論からずっとリアリズムに対して批判的なことを改めて思い出させる。

81位

朝倉の古墳 ~いにしえの首長墓とその周辺~ / 甘木歴史資料館

https://www.city.asakura.lg.jp/ama-reki/nenkan_kikakuten.html

漢文の彫られた銅鏡を見ることが出来て本当に感動した。九州と大陸の近さ、神武天皇の東征がなぜ九州から始まったという物語にする必要があったのかがよくわかる展示だった。毎年似たような展示をしているのかもしれないが、たくさん貴重な銅鏡が見られたのは本当に良かった。

80位

リバー・ワールド / 川合大祐

http://www.kankanbou.com/books/poetry/senryu/0453

句集。川柳とのことだが、ほぼ無季自由律俳句。「トマト屋でトマトを売っている泣けよ」はなかなか衝撃的だった。現代詩は混迷していてまったくわからない世界に突入しているが、川柳というスタイルのためか、ギリギリわかる。値段も高くないので、現代詩として読むのも一興。

79位

【詠春拳×空手】あなたにできる?破壊力の秘密!現代格闘技と古流武術のトレーニングの違い/-熊澤 伸哉- Sinya Kumazawa

アランジョ・フェッボ・アレッサンドロの詠春拳の鍛錬動画。今もこんなことをやっている人がいることがすごい。完成された動作は美的な感奮も与える。スパークリングをしていて、かわしたはずの拳が熊澤の鼻にぶつかって折れてしまったそうだが、毎日コンクリートを殴っている拳なので、さもありなんと思った。

78位

ブラリ事件 人家族集団死の真相 / リーナ・ヤーダヴ

https://www.netflix.com/browse?jbv=81095095

インドで実際に起きた怪事件のドキュメンタリー。人の家族が集団で自殺するというもの。集団心理の怖さがよくわかる。また、メデイアの妄想としか言えない報道の数々も紹介されていて、センセーショナリズムについても内省させてくれる。

77位

Neeva / Neeva Inc

https://neeva.com/

広告無し、サードパーティアプリに個人情報を渡すことでの売上もなし、支払いを課すことで検索をより良いものにする、というチャレンジ。ビジネス的に成功できそうにないが、検索を支配する権力の一つである資本力の優劣から逃れる理想論には共感。

76位

根のないフェミニズム フェミサイドに立ち向かったメガリアたち / キム・インミョン、カン・ユ、イ・ウォニュン、クク・チヘ、イ・ジウォン、ヒヨン、チョン・ナラ、パク・ソニョン

https://www.ajuma-books.com/%E6%A0%B9%E3%81%AE%E3%81%AA%E3%81%84%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%9F%E3%83%8B%E3%82%BA%E3%83%A0

韓国のフェミニズム運動シーンが気になって読んでみると、思ったよりすごい世界が広がっていた。とはいえ、思い返すと日本の男子大学生や男性社会人でも少なからずここで取り上げられているようなことを日常的に言っているので、日本での出版も非常に頷ける。

75位

Wink / CHAI

https://smarturl.it/chai.WINK

「ほくろはチョコチップスかもね」が頭から離れない。ディスコ・パンクはほとんど聞かないが、このアルバムは日本語の言葉あそびが心地よく、よく聞いていた。

74位

ガールズ・メディア・スタディーズ / 田中東子編

http://www.hokuju.jp/books/view.cgi?cmd=dp&num=1169&Tfile=Data

メディアスタディーズの書籍でジェンダー研究だけをほどよくまとめた書籍はないので、この書籍の登場で最近のメディアスタディーズにおけるジェンダー研究概観を知ることができた。

73位

ヴィンツェンツォ / キム・ヒウォン、パク・ジェボム

https://www.netflix.com/browse?jbv=81365087

ソン・ジュンギ主演。のオク・テギョンも出ていて、豪華な配役。ユ・ジェミョンはヒット作に出過ぎていて怖い。韓国で養子になったイタリアンマフィアの韓国人が受取人が死亡して持ち主のいなくなった金塊を回収するためにマンションに行くが、すでに再開発計画があり住民は反対運動、人権派弁護士も事務所を構えて徹底抗戦、敏腕マフィアがコミカルな登場人物たちに振り回されて……、と実はわりとコメディ。暴力を正当化するためにオク・テギョンは相当なサイコパスな人物を演じさせられているが、韓国ドラマの一つの限界として、悪はわかりやすく悪、サイコパスにする、というものがある。とはいえ、コメディとシリアスの配分が絶妙で名作。

72位

レインコートキラー ソウル人連続殺人事件 / ジョン・チョイ、ロブ・シックススミス

https://www.netflix.com/browse?jbv=81087760

韓国の連続殺人事件を取材したドキュメンタリー。年代にあった戦後最悪の連続事件の関係者にインタビューしていく。韓国警察に初めてプロファイリングが本格的に導入されたのがこの事件だったそう。韓国におけるサイコパス表象の通俗化にはこの事件の犯人の報道が淵源なのかもしれない。

71位

哲学の女王たち / レベッカ・バクストン、リサ・ホワイティング

ボーヴォワールの解説はそれほど長くはなかったが、価値観をだいぶ変えられた。その他も記事として楽しく読めた。ただし、フッサールの草稿まとめをさせられていたエーディト・シュタインの記述は学術的に間違っている部分があるとのこと(https://twitter.com/GenkiUemura/status/1415516487859671046)。

70位

イカゲーム / ファン・ドンヒョク

https://www.netflix.com/watch/81262746

デスゲームを再構成することで世界的コンテンツにできることを示したドラマ。イカゲームを日本で製作できなかったを恥じるのはわかるけれど、剽窃の指摘をしている日本人はどうしようもないと思う。たぶん、そういう人たちは書影の登場するジャック・ラカン、台詞ででくるウィリアム・コングリーヴ、画面構成で参照されているジャック・タチなど全くわからないのだろう。私たちは努力すべきことがまだまだある。

69位

【1ヶ月熟成肉】美味しかったランキングトップ5 / ホルモンしま田

一ヶ月熟成肉シリーズはすべておすすめ。毎回紹介される様々なビールが気になってそれも飲みたくなる。古代からの食料保存技術に思いをはせることができる。ホルモンしま田では、熟成肉のほかに肉醤を作った回が良かった。

68位

TEIガイドラインにルビが導入:人文学向け国際デファクト標準に沿った日本語テキストデータの作成が容易になりました / 永崎研宣

TEIで公式にルビがサポートされることに。これはすばらしい試み。ルビ文化を訓点や脚注・欄外注と区別することは技術的に難しく、その労力は凄まじい。これが公式に採択されたことは日本語テキストのデジタル化に大きく貢献だろう。背景などをわかりやすく解説したのがこの記事。

67位

現代スピリチュアリティ文化論 / 伊藤雅之

気軽に手にとって読んだところ、ハラリの指摘にあるような個人に価値があると見出すヒューマニズムが現在最大の宗教というは、もっと丁寧に歴史を紐解くことができるとして、マインドフルネスブームの思想的な背景を追っていくのは読んでいて非常に面白かった。その手のことに関心がある人は必読。

66位

Who I Smoke / Yungeen Ace、 Spinabenz、 FastMoney Goon

誰もThousand Milesを殺人事件の暗示でサンプリングするなど思いつかなかっただろう。数年後誰も覚えていないだろうが、衝撃的なサンプリングだったのは間違いない。

65位

Criminal Lawyer Reacts to Spinabenz – Who I Smoke / CLR Bruce Rivers

Who I Smokeのリアクション動画で一躍時の人になった刑事事件専門の弁護士Bruce Rivers。真面目なコメントがかえって面白い。他の動画も見ると、ギャングスタラップの殺人のほのめかしや銃器の扱いについて危険を述べ、犯罪事件について良心的なコメントをするいい人であることがわかる。

64位

闇の自己啓発 / 江永泉、木澤佐登志、ひでシス、役所暁

https://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000014734/

縁あって著者の一人が知り合い。親知らずが印象的。全体的に評論同人誌全盛期をの思い出さてくれる、いい本。

63位

LES MESSES NOIRES DE MICHEL FOUCAULT, LE BULLSHIT DE GUY SORMAN / lundimatin

https://lundi.am/Les-messes-noires-de-Michel-Foucault-le-bullshit-de-Guy-Sorman

フーコーが児童買春していたというニュースが、実は左派がフーコー好きだったので嫌がらせのために右派系の論客がでっちあげた、ということを事実関係の調査から追っていった記事。読み物として面白い。ただ、右派だってフーコー好きでもいいのでは、と思うのだが、そういう人はやはりいないのか。

62位

祝融号の火星着陸写真 / 天宇·追箭者联盟

https://gigazine-net.webpkgcache.com/doc/-/s/gigazine.net/news/20210628-china-zhurong-rover-footage-sounds-mars/

中国の火星探査機の写真。いよいよ宇宙開発時代が再来したようで良かった。火星に最初に有人着陸するのはどの国なのか目が離せない。

61位

批評の教室─チョウのように読み、ハチのように書く / 北村紗衣

https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480074256/

「批評」を北村紗衣の研究テーマである受容論の立場から説明し、ファンがいかにして作品について伝わるように語るかに焦点を当てている。実はテーマとしてはかなり珍しい本。万部刷りを超えているそうで、びっくりだが、マーケット的に正しかったようだ。ただし、あくまで入門書なので、退屈な人には退屈。

60位

書評チャンネル in シラス第1回: 『仏教とエクリチュール: 大乗経典の起源と形成』(東京大学出版会、2020年) 上七軒文庫チャンネル in シラス

https://shirasu.io/t/kamishichikenbunko/c/kami7kenbunkoshirasu/p/20210412180538

『仏教とエクリチュール 大乗経典の起源と形成』だけの書評番組。年を代表する著作の一つを仏教研究者が東西の仏教研究の歴史など踏まえつつ、深く掘り下げる素晴らしい番組。

59位

灶門坎(ザオメンカン) 池袋西口店 / 灶門坎

https://goo.gl/maps/FHHWiQ2XWQyMbP4r6

串焼きと貝焼きのレベルが信じられないくらい高い。串は、羊、豚、牛、どれをとっても満点。ただ、私が教わっていてる中国語ネイティブの先生は「あそこはまぁまぁ」とのこと。どうなってるんだ中国。店内の内装は、もともとライブハウスかダンスフロアだったものを改装しているため、独特。中華ポップスのカラオケがずっと投影されているのもおすすめ。

58位

【築年中古住宅&;#壁天井張り付け編】畳和室から洋室へ【夫の手取り万でも専業主婦を諦めない】 / よめ子

「専業主婦」の名のもとに、購入した築年の家を時間をかけて改装していくあるエンジニアの動画。動画の編集もウィットに富んでいて、飽きない。この回と断熱材の回が私のお気に入り。 https://youtu.be/ovmUowGoPpA

57位

初めての学入門 / 古谷経衡の全軍突撃

https://shirasu.io/t/aniotahosyu/c/aniotahosyu/p/20211122155423

UFO、好きですよね? UFOといえば、幸福の科学が連想されるようになってしまった昨今、90年代オカルトブームとSF好きにとってかかせないミームであるUFOについてわかりやすく解説する動画。NETFLIXやヒストリーチャンネルのUFOものより、ほどよく情報が取捨選択されているので、おすすめ。

56位

防衛省の研究 / 辻田正佐憲

https://www.asahi.com/corporate/info/14506053

『空気の検閲』で内務省の研究を通じた政府の権力論、『文科省の研究』を通じて日本人論、そして本作にて安全保障を取り上げ、国体を構成する3つの要素(権力・国民・軍事)について論じきった。どの著作も面白いが、今回は戦後の日本の安全保障について非常によくまとまった理解ができた。私自身、守屋が現役だった頃の政治闘争についてまったく理解できていなかったので、楽しく読めた。

55位

【小特集】「進化論誤用・悪用・濫用」問題 / 科学史研究 2021年10月号 No.299

https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jhsj/-char/ja

ダーウィンとアインシュタインは常に一度も言ったことがない出典不明な名言の主だが、この特集ではそのあたり事情がほどよくまとめられていて、今後ダーウィンの世俗化について調べていくうえで一番まとまった資料になっている。

54位

ムーブ・トウ・ヘヴン 私は遺品整理士です / キム・ソンホ、ユン・リジョン

https://www.netflix.com/browse/my-list?jbv=80990381

『愛の不時着』で北朝鮮兵士の一人を演じたタン・ジュンサンが主人公のホームドラマ。幼馴染の女の子、実は弟思いの兄、そんな兄のことを幼い頃のある体験のせいで嫌っていた弟、そして彼はその兄の息子の後見人になることになる。典型的な家族ものだが、主人公が自閉症であり、弟は地下MMA選手、しかも仕事は遺品整理というなかなか凝ったつくりの作品。最後にシーズン2の予感がある終わり方をしているが、本当にあるかの謎、また、あったとしてもラブコメになりそうで少し心配。

53位

THIS IS POP :ポップスの進化 / オートチューン

https://www.netflix.com/watch/81058760

オートチューン発明者から、T-Painいじめ問題まででてくる面白い回。後半は表象文化論的にはアウラ問題や聴取の考古学にも迫っているのでこの回だけでも見る価値がある。

52位

Cold Beer calling my name / Jameson Rodgers, Luke Combs

毎年必ずあるカントリーのバカソングは、その名も「冷えたビールが俺を呼んでる」。カントリーのメロディとしてはここ5年ほどの作り方として平凡だが、労働者の感じを全力で出している感じがウケたのか。私も確かに、そういう気持ちで生きていることがある。

51位

令和元年のテロリズム / 磯部涼

https://www.shinchosha.co.jp/book/353871/

ドンキュメンタリー映像が好きな人にとって、アメリカほどドキュメンタリー文化が育っていない日本では、その手のものは本でしか読めない。京都アニメーション放火殺傷事件に注目して読んだ人が多いかもしれないが、川崎殺傷事件の殺人犯の抱えていていたある種の虚無さは、文学の無力さを感じるほどのものだった。

50位

กักตัว / Violette Wautier

カランティーン、とたぶん読む。なので。タイ語ポップスが気になって調べたときに見つけた。ベルギーとタイ国籍の親に生まれ、出生地は神奈川県横浜市。ミュージシャンとしてはこの曲で一つ頭が抜けたが、時勢に寄りすぎた曲なので今後は未知数。頑張ってほしい。

49位

Taylor Swiftのセルフカバーアルパム / Taylor Swift

https://www.taylorswift.com/

版権の関係で旧盤の発売停止をどうにもできないということで、Taylorのセルフカバーが計画が開始し、今年は2枚出た。FearlessとRED。しかし、ただのセルフカバーではなく、技術的にすべて向上しているので、前の版よりむしろよくなっていた。今後はこちらしか聞かないと思う。

48位

ゴジラ S.P <シンギュラポイント> / 高橋敦史

https://www.netflix.com/watch/80198461

円城塔脚本アニメがこんなに面白くなるなんて全く思ってなかった。しかも、『Self-Refernce Engine』とセカイ系を正直につなげていて、円城塔のようにいったんセカイ系をメタレベルで解体して再度整理するのであれば、セカイ系も悪くないかもしれないと思った。そもそも、セカイ系ゴジラってアツい。

47位

縄文

サントリー学芸賞で竹倉史人『土偶を読む』が受賞したことが記憶に新しいが、今年は研究書でも一般書でも縄文関係の本がたくさんでた。設楽博己『顔の考古学 異形の精神史』、小川侃『梅原日本学の源流』、白石浩之『旧石器時代から縄文時代への転換 土器が出現する頃の文化変動』、岡田康博『三内丸山遺跡』、安斎正人『考古学者の思考法 』、藤尾慎一郎『日本の先史時代 旧石器・縄文・弥生・古墳時代を読みなおす』、小宮孟『イヌと縄文人 狩猟の相棒、神へのイケニエ』など。他にも何冊かでている。久しぶりの縄文ブームだった。

46位

大麻の社会学 / 山本奈生

https://www.seikyusha.co.jp/bd/isbn/9784787234926/

グリーンインダストリーの話なのかな、と思って買うと、まさかの昔からその筋で有名な研究者だったそうで、日本における大麻規制議論がどのように成立しているかを丁寧に論じた著作。日本でのここ最近大麻合法のデモがあることなど、普通に勉強になった。

45位

みを / カラーヌワット・タリン

タイ人古典研究者の開発したくずし字認識アプリ。くずし字を読める人口は減り続けているのに、古典籍の研究者の多くが自動認識に批判的だというのは想像に難くない。しかし、こうしたツールで学習コストを下げないと、くずし字半読者人口はますます減っていくだろう。一部企業も認識システムを開発していたが、アプリに展開などしていない。ビジネスチャンスがないからだ。なので、CODHといった公的組織の後援が重要となる。そうした支援と彼女のたゆまない努力によって成し遂げられた成果物だ。DL必須。博物館の文書を読解する、適当な古典籍を買ってきて試すなどすると楽しい。

44位

Easy on me / Adel

アルバム『30』より。何よりまだ30歳なのがびっくり。風格がすごすぎる。Helloぶりのストレートなポップ・バラード。力こそ感動、の一曲。

43位

Happier than ever / Billie Eilish

https://en.wikipedia.org/wiki/Happier_Than_Ever

彼女が生まれた頃のオルタナティブミュージックを研究して構成されたアルバムで、どこか懐かしいメロディ。私たちの世代にはたまらない懐古的な雰囲気な一方で、ちゃんと2020年代の構成をしていて才能が嫌になる。

42位

Accent Expert Gives a Tour of U.S. Accents – (Part 1) / WIRED

アメリカの方言について知ることができるWIREDの教養番組。やたら発音をネタにするバイリンガル動画が増えてきているが、あちらを入り口にこうした動画を見る方が生産的。バイリンガルといえど、音韻論のわからない人の話は聞いても時間がもったいない。何より、無料でこのクオリティはすごい。

41位

ダウンボリュームジャケット / ユニクロ + J +

https://www.uniqlo.com/jp/ja/products/E443929-000/00?colorDisplayCode=01&sizeDisplayCode=004

ジル・サンダーがデザイン協力した、ユニクロ史上最もかわいいジャケット。ホワイトは瞬殺されていたが、ホワイトが一番かわいい。

40位

アサヒビアリー / アサヒ

https://www.asahibeer.co.jp/products/bialcohol/beery/

ヴェリタスブロイ程度の美味しさで買えるノンアルビールを探していたとき、発売されていたコンビニでたまたま買ってそのおいしさに驚いた。今後の日本のノンアルビールの水準となる美味しさだった。

39位

Olivia Rodrigo / Olivia Rodrigo

https://www.youtube.com/channel/UCy3zgWom-5AGypGX_FVTKpg

ディズニー出身勢。 のもう一つの可能性だった……。かなり頭のいい人らしく、ティーンの鬱屈を計算して歌っているうえ、ずっとビルボードチャートにいた。 Drivers Licenseが耳から離れない。

38位

科学技術社会学(STS)テクノサイエンス時代を航行するために / 日比野愛子、鈴木舞、 福島真人編

https://www.shin-yo-sha.co.jp/book/b588100.html

STSの入門本として最も優れている本。STS関係では『ラボラトリー・ライフ』の翻訳が出たが、正直こっちを読んだほうが良い。STSの射程は広い。あと、個人的に福島先生と知り合いなのだが、ゲンロンカフェでトークをしたら楽しい人。

37位

言霊 / 阿修羅MIC、孫GONG、漢 A.K.A GAMI

MC三人に加えて、GREEN ASSASSIN DOLLAR・FEZBEATZ・Spikey Johnが揃っているので、あの界隈が大集結している点で、ウォッチャーとしても注目の楽曲。

36位

邪馬台国前後の古代日本史(あやしい) / minerva scientia

木簡などでの考古学的考証や文献学的な精査に不安があるが、邪馬台国がどこにあるかを、当時の音韻を復元することで迫るかなり興味深いアプローチ。共同研究の新しい展開の可能性がある。

35位

D.P. -脱走兵追跡官- / ハン・ジュニン、キム・ボドン

https://www.netflix.com/browse?jbv=81280917

シーズンも決まっているドラマ。脱走兵逮捕の仕事をする中で脱走原因のほとんどは、いじめということらしく、いじめ問題にフォーカスがあてられる。脱走兵の居場所を特定するミステリ要素で基本的に引っ張っていく前半と、主人公と親しかったいじめられっ子のオタク男性の人格が破綻していく後半の構成。かなり軍隊批判の要素が強いのだが、こういうドラマを放送できる韓国の文化コンテンツの地位の高さを感じた。

34位

聖徳太子と法隆寺 / 紡ぐプロジェクト

https://tsumugu.yomiuri.co.jp/horyuji2021/

聖徳太子を中心とした世紀の日本仏教の様子を知ることができる貴重な展覧会。類例のない四天王像も来ていて、展覧会の文脈でみたときにその価値がわかるようになっているなど、展覧会構成もよかった。ただし、聖徳太子信仰については謎だった。

33位

デューン / ドゥニ・ヴィルヌーヴ

https://wwws.warnerbros.co.jp/dune-movie/

いまののすべての元ネタが入っている『デューン』の映画化。なぜいまさら、とも思ったが、ヴィルヌーヴにはなにかそういうものが託されているのかもしれないし、『ファウンデーション』のドラマ化しかり、古典作品を比較的安価に製作できる環境が整ってきたのかもしれない。ちなみに内容は、やっぱり『デューン』だった。ヴィルヌーヴは画面構成をかっこよく作れる人で、『マトリックス リザレクション』を観ると、やっぱりヴィルヌーヴはすごいなと思った。

32位

革命と住宅(3) 第2章 コムナルカ──社会主義住宅のリアル(前) / 本田晃子

https://www.genron-alpha.com/gb060_01/

コムナルカは本当にやばい。社会主義における家族の解体の思想について丁寧に追っていく一連の論考の一つなのだが、驚異的な話が続いていく。

31位

料理と宇宙技芸(4) 炒飯 / 伊勢康平

https://www.genron-alpha.com/gb059_02/

鍋の気の話が本当に面白かった。炒飯を作ることは本当に難しいので、哲学的においしいレシピは見事だった。

30位

火星へ / メアリ・ロビネット・コワル

https://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000014874/

コワネルの宇宙女性飛行士シリーズの邦訳第二弾。フェミニズム第四波以降のキャリアと家庭のテーマを火星探査に伴う時間経過によって表現し、しかも火星までの旅程もスリリング続き、同性愛をテーマにした仕掛け、など矢継ぎ早に展開されてうなるほど面白かった。

29位

【講義回】PCゲームのハッカー文化を整理する——デモシーンからVTuberまで 松下哲也のアート講釈日本地

https://shirasu.io/t/nipponchi/c/nipponchi/p/20211105144600

MOD文化から始まる、マシニマやUnreal Engineの登場のタイミングなど、現代のVFXではかかせなくなったゲームエンジンの歴史を簡単に把握することができる。2000年代洋楽をyoutubeで漁っていた人は、あの謎の3DCGの自主制作PVがマシニマよるものということを知ることができる。

28位

ケア

2021年の批評のキーワードは「ケア」だった。「ヤングケアラー」が人口に膾炙し、文芸批評としては小川公代『ケアの倫理とエンパワメント』が出た。桜庭一樹による鴻巣友季子への公的な時評取り下げ要求の際にも、桜庭の小説は介護を描いたもので、鴻巣は小川などの一連の批評を念頭においていた。なお、この鴻巣・桜庭は2016年に「E・A・ポー ―― ポケットマスターピース〈09〉」で編著をしている。哲学方面では、徳永哲也『正義とケアの現代哲学 : プラグマティズムから正義論、ケア倫理へ』などが出た。ギリガンとノディングスについて体系的に学ぶことができる。2018-2019年は絶滅/ポスト・ヒューマン、2019-2020年は感情・情動(affect/emotion)で、2021年はケアの年だった。来年はその2つが結びついて新しい実存主義となるのかもしれない。

27位

理論編(スポーツ #1)「水中批評への道!まずはスキューバダイビングについてあなたの誤解を解く!」 / さやわかのカルチャーお白洲

https://shirasu.io/t/someru/c/someru/p/20211106215714

スキューバダイビングについて完全に誤解していたので、大変勉強になった。スキューバのゲーム的な感性や実際の映像など、興味深い。スキューバ界に外部から新しいロジックをもった業者が来れば、ビジネスチャンスに確かになりそう。

26位

【音楽講義回+突発ゲスト回(山下Topo洋平さん)】特製音源10曲でたどる国歌「君が代」超入門〜いかに誕生し、定着し、戦争を乗り越え、論争になり、そして法制化されたのか?〜 / 辻田真佐憲の国威発揚ウォッチ

https://shirasu.io/t/tsujita/c/beobachter/p/20211224

山下Topo洋平のケーナ演奏によるフェントン版、行進曲版、唱歌版、そして海ゆかばを聞くことができるだけでなく、辻田正佐憲による解説で歴史や社会に与えた影響について丁寧に聞くことができる。飲みすぎた辻田が電話参加の山下を置き去りにして寝てしまうが、山下が君が代をケーナで演奏したところ、その刹那に覚醒するシーンは大笑いできる。

25位

擬死的アディクション――現代実在論と東浩紀の(非)ポストモダニズムの関係について / 仲山ひふみ

http://www.seidosha.co.jp/book/index.php?id=3566

近い世代の同ポモ論として感銘を受けた。注釈なしでこうした自由な文章を書くことはとてつもなく尊い。寝付けない深夜に一気読みした。自由の唯物論的再構築のプロセスは、仲山は美学にも非常に通じているので、美学において自由を唯物論的に再構築してほしい。

24位

アウン・コーヒー MYANMAR COFFEE LAB

ミャンマー人と日本人で運営しているカフェ。フルーティーな味のコーヒーはあんまり好きではなかったのだが、ミャンマーコーヒーの場合は全然平気だった。特に、カフェメイミョーという練乳のカフェオレがとても美味しい。豆も売っているので関心のある方はぜひ。軍事政権反対運動の影響で荷役の人々がストなどをしているせいで、ときどき入荷の危機になるというのでふだんはこちらで豆を買うようにして応援中。

23位

The Values in Numbers Reading Japanese Literature in a Global Information Age / Hoyt Long

日本文学研究者で、先行研究をおさえたうえで計量文献学の手法を取り入れて分析するすばらしい著作。日本人研究者が私小説というジャンルにおける私の概念について喧々諤々の論争してきたが、実はあまり指摘されていない「そもそも言葉遣いが同時代の別の小説と違う」という点を統計的に示している部分など白眉だった。読んだままの偏見を超えるために必要な道筋を示している。

22位

テスカポリトカ / 佐藤究

https://kadobun.jp/special/tezcatlipoca/

ここ最近の直木賞作品で一番面白かった。NETFLIXとかにありそうなクライム・サスペンスもの。メキシコ・カルテルの存在をアステカ文明とつなげ、根源的な暴力性と民族主義を繋げる政治的な表現としてかなり綱渡りなことをしているものの、犯罪の規模がでかすぎてうまく処理されていた。ただし、システムの崩壊過程を個人起因にした文学的すぎる処理が私はあまり好きではない。

21位

『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』は模型のアニメである / 松下哲也

https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309291468/

ホビー文化とエヴァンゲリオンの関係ついてはこれまで深く研究されてこなかった。松浦寿輝のエッフェル塔論を引きつつ、模型とアニメーション表現についても広く考えるきっかけになる名論文。

20位

One Last Kiss / 宇多田ヒカル

DrakeのPassionfruitを日本語で再現し、印象的なパンチラインを散りばめ、『初恋』以降も音楽的な挑戦を意欲的に続ける姿には驚嘆。PVも庵野秀明監修で、それの出来もすさまじい。

19位

当事者から共事者へ 第12回 リア充と共事 / 小松理虔

https://genron.co.jp/shop/products/detail/586

承認をめぐる問題と生存をめぐる問題のすれ違いについて自身の反省を込めつつ書いていて、非常に読ませるエッセイ。筆者は男性だが、男女問わずこうした問題に触れざるをえない瞬間があるだろう。

18位

湘遇Tokyo

https://note.com/asheng/n/n40f131e7c597

客のほとんどは中華系なので日本語で挨拶などは基本的にされない。四川料理とも違う辛さの料理で中華料理のスパイスの多様性を堪能できる。魚がうまい。

17位

ゲンロン12 / 東浩紀編

https://genron.co.jp/shop/products/detail/587

人文系の雑誌では、一年をかけて発刊できるということもあり、ゲンロンより面白い雑誌はない。今年もどの記事も面白く読んだ。ここのコメントを書くために再度かんたんに読み直したのだが、やはり面白かった。ことあるごとに読み直したい。

16位

研究業績とは何(であるべき)か? / 佐倉統

https://www.iii.u-tokyo.ac.jp/manage/wp-content/uploads/2021/03/100_2.pdf

業績の定量評価の歴史を論じた論文。信仰がいかに虚無かを明らかにしつつも、統計学による客観的評価もやめるべきではないことを示す素晴らしい論文。

15位

「させていただく」の語用論—人はなぜ使いたくなるのか 椎名美智

https://www.hituzi.co.jp/hituzibooks/ISBN978-4-8234-1056-7.htm

ポライトネス理論やベネファクティブ理論の勉強にもなるし、問題の立て方から解決までの論証など、見事な構成の書籍。楽しまさせていただきました。

14位

時間の流れと相対性理論:ゲーデルの時間論再訪 / Jimmy Aames

https://researchmap.jp/jjaames/presentations/36054670

同世代哲学者で一番私が将来を期待しているのがジミー・エイムズ。ロヴェッリの時間の非実在論など最近また時間の実在論が問題になっているが、ここでは「時間の流れ」の実在性を擁護。ゲーデル時間論では時間は存在しないが、因果ダイヤモンドなど最新の研究に基づいて時間の実在性を探求。たぶん本など執筆しているのだろうけど、単著を早く読みたい。

13位

観音像とは何か   平和モニュメントの近・現代 / 君島彩子

https://www.seikyusha.co.jp/bd/isbn/9784787210562/

日本では仏教研究が非常に進んでいるいっぽうで、仏教と日本の関わりがあまりにも長すぎるため、まだまだ手つかずの領域がたくさんある。その一つが、観音像の研究だ。明治時代以降も観音像はひたすら作成されたのだが、廃仏毀釈以後に製作された戦前・戦中の観音像の歴史的背景や、戦後の巨大観音像ブームのまとめなど、日本近代史を考察するうえでも重要な著作。

12位

Dynamite / BTS

ビルボードチャート1位になることの驚きがある。「カンナム・スタイル」のようなコミカルな要素はなく、音楽も近年のポップミュージックを研究しつくしていて、驚異の一曲。韓国の文化プロパガンダが世界的な勢いとなったことを感じさせた。

11位

ルックバック / 藤本タツキ

https://shonenjumpplus.com/episode/3269754496401369355

私と同い歳で唯一社会・文化的影響力の強い人の短編。『チェンソーマン』では、女性の肉体を食べたいという作者の欲望が外連味となっているが、物語内容はいろいろなものの切り貼りで、哲学的な深みもないし、その点についてはまったく見込みがない。とはいえ、マンガが圧倒的に、震えるほどうまい。すごい才能。画面構成、コマ割り、参照元の画面の組み合わせ、非の打ち所がない。「ルックバック」では、京アニ事件をテーマにクリエイターの実存を描いてみせたが、上記の故に、精神障害者描写がツイッターで人文思想系の学者に批判され、結果的に台詞が変えられてしまったように、人物造形が陳腐で退屈だが(私は倫理や事実よりそのガジェット感が気になってしまった)、ここが良くなってしまうととんでもないマンガ家になるだろう。なお、これについては、加害者の背景が描けないのではなく、私たちの世代はわりと大きな絶対悪が存在していて、それについては是非もないという排外主義にも通じる精神性があるのだと思う。

10位

華姐私房菜

2021年から紹仙房という馬場の店を一時的に間借りしていたが、年内にはなくなるかも。五指毛桃といった調味料のように、広東料理の奥深さを知ることができる貴重な店。信じられないくらい美味しい。店では広東語が主に話されている。

9位

さようなら全てのエヴァンゲリオン ~庵野秀明の1214日~ / NHKエンターテイメント

シン・エヴァンゲリオンを考えるうえで必聴の映像。庵野が宇部新川駅の階段を駆け上るシーンですでに感動的。

8位

ミラベルと魔法だらけの家 / バイロン・ハワード、 ジャレド・ブッシュ

https://www.disney.co.jp/movie/mirabel.html

まさかのガルシア・マルケス。コロンビアの内戦に取材して作成した映画で、家族三代の物語。女性たちが主人公とはいえ、男性にも共通した悩みをもつ人は多いはずで、幅広い層が見ることができる。『イン・ザ・ハイツ』もそうだが、今回もリン=マニュエル・ミランダが楽曲作成に参加。Hamiltonの成功といい、ミラベルよりミランダのほうがすごくないか、とも思ってしまう。

7位

国威発揚レコードコンサート 宣戦布告篇、満洲篇、終戦記念日直前企画、音楽で聴く日中戦争 / 辻田真佐憲の国威発揚ウォッチ

https://shirasu.io/t/tsujita/c/beobachter/p/20210620

https://shirasu.io/t/tsujita/c/beobachter/p/20210710

https://shirasu.io/t/tsujita/c/beobachter/p/20210813

https://shirasu.io/t/tsujita/c/beobachter/p/20211004

文化と軍歌についてまとまって勉強できる動画。戦前のレコードの低音質に伴う陰気臭さ、戦中期の短調ブーム、日中戦争の軍歌読解に求められる教養などについても解説。また、山田耕筰といった当時から実力のあった作曲家の曲は今聞いても優れていることがよく分かる。軍歌に対するある種の偏見を拭って戦前の文化と向き合うことができる。

6位

ディア・エヴァン・ハンセン(映画)/ Stephen Chbosky

https://deh-movie.jp/

ティーン向けミュージカルの新たな代表作。監督のは、近年、の監督や のライターとして活躍。年に原作が自分の映画 を監督。テイストが似ているので抜擢されたのかどうかわからないが、いい映像化だったのは間違いない。

5位

イルミネーティングサプルブレミッシュクリーム40ml / Klairs ( by Wishtrend )

https://ameblo.jp/lovewishtrend/entry-12684623897.html

KlairsのBBクリームで保湿と肌のライティングをかなり上げ、肌の肌理が細く見え、白くなる。皮膚に赤みがあり、肌が乾燥しやすい人におすすめ。今年は本当にお世話になりました。

4位

五十嵐太郎×山梨知彦×東浩紀 「いまこそ語ろう、ザハ・ハディド」 / ゲンロン完全中継チャンネル

https://shirasu.io/t/genron/c/genron/p/20210514

東京五輪での最初のつまずきの石だった新しい国立競技場案の舞台裏。安倍晋三政権が結局いかに日和見的で、だからこそメディア圧力を加えたがったのかがよくわかる。山梨が語る、突然の白紙撤回の報道を聞いた時の呆然とするチームの様子。あるいは、建築雑誌ジャーナリズムの徹底した無視、といった日本の様々な問題が浮かび上がった。必見の番組。

3位

大奥 / よしながふみ

https://melody-web.com/sakuhin/?id=3

今年完結した大傑作。『きのう何食べた?』が映画になるなど、2021年に大活躍した作家。私たちの知っている歴史では、史料に詳しく書かれていないのだから本当はこういう歴史だったのかもしれない、という陰謀論的な想像力としか言えないが、ある種の希望を残す形で物語を閉じていくことは、まさしく性差の政治的権力の脱構築。SFとしても傑作、哲学的な内省の深さも圧倒的作品だった。真ん中あたりの話を忘れているので、読み返したい。

2位

イン・ザ・ハイツ(映画) / Jon M. Chu

https://wwws.warnerbros.co.jp/intheheights-movie.jp/

チュー、ミュージカル映画こんなふうに撮れるのかい、と思った。現代のいいミュージカルの条件はできるだけ複雑な物語の展開はなく、できるだけ小さな人間ドラマに終始するべし、というのがあると思っていて、そういう点では確かに『クレイジー・リッチ!』と連続性はあるといえる。カット割り、アニメーション演出など古きよきミュージカル映画の引用もしており、非の打ち所のないミュージカル映画だった。

1位

シン・エヴァンゲリオン / 庵野秀明

https://www.evangelion.co.jp/final.html

THE END OF EVANGELION を見事に総括した。人生の中のアニメーションでベスト1。90年代で描かれていた世紀末・厭世的テーマを20年代において現実の中の可能性を生きることに直面させる見事な展開、プリヴィズ撮影技法の応用の数々などアニメーション史に残る傑作。